泡沫の夢(連載・完結)

□泡沫の夢・拾壱 ―風間編―
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東国の雪村家の女鬼は、実の兄に変若水を飲ませられたという。





「 ……四国の鬼、奴には鬼の誇りが無いのか。 愚かなことだ―― 」





羅刹の症状が出ている身体では、正常な鬼の子を生めぬ。



女鬼の利用価値は消えた――














俺は足元に幾重にも重なる死体を見下ろしていた。



辺り一帯を覆う白髪の死体は、心臓を貫かれるか、首を切り落とされていた。





「 時、既に遅し――か…… 」 





薩長の手助けをしていた俺たちは縁を切ったが、其の後釜に綱道を据えたという。



新型羅刹を引き連れた奴は、吸血衝動がある羅刹の為に大量の血が必要となった綱道が江戸で戦いを起こすと聞いてやっては来たが……



俺はクッと喉を鳴らし笑った。





「 恩義を忘れることができずに、時世に乗れなかった…… 乗ることができなかった大馬鹿野郎……



最後まで己の志に従い戦ったか……そんな馬鹿は……嫌いじゃない…… 」





羅刹の死体を避けながら、腹部に致命傷を負い木に凭れ座る躯に寄った。





「 ……たしか、原田とかいったな。 此れはおまえの仕業か 」





応える筈のない其の躯に、俺は声を掛ける。



俺は清々しい気持ちになり、片頬を持ち上げる。





「 幕府の犬と呼んだのは、貴様の生き様には相応しくなかったようだな 」





奴の存在を認め、其の生き様に敬意を表した。





「 新選組か…… 」





此処には綱道の死体は無い……



例え此の場を逃れたとしても、女鬼は鬼の血を引くものとして【雪村家】の問題を、あの沖田というまがいものの鬼と自らの手で落とし前をつけるだろう。



あの沖田という奴の生き様も、幕府の犬、まがいものの鬼と呼ぶのは相応しくないのだろう。



そして俺も、誇り高き鬼としての生を全うするため先へ進む。



鬼としての仁義を失い、一族の後ろ盾を無くしはぐれ鬼となったが、何を恥じることがあるだろう。



まがいものの鬼と化したもう一人の武士の下へと――夢は馳せる。



近いうちに奴を探し出し、俺達は刃をまみえるだろう。









2012・10・23

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