泡沫の夢(連載・完結)

□泡沫の夢・肆 ―永倉編―
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「 竹刀の音を聞かないと飯が喉に通らない 」





それ程剣術が好きでたまらねぇ。















八歳で神道無念流の撃剣館に入門した俺は

安政三年、十九歳の頃に剣術修行のため松前藩を脱藩し長倉を永倉姓に称した。



武士になりたくて剣術に励んだんじゃねぇ。



ただ我武者羅には剣術に向き合った結果が出奔する羽目になっちまった。



二十二歳で神道無念流の免許皆伝を許された。



その後、腕試しと訪れた試衛館に馴染んじまって食客になっちまう。



その試衛館で、俺はあいつに出会う。















名は原田左之助。



大雑把で少々喧嘩っ早いが、人情に厚く義理堅いし、なにより槍を持ったあいつは滅法強えぇ。



剣術はそこそこだが、得物を持つと最強だ。



腕の立つ奴なら総司も斉藤がいたが、左之にしか安心して背中を預けることは出来ねぇ。



文久三年二月、近藤さんらと共に浪士組上洛に参加したのは

さらなる高みを目指して、俺とあいつ二人の腕でどこまで出来るか試したかったからだ。















左之と二人、いつまでも強さを求め合って燃え尽きるまで戦い抜く――それが俺の夢だ。















――その数年後の慶応四年四月。



俺と左之は袂を分かつ。



誰よりもともに過ごした友との決別。



俺は夢から覚めちまう。
    




    



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