世界一初恋

□お盆休みの場合
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朝、ジトリとする汗と割れんばかりの頭痛で眼を覚ます。



「ん…気持ち悪…。」


夏とはいえ異常な量の汗と、熱い体。
そのくせ襲ってくる妙な寒気。
ガンガンとした頭痛にぐずつく鼻。



・・・やばい。完全に夏風邪だ。



このまま寝てれば治るのかもしれないが、残された休みは今日を入れてあと二日。

さすがに休み明けに風邪で使い物になりません、だとマズイ。



「薬とかあったかな・・。」



散らかった部屋を探しみるが、そんなものを買った記憶がまずないのだから見つかるはずもない。


「…ダルイ…でも薬買いに行かないと…。」



なんとしても早急に治さないといけない。
外に出る気力なんて無いに等しいのだが、後々のことを考えるとそうも言ってられない。



「・・・て言うか、高野さんに貰えばいいじゃ・・・?」



そうだよ。
数ヶ月前、風邪を引いた高野さんに大量の薬を買ってきたことがあったじゃないか。
あらゆる種類の薬を購入したから、夏風邪に効くヤツもあるだろう。



昨日一日中高野さんのことを考えていたせいか、一度思い出すと急に恋しくなる。



普段なら絶対素直になれないのに、風邪による心細さも手伝ってその思いはますます増幅してしまう。





高野さん…

会いたい
会いたい
会いたい…。




風邪うつしちゃうから長居はできないけど、薬貰うついでにちょっと顔、見に行ってもいいかな。




ふらつく足取りで隣室を目指すと、部屋の入り口に高く積んであった本につまずいてしまい、その山がグラリと揺れた。


ヤバイと思った瞬間、素足の上にズサーと雪崩れ落ちる。



「っ痛!!」



床に広がったのは、勉強のためと買った他社の少女漫画たち。


こういう時に日頃の不精っぷりが嘆かれる。


あぁもう!と本をかき集めていると、一冊倒れた弾みでページが開かれた漫画があった。

ぼやける視界に飛び込んできたそのコマを見て。





あ…。

………。

…や、やっぱ自分で買いに行こう。




漫画に描かれたあるシーンの女の子と自分の状態を比べた結果…。

先ほどまでの隣人に分けてもらうという案は却下し、歩いて近くの薬局に行こうと急遽切り替える。



次々と噴き出る汗を腕でぬぐい、玄関を出ると。




「小野寺?」

「た、高野さん!」


同じタイミングで部屋から出てくる高野さんを発見し、心臓が跳ねる。


ど、どうして会わないって決めたのに、タイミ
ングよく会っちゃうんだよ!


「なんでお前・・・?実家に戻ったんじゃなかったのか?」

「い、いや。た、高野さんこそお出かけですか?」

「誰もいねーはずのお前ん家から音が聞こえたからどうしたのかと思って。・・・つーかお前、何か顔赤くねーか?」



ジッと高野さんに見つめられ、心臓がバクバクと騒ぐ。

この瞳に映されると、自分の体調の悪さも気持ちも全て暴かれそうで恐い。



「そ、そうですか?暑いからじゃないですかね・・・。」

「いや、それにしても赤すぎだろ。フラフラしてるし…具合悪いのか?」

「き、気のせいで…」



高まる熱と鼓動が体の限界を知らせると同時。

グラリ、と体が傾く。



…あ、やば…倒れる…






「小野寺っ!!」




地面に叩きつけられる痛みを予想したのだが、いつまでたってもその痛みは来ない。

代わりに逞しい腕にしっかりと抱きすくめられる感覚に包まれ、そのまま意識を手放した。




















「ぅ…ん。」

眼が覚めてぼんやりと周りを見渡すと、そこは自室のベッドの上。




…あれ?俺ベッドにいたんだっけ…?





「起きたのか?」

「た、高野さん!!??」

「体調どうだ?」

「へ…えと…マシになりました。」



本当にさっきより体が軽くなっている。
高野さん…看病してくれたのか?



「無理矢理飲ませた薬が効いたのかもな。」

「む、無理矢理ってアンタ、まさか…!」

「口移しに決まってるだろ?」

「っ〜〜!何勝手に!!」

「目の前で倒れたヤツが偉そうに言うな。ベッドまで運んで服まで着替えさせてやったんだ。感謝しろよ。」


「ふ、服まで!?」

身に着けているものを見ると、確かに記憶にある服装とは違い、パジャマに着替えさせられている。

「そ、それはご迷惑おかけしました!もう一人で平気なんで、お帰りください!」

「可愛くねーな。それよりおかゆ作ったけど、どーする?食えるなら準備するけど。」

「え?」

「さっきは水で流しこんだけど、ちゃんと飯食って薬飲んだ方がいーだろ。」



…な、なんだよ。
そんな優しくされたら、怒鳴ってる俺がバカみたいじゃないか。




高野さんを直視できず、下を向いて布団を睨みつける。



「やっぱまだ無理そう?」

俯く俺を見て、具合が悪いのかと高野さんから心配そうな声がかけられる。

「いえ…大丈夫です。…おかゆ、頂けますか?」

「ん、わかった。持ってくるから寝といていいぞ。」


声だけで高野さんが優しく笑ったのがわかり、急にいたたまれなくなってバサッと布団に潜り込む。


「ばか、大人しくしとけ。」と布団越しに聞こえてくる声に、風邪のせいではない熱の上昇を感じた。
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