夜空に消えた光・譲れない想い

□今度の招待先は紅間館…?
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「それで一体どうなってるのよ?」


 地霊殿の招待が済んでから早五日。私は居間にて紫を問い詰めていた。内容はもちろん、月が忽然と消えた事だ。実は紫は突然と帰った五日前に既にその事を知っていたのだ。

 紫が言うには、紫たち三人がマヨヒガ不在時は、橙の配下の猫一匹に見張りをさせてるらしく、地霊殿に招待された時もその猫に見張りを任せていた。宿泊最終日、鬼によって酔い潰れ、早朝という嫌な時間帯に目が覚めた紫は、朝食まで特にやる事がなく暇だったので、とりあえずその猫に何か変わった事はなかったかと隙間越しに尋ねてみた。
 すると、このように答えたと言う。

「ここ最近月が出ておらん。昨日を入れれば八日間。そこまで隠れんぼしてるようなら別じゃが、最悪異変という線も視野に入れた方がええと思うぞ。
 我の気のせいかもしれぬが、その日から月が消えておる」



「私はそれを聞いた後、藍と橙を連れて結界に何らかの影響があるか調べたわ。影響は特になかったけど、その日の夜も月が出なくて訝っていたわね」
「何で気づいた時点で私に言わなかったのよ? 伝えるくらいなら害はないんじゃなくて?」
「その時はまだ確信が持てなかったのよ。それに霊夢、あなたがどう思うか知りたかったのもあるしね」
「どういう事よ?」
「あなただって今日という日を迎える前から薄々気づいてたはずよ。月が出てない事に…」
「……まあ、正直曖昧だったんだけどね」

 ただ、最近月を見ないなという程度のレベルだった。こんな大事になるなんて…。

「充分よ。私はあなたに自分自身で認識させたかったの」
「はあ?」
「つまり、私があーだこーだ言った所で、あなたは素直にそれを信じるのか、信じないのか? 他の連中だってそう。たかが猫一匹の話を素直に鵜呑するのか、しないのか? 事実、私たちだって半信半疑だったわ。前の月が欠けてるのとは違って、異変で丸ごと消えてるのか、たまたま出てないだけなのか分からなかったしね。それだったら私たち含め、己自身の判断で認識してもらった方が良い。曖昧でもそれが十にも百にも増えたら、流石にこれは異変だって気づくでしょう?」

 そう言う事か。あの時、真っ先に伝えなかったのは意見が割れるのを防ぐため。要は私含め、周りの反応をまとめてから異変解決に努めたかったのね。
 確かに月が消えたと言われた所で、私はそれを素直に受け入れたかどうか分からない。ましてや、そんな暴論を最初に口に出したのは猫からなんてね…。



パサッ…



「正直、コレが配られてきて良かったとも思うわ。おかげで異変という線が高くなった」

 紫が広げたのは今朝配られた「文々。新聞」の号外。私が本格的にこの異変を知ったのはまさにこれで、新聞一面には月が消えたと大きく書かれてあった。
 妖怪にとって月の有無というのは敏感に感じるものなのだろう。私より妖怪の文の方が先に感ずいたのはそんなとこにあるのかもしれない。

「それでこの五日間はただじーっと待ってたってわけ? みんなが認識するのを待ってから」
「流石にそれはないわ。その間、根源となってそうな所は片っ端から潰しておいた。……唯一の場所は残してね」
「……永遠亭?」
「そこに関しては霊夢と一緒に調べた方が良いと思ってね。異変を行っているのがあそことは言わないけど、前回の事もあるから…」

 前回の事。今は永遠亭の姫、蓬莱山輝夜(ほうらいさんかぐや)と、その従者八意永琳が月の使者から逃れようと、真の満月を隠し、偽の満月に見せかける事によって、自分たちの所に使者が辿り着けないよう細工した異変。
 解決後、幻想郷が外部から遮断されてると知り、本人たちの行いは取り越し苦労で終わったという……まあ何とも傍迷惑な話だった。

「ただ、今回の異変も例の連中の仕業だと私は推測してるわ。永遠亭はあくまで一応よ」
「ゼクスみたいな異端者たちが? これが本来起こしたかった異変だって言うの?」
「永遠亭の蓬莱山輝夜らには前異変を起こした時のような動機が見つからないわ。メリットもない。ただ敵を増やすだけの行為よ」
「でも、だったらいつ幻想郷に侵入してきたのよ? その猫の話に間違いがなければ十三日前の宴会か、その前に…」

 ここまで言って、私はある事に気づいた。いかに妖力等の力を隠せるとは言え、大妖怪の紫を騙し通せるほどそこまで甘くはない。一瞬のゼクスの妖気すら気づいたほどだ。結界に穴を開けて侵入してきた場合も気づくし、空間を曲げて侵入してきた場合だって気づく。そして、それは必ず博麗巫女の私に報告して来ていた。
 だが、今回はその宴会の日以外、まるでそういうのがなかったのだ。気づきながら野放してるというのもまず考えられない。
 つまり、考えられる事は…。

「そうよ。その宴会の日にゼクスと一緒に侵入してきたの。つまり、あの時に侵入してきた人数は"一人じゃなかった"って事よ」
「……ゼクスの妖気以外は感じなかったの?」
「と言うより、それすら罠だったのよ。よくよく考えれば何で侵入する前から妖力を変化させなかったのか。幽々子の言っていたゼクスの能力「目に見えぬものを操る程度の能力」は自身の妖力を微小させる事も可能だったはずよ。何で最初からそれをしなかったのか…」
「まさか…!」
「そう、ゼクスは囮だったのよ。自分を餌にして月を消す能力を持つ者をここに通すのが彼本来の目的だったの。今思えばゼクス侵入時に妙な違和感を感じてたわ。何でそれに気づかなかったのかしら…」

 紫は唇を噛みながら落胆する。いつも胡散臭く相手を茶化す紫とは想像も付かない様相だった。
 暗い表情のまま、紫は出してやったお茶を啜る

「正直、幽々子から聞いたツヴァイの言った意味がよく分かったわ」
「……」
「「この異変自体は役割に入ってません」…ね。まさか既に異変が起こなわれていたなんてね。そして、ここまで経ってようやくその存在に気づくなんて……嫉妬の異変の時と言い、本当に情けないわ…」



バチンッ!



「いたっ!」

 あまりにグダグダ行きそうになったので、私は紫の額にデコビンをくらわしといた。

「何するのよ、霊夢〜!」
「これで清算って事で良いわよ。さっさとそれ飲んで異変解決に向かうわよ」
「え? でも…」
「大体、あんたのそういう姿は見てられないのよ。あんたはずっと胡散臭くいろ」
「何か酷くない!?」

 私がバッサリと言ったため、紫は少し涙目になってるが、無視して外へ出る準備をする。準備ができた所で、私は紫の方へ振り返ってこう言ってやった。

「それに私だってダメダメだったんだからお互い様よ。今回の異変にだって気づけもしなかったんだからね。でも、私はそれに悔やんでる暇があったら、異変を一刻も早く解決する方を選ぶわ。あんたも悔やんでる暇があったら、幻想郷のため解決する方を選びなさい」
「れ、霊夢…」

 まったく、これで目が覚めたかしらね。

「それじゃあ、妖怪たちが何か問題を起こす前にどうにかするわよ。月が消えたという事実を知った以上、各地行動に移すのは目に見えてる。月の一つや二つで騒ぎ出されたら厄介よ」

 それにしても、こうも異変が連続で来られると堪ったもんじゃないわ。只さえ解決しても、賽銭箱が重くもならないのにね…。

「……霊夢」
「ん? 何?」
「……ありがとね」
「なっ……あ、あんたに言われると気持ち悪いのよ! さっさと元凶を退治して、異変を終わらせに行くわよ!」
「ふふっ、分かったわ♪」


 私たちはこの異変を解決すべく、博麗神社の縁側から飛び出していった…。




 
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