始まり

□優也の能力
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 博麗の巫女に、博麗霊夢に居間まで案内され、今は客用に出してくれたお茶を啜っている。茶の風味をそのまま出したようなとても美味しいお茶だった。お茶をあまり飲まない俺でも、少なくとも外の世界では味わえない味だと感じる。
 丸テーブルの向こう側で、俺たちと同じような光景を映している博麗霊夢が口を開く。

「私の名前は博麗霊夢(はくれいれいむ)。まあ、そこの二人から話は聞いてると思うけどね。呼び方は霊夢で構わないし、敬語もいらないわ」
「俺は赤池優也。こっちも優也で構わない」

 それぞれ自己紹介も済ましたので、早速俺は本題へ移ろうとする。

「あんた、外来人ね。だから、ここに来たんでしょ?」
「え?」

 霊夢はさぞ当たり前だという表情で先に答えた。こういうケースは一度や二度ではないのだろうか?

「俺が外来人だって分かりやすいのか?」
「服装とそのリュックを見たらね」
「え? リュックも?」
「無駄にでかいわよ」

 霊夢にバッサリと言われたが、そこまで大きいという自覚はない。登山用リュックをもう少し大きくした程度だし……人によりけりか。
 とにかく、俺が外来人と確認できた所で、霊夢は慣れた様子でこう聞いてきた。

「それでここに残るの? ここから帰るの?」
「えっと……俺はここから帰ろうと思う。このままだと親や友達も心配するしな」

 ここへ迷い込んでまだ一日目ではあるけど、きっと向こうでは俺の事を捜していると思う。そんな人たちに心配はかけたくない。早く帰って安心させたかった。

「ユーヤ…」
「優也さん…」

 でも、少し寂しい気持ちもある。違う世界なので、二人とはこれで永遠の別れとなる。短い時間だったけど、この二人と友達になったのは事実だから…。

「……二人とも本当にありがとう。元の世界に戻っても二人の事は忘れないよ」
「ふ、ふん。あたいもユーヤに悪口を言われたのは忘れないけどね」
「ここは素直に優也さんを忘れない、でしょ? まったく…」

 そう言いながら、二人は何処か複雑そうな表情を浮かべていた。二人とも俺の事を友達と思ってくれてるのかな…。

(仕方ないけど、二人とは同じ世界で会いたかったな…)

「話は終わったみたいね。それじゃあ、早速━━」
「待ちなさい、霊夢」

 準備するため霊夢が立ち上がろうとした時、何処からかここに居る人たちとは違う声が木霊してきた。

「……?」
「こんにちはー♪」
「うわっ!?」

 辺りを見回していると、いきなり俺の目の前に逆さ宙吊りで体は上半身だけの女性が出てきた。いや、よくよく見ると、空間に裂け目が入っているから、恐らくその中に下半身があるのだろうか…。

「うふふっ、良い驚きっぷりね♪」

 女の人はニッコリと笑いながら、やはり裂け目の中に下半身があったようでそこから出てきた。
 今まで会った事のないような美人さんだった。髪は金髪のロングストレートで、毛先をいくつか束にしてリボンで結んでいる。瞳の色は青ではないが、肌白くスタイルが良い事から何処か欧露の女性を彷彿とさせた。仮に十人男が居るなら、その十人全員が振り返ってしまうほど美しいのではないだろうか。……そんな中で何故か胡散臭さは覚えるが。

「あ、あなたは?」
「そういうのは自分から先に答えるんじゃなくて、外来人さん?」

 胡散臭い表情を崩さず、彼女は逆にこう返してきた。

「えっと……赤池優也」
「私は八雲紫(やくもゆかり)。敬語無用でゆかりんって呼んでね♪」

 ゆ、ゆかりんはスルーして、八雲紫って確か大ちゃんが元凶だと話していた大妖怪だ…。

(……何でここに?)

「何よ、紫。コイツもあんたが連れてきたんでしょう?」

 少し不機嫌そうな顔をしながら霊夢は紫に問い詰める。

「いえ、違うわ。全く知らない子よ。だから気になって今まで隠れて観察してきたけど、とんでもない能力を持っている事が分かったわ…」
「え? お、俺に!?」
「「ユーヤ(優也さん)に能力!?」」

 チルノと大ちゃんは驚いた顔で俺を見た。俺もそうだが二人も俺に能力があるとは思っていなかったからだ。

「……その能力って?」

 少し緊張した面持ちで、霊夢は核心の部分に触れる…。


「『あらゆるものを受け流す程度の能力』よ」

 
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