夜空に消えた光・譲れない想い

□紅い悪魔の妹
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 咲夜さん案内の元、紅魔館館内に入った俺は、今現在主のレミリア・スカーレットさんの部屋まで移動中だ。

 館内はより赤を基調とした装飾となっていた。地霊殿以上の広い玄関ホールから見渡しても、赤以外の物があるかどうかすら分からない。壁質もシャンデリアも下に敷かれたカーペットも、壺やアクセサリーなどの貴重品ですらも全部が赤。辛うじて額縁の絵が赤じゃなかったと見つけたくらいだった。もちろん縁の部分は赤だったが…。

(逆にここまで赤に拘る理由を聞いてみたいな…)

 また、外から見た時とは違って館内はやたら広く感じる。咲夜さんが言うには、これは咲夜さんの能力『時間を操る程度の能力』の空間操作によるものらしい。紅魔館のイメージを大きくする事が狙いのようだが、同時に掃除する範囲も拡張してしまいやや苦労してるとも言う。

「でも、妖精メイドも大勢居るんでしょう? 一階の人数だけで終わりってわけじゃ━━」
「こら、またっ!」

 二階へと続く階段を上り切る前、咲夜さんの叱咤の声が周囲に響く。何だろうと咲夜さんの視線の先を覗くと、一匹のメイド妖精が灰色の水溜りの上でオロオロしてるのが見えた。どうやらバケツの水を誤ってひっくり返してしまったらしい。どうしようか迷ってる間に咲夜さんが来てしまったのだろう。
 咲夜さんはため息を吐きながら指を鳴らす。すると、大きな水溜りは一瞬として消え去った。

「服も濡れてるわよ。着替えてきなさい」
「は、はい…」

 妖精メイドはやってしまったとばかりにトボトボと何処かへ行ってしまう。そんな後ろ姿を見て咲夜さんは言った。

「まあ、あの子はまだまともな方に数えられますけどね。少し不器用な点を除いてですが…」
「他のメイド妖精はどうなんです?」
「職務放置がほとんどです。酷い時には物に落書きするほどです」
「うわぁ…」

 実質上、この館内の清掃を一人行ってきたと言ってもいい。それでいて主の世話も受け持っているんだから尚更苦労しないわけがない。休みも取ってなく、いつ倒れるんじゃないかと心配になってきた。

「そろそろお嬢様の部屋に着くと思います。くれぐれも失礼のないように…」
「え? あ、ああ、えっと……はい」

 ちょうど三階部分に足を踏み入れた時、何の前置きもなく咲夜さんはこう言ってきた。いきなり言われた事には少し狼狽したが、当事者の部屋の前で言われるよりは全然良い。こういう所も瀟洒と呼ばれる咲夜さんの心遣いなんだろう。それでこそ休んでもらいたい気持ちもあるが…。
 ちなみにそのレミリアさんの部屋は主らしく最上階三階の部屋の一室にあるらしい。

「あ、あの、咲夜さん?」
「何でしょう?」
「レミリアさんが俺に頼みたい事って……何ですか?」

 そんな俺は、ここに来るまでずっと気になっていた事を思い切って尋ねてみる事にした。初対面こそ躊躇していた俺だったが、主に伝えてる事とその瀟洒な性格からもしかしたらという気持ちが芽生えたのである。

「……私にも分かりません」

 だが、咲夜さんはこのように答えただけだった。俺は思わず彼女を見る。

「疑っているようですが本当です。お嬢様には手紙をあなたに届けるよう言われただけです。そして、私もそれに関して特には問わず、命令通りに従ったまでです」
「は、はあ…」
「それに仮に私が知っていたとしても、私の口からはお答えできません。お嬢様があなたをここまで呼び出した意味がなくなってしまうからです」
「確かに…」

 一理あった。我ながら無駄な質問をしたとため息を零す。大体、そこまで重要じゃなかったら咲夜さんの口から直接伝えるよう命令すればいい話。それをしないという事は恐らく余程の事なんだろう。つまり、身内に知られると反対されそうな内容か、先に話してしまうと俺に逃亡されそうな内容か。両方そうかもしれないし、二つ以外にも理由があるのかもしれない。
 どちらにしろ現時点で咲夜さんの心の内を読み取るのは不可能のようだ。やはり、当事者に直接聞かないと分からない事らしい。

 と、そんな事を考えていると、咲夜さんの足が一つの扉の前で止まった。

「こちらがお嬢様のお部屋になります」
「……」

 どうやら目的の部屋に辿り着いたらしい。今になって緊張し始めるのか、他と特に変わりのないその扉から只ならぬ威圧感を感じた。

「宜しいですか?」
「え、ええ、まあ…」

 深呼吸する俺を横目で確認した後、咲夜さんは悠然とノックを二、三回ほど繰り返す。規則正しく軽快な音が周囲に響き渡る。


「入りなさい」


 了承の声が部屋の奥から聞こえ、指示通りに咲夜さんは中へ。緊張の面持ちで俺もその後から続いていった…。

 
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