夜空に消えた光・譲れない想い
□塩→砂糖。いや、それとも蜂蜜?
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チッチッチッチッチ…
「ん…ぁ?」
……これは何回目のデジャブなんだろうか。
小鳥のさえずりが耳に届き、薄っすら目を開けてみる。見慣れたように光も入ってきた。
「……ああ」
紅魔館か。ある程度状況を察し、軽く頭を掻きむしる。
どのくらい月日が経ったのだろうか? 俺の感覚だが、フランとの弾幕ごっこから随分と時間が流れた気する。死にかけ寸前からその後の出来事までを思い返しながら、俺はため息を吐く。いろいろとため息を吐かざるを得ない。
ともかく、上体を起こそうと身体に力を━━
「っ!!」
入れようと試みた時、身体が、特に左腕に言いようもない痛みが走り、そのままペタンと崩れ落ちてしまう。そこまで酷い状態なのだろうか。痛みに悶えながら、俺は頭だけで自分の身体を確認してみる。
傍から見れば、それは悲惨なものだったのかもしれない。首から腹の辺りまでかけて包帯が痛々しくグルグル巻きに、左腕に至っては折り重なってギブス状にまで達していた。血痕の跡も所々で残っており、少しでも大きな動きをしたらそのまま返ってきそう…。
嫌でもフランとの弾幕ごっこで負った傷が深かったというのが分かる。普通に重症ものだ。
「すぅー…すぅー…」
(……でも)
看病してくれたのか、椅子から身を投げ、俺の腹に寄りかかるような形でフランはいた。可愛らしい寝顔とそれに似合わない涙の跡を残しながら…。
「……」
「ん…んぅ…」
彼女を起こさないよう頬に残ったその跡を指で拭う。思えば俺はいつも人に心配かけてばかりだ。四季さんの言葉を不意に思い出し、ズキリと胸が痛くなる。罪悪感で心も痛い。
「ふ…ぁ…?」
「あっ、悪い。起こしちゃったか?」
しばらくとそうしていると、自分の頬の感触で気づいたのか、フランの頭がゆっくりと持ち上がる。起きたばかりなのかまだ何処か寝ぼけているように見えた。
「ん、ふあぁ〜〜……ゆぅや、ふぉはよぅ…」
「ん、おはよう」
「……」
「……」
「って、ゆゆゆユウヤァっ!?」
「うおっ!」
理解するまで数秒は要したらしい。眠りから完全に覚醒すると、フランは驚いた様子で俺の方に身を乗り出してきた。
「だだ大丈夫なの!? 何処か痛いとかない!?」
「え……あ、ああ、まあちょっとは…」
「ホント!? 嘘吐いちゃぜったいだめなんだからねっ!!」
「え、えっと…」
「一度は死んじゃったんだよ!? どうしようかとどうしようかとどうしようかと頭がいっぱいになっちゃったんだよぅっ!?」
「少しおちつ…」
「落ち着けるわけないじゃん!! ハッ! もしかして今いるユウヤは幽霊で本当は死んじゃったのぉ!? 嫌だよぅ!! せっかく友達になったのに死んじゃ━━」
「フーラン」
「っ!!」ビクッ
落ち着かせるため、その頭に唯一自由に動かせる右手を乗せる。突然の事でビックリするフランだったが、少しずつ落ち着きを取り戻したのか、俺の方へ涙を溜めながらも視線を向ける。
「幽霊になった奴が頭に手を乗せられるか?」
「……ぅうん」
「だろ? まあ、少しは痛むけど、俺は死んでないし生きてるよ」
「う…うん…」プルプル
「看病してくれてありがとな。いろいろと疲れたよな。本当にあり━━」
「うわあああああんっ!!」
「ぐえっ!」
フランの涙腺は限界だったようだ。同時に俺の意識もぶっ飛びそうになる。衝突する勢いで首元に抱きついてきた小さき吸血鬼さんを俺は何とか支える。
フランの泣き声がくすんくすんと室内に響く。
「よがった、よがったよぅ…」
「いてて……心配かけてゴメンな。そんな泣かしちゃって…」
「もとは…もどはあだしが…」
「弾幕ごっこ以外の遊びしか知らなかったんだからしょうがないって。それに言ったろ? お互いにはしゃぎすぎたって。フランが気にする事じゃないよ」
「ゆうやぁぁ…」
「あー、はいはい。だからさ、大丈夫だよ。俺はここにいるし、消えたりしないからさ」
「うん、うんっ…」
小さな身体を優しく叩く。俺がこんな風に誰かを慰める日が来るなんて…な。幻想入り前だったら考えもしなかったよ。
(他人を気遣うなんて余裕もなかったからな、あの時の俺は…)
ふとそんな昔の事をやはり思い返してしまう。やり直しがきかない過去の過ちと一緒に…。
「……」ポンポン
「ぐすっ、ぐすっ…」
フランが泣き止むまでもうしばらくかかりそうだ…。