世界一初恋
□私を●●に連れてって☆
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机の上の紙を集め、トントンと一束にそろえて高野さんが「ほら」と手渡してくる。
…なんの書類だろう?
次号の表紙の色稿か?
どうも、と受け取って一番上の用紙に目を通すと…
『カニ、エビ、ジンギスカン!北海道の美味いもの食べ放題ツアー!小樽・札幌・函館の観光スポットをしっかり押さえて壮大な北海道で癒されて下さい!』
…ん?
北海道に旅行に行くなんてネーム、あったっけ?
ペラリともう一枚めくれば…
『全異人館観光+豪華神戸牛ディナー+百万ドルの夜景と盛りだくさん!お洒落な港町、神戸を満喫間違いなし!』
…あれ、今度は神戸?
さらにペラリと…
『別府に湯布院でのんびり温泉めぐり♪♪二十種類以上の温泉をお楽しみの後は、地元大分の美味しい郷土料理に舌鼓を打ってみては?』
お、大分!?
なんか東京からどんどん遠のいてるんだけど…
最後に残った一枚覗くと…
『沖縄の綺麗な海でスキューバダイビング!水族館に首里城、民族工芸なども楽しめて歴史と自然に触れられる豪華沖縄ツアー』
おき…なわ…。
………。
「あの、高野さん。これ…何の資料ですか?」
「どこがいい?」
「ああ、あれですよね。秋にかけて修学旅行の時期ですもんね。主人公が行く修学旅行先どうしようって作家さんが悩んでるからそれでパンフレットを取り寄せたと。」
「やっぱ夏だし沖縄かな?あーでも神戸の夜景っつーのもいいよな。」
「それで集めたはいいけど、いっぱいありすぎて修学旅行先どこがいいのかわからなくなっちゃって俺にも意見を聞こうと呼んだんですよね。修学旅行先!」
「いや、大分の温泉も捨てがたいけどな。それかいっそ涼むために北海道とか?」
「でも俺あんまり旅行しないから参考にならないと思いますよ。大体俺と高野さん、中・高一緒だから修学旅行の日程も似たようなものでしょうし!」
必死でパンフレットから視線を外して言葉をつなぐのだが…。
「……おい。お前、何で俺がこのパンフ取ってきたか、わかってんだろ。」
ジトリと眼鏡越しに見据えられると、うぅ、と怯んでしまう。
「だ、だから作家さんのための…。」
「お前と旅行するために決まってんだろーが。」
………ですよね。
俺だって気づいていた。
だって…
だって…どのパンフレットにも『カップルおすすめツアー』とピンクの文字でデカデカと書かれているのだから。
写真で載っているホテルも上品で雰囲気があって、どこからどう見ても学生が修学旅行で泊まれるようなレベルではない。
ついでに『ネームチェックは全員で!』がモットーのエメラルド編集部で、旅行をネームに入れていた作家さんも今のところ思い当たらない。
それにしてもカップルって!
カップルって!!!
こんなの男二人で参加できるわけないだろ!!!!
「この前の京都旅行のリベンジしよーかと思ってさ。お前、どこ行きたい?」
別にその中からじゃなくてもいーぞ、と今のよりはるかに厚い紙の束が取り出される。
…こ、こんなに集めたのか!?
「ど、どれだけパンフレット持って来ようが旅行になんか行きませんよ!生憎ですけど俺にはそんな時間もお金もないんで!」
「この前みたいに修羅場じゃない時期の土日ならなんとかなるだろ。金は別に俺持ちでいーし。」
「ぜんぜんよくありません!大体高野さん、あの旅行で散財しすぎですよ!ホテルウィダーメアってめちゃくちゃ高級ホテルらしいじゃないですか!この前テレビで見てびっくりしたんですからね!」
そう。
俺のお誕生日会再びで高野さんが予約した京都のホテルウィンダーメアは、高級ホテルがわんさかとある京都の中でも指折りの高級ホテルだったらしい。
しかも桜の見られるあの時期だと、そこらへんのスウィートルーム並みの料金を取られるとか…。
そんな事実をつい先日、何気なくつけていた旅番組で知り、一人テレビの前で固まってしまった。
「あーそうだっけ?確かネットの『恋人と一度は泊まりたい憧れのホテルランキング』とかで1位だったからそこにしたんだけど。」
「憧れは憧れのままにしとけ!あと恋人っておかしいですから!いい加減気付いてください!!」
まったくこの人は…!
その変な行動力とこだわりはなんなんだよ!!