夜空に消えた光・譲れない想い
□無意識って怖い!
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「こちらが食事部屋となります」
「うわっ、雰囲気ある…」
「何か凄いね…」
さとりさんにより食事部屋まで案内された私たち。感嘆の声が上がるのも無理ないと思います。
上に飾り付けてある光り輝くシャンデリア、部屋中心に大きく置かれてある横長テーブル、その上でゆらゆらと揺れ動くロウソクの炎、赤と黒でライトアップされたバラ柄のスタンドグラス。実にお屋敷らしい豪華な作りだと私でも感じましたから…。
「「量が少ないわ〜(のか〜)」」
「それは二人だから。むしろ多い…」
そして、メインとばかりにテーブルの上に並べられてある多種多様の料理。昨日と比べて洋食系が多い印象です。ルーミアちゃんと幽々子さんは量に不満を訴えてますが、普通に食べる人にとってはその量も多いです。
「うわぁ、熱そう〜…」
それと外れてスタンドグラス付近に立つ橙ちゃん。スタンドグラスながら外の情景を眺め見る事ができるみたい。
「んにゃ? でも、ここって何階…?」
「地霊殿の最上階四階ですよ」
「え? あれ? 三階じゃ━━」
「あのルートの長い廊下、ほぼ直進で斜度も変わってないと感じましたよね? 実はそれは錯覚で、実際は少しずつ右方向に傾き、斜度も徐々に上がっていたんです」
「でも━━」
「何でこういう構造にしてるかと言うと、何者かが侵入してきた時にそれを欺けるためです。あのルートはこの地霊殿全体を囲む螺旋状のようになってまして、今回の異変では使われませんでしたが━━」
「うぅ〜、最後まで言わせて…」
「あっ……す、すみません。またいつもの癖で…」
「「早く食べた〜い(のか〜)!!」」
さとりさんが説明してる間、いつの間に席に着いていた大食いの二人が、待ちきれないとアピールするかのようにフォークとナイフをカチカチと鳴らす。食器にもカンカン鳴らしたりしてお行儀が悪いと思った。
「あ、あはは……すみません。そうですよね。では、皆さんも適当に腰掛けてください」
「あぅー…」
「よしよし。橙さんもすみませんね」
「はわぁ〜…」
(あっ、ナデナデされて気持ち良さそう…)
そんな二人の姿に苦笑いしつつ、残りの私たちに席座るよう促すさとりさん。その間、橙ちゃんとも仲直りできたようで一安心…。
「あ、あの、チルノさん? その氷の塊は…?」
「……」
「あっ、待って! 叩くモーション取らないで! 胸がちっちゃいみたいな事を言ったのは謝るからぁ!!」
「っ!」
「いったあっ!!」
「……はぁ」
そんなほのぼのできる光景も、こっちの光景に私は苦笑いすら浮かべません。というか、優也さんデリカシーなさすぎです…。
「ごっはーーん♪」
「酔い潰れた方たちの回収終了しましたー」
「お空、お燐。二人ともご苦労様」
そんなこんなで全員席に着いた後、良いタイミングで空さんと燐さんが戻ってきた。二人とも真っ先に空いてる席へ座り、いつでも「いただきます」が言える形が整う。
ちなみに私が座っている席はチルノちゃんと優也さんの間とやはり気まずい…。
「随分待たせてもらいましたね。それでは各自召し上がってください」
『いただき━━』
「「いただきまーーすっ!!」」
大食い二人にとってはここまで良く我慢したと言うべきなんでしょうか? 二人が「いただきます」と言った瞬間、本人たちの目の前にあったステーキが一瞬で消えました。口元はソースでベトベト…。
「「おいしい〜(のか〜)♪」」
「そ、それは良かったですね…」
二人の早食いにさとりさんは思わず苦笑い。
「オムライスだよ♪ あ〜〜ん♪」
「あ、あー……んっ?」
私もチルノちゃんと優也さんの仲の良さに苦笑……
「え? あれ?」
チルノちゃんと優也さんは私を挟んで離れてたよね? 向こう側から見て、左からチルノちゃん、私、優也さんの順で…。
じゃあ、優也さんにあーんしてるのって…。
「う、うわっ!?」
「こいし、無意識で遊ぶのは止めなさい…」
「あはは、バレたか〜♪」
確か優也さんの左隣の席は空いていた。
でも、今はその席に黒い帽子を被り、何処となくさとりさんに似てる女の子が居る…。
「私の妹、古明寺こいしです。さっきみたいに優也さんが気づかなかったのは、こいしの能力『無意識を操る程度の能力』で━━」
「私はほとんど無意識に行動してるから相手に認識されないんだ。さっきのは無意識にあーんしてたんだよ♪」
「くんっ……び、ビックリした…」
「はい、あ〜〜ん♪」
「あー……じゃないっ!」
「えへへ〜♪」
さとりさんの妹だったんだ。道理で雰囲気とかがさとりさんに似てるわけだ。
ただ、性格は似ても似つかない天真爛漫……いや、自由奔放が正しいかな? 無意識であーんするほどだから…。
「!?」
そんな時、何で気づかなかったんだろうと思わせるほどの殺気ならぬ冷気を感じた。
私は恐る恐る右席を見ると……
「……」
私を通り越し、その光景を思いっきり睨みつけてるチルノちゃんが…!?
「大ちゃん。席、替わっても良いかな…?」
「ど、ど、ど、どうぞ! 替わってください!!」
チルノちゃんの冷気に驚愕した私は、思わず敬語口調になってチルノちゃんと席を交換した! その間、わずか一秒!
「今度は意識的にあ〜〜ん♪」
「も、もう良いって!」
しつこくあーんしてくるこいしちゃんに、困った様子で後ろを振り向く優也さん。恐らく私に助けを求めたかったんでしょうね。
でも、今は……
「……」
「ち……チルノぉ!?」
それがチルノちゃんだったから驚きますよねー…。
『じ〜〜っ』
当事者三人を抜かして、ここに居る全員、あの大食いコンビでさえ、手を止め、それをじーっと眺め見る。
恋愛でありがちな三角関係(だと思う)、まさに修羅場という状況を…!
「ホントはこのまま無視したかったんだけどはっきり言うね。ユーヤ、良くデレデレするよね…」
「え、えっと…」
「特に今みたいに自分より小さい子なんか…」
「ち、違うって…」
「見ててすっごいムカッってくるんだけど……止めてくれない?」
「いや、だから━━」
「別にチルノには関係ないと思うんだけどな〜」
優也さんを攻め立てるチルノちゃんに、こいしちゃんが割って入ってくる。
「私が見てる感じだとチルノは優也の事が嫌いに見えるよ? だったら、別に放っておいても良いじゃん」
「なっ!? そ、そんな事は…!」
「はいはい、図星だね♪ あーーん♪」
「無意識や、むぐっ!」
チルノちゃんの言葉を遮り、相変わらずあーんを繰り返してくるこいしちゃん。そんな光景を見てられなかったのか、チルノちゃんは焦ったような口調で反論した。
「ま、待って!! 別に嫌いなんて言ってない!! ユーヤが嫌いって勝手に決めつけないでよっ!!」
「ふーん。少なからずは好きなんだ?」
「そ、そりゃあ……まあ…」
「……くんっ」
顔を真っ赤にし言葉詰まりながらも、チルノちゃんはその質問にゆっくりと頷く。それを聞いた優也さんもちょっと赤くなってるように見えた。
「じゃあ、私がやってる事もできるよね? 嫌いじゃなきゃ♪」
「お、おい! 何を言って━━」
「で、できるよ! あたいだってそんくらいできるもん!!」
「はあ!? お前も何言ってんの!?」
優也さんが反論するも束の間、チルノちゃんは自分(元は私)のオムライスをスプーンに乗せ、彼の口元近くへ…。
「ほ、ほら、ユーヤ…」
「い、いや、だから、何でこうなるの…」
「う、うるさい。さっさとしてよ。あたいだって……恥ずかしいんだから…」
「あ……え、えっと…」
「……」
「あ……あーーむっ」
「……どう?」
「お、おいしいよ。うん…」
チルノちゃんの行動に戸惑いながらも、優也さんは差し出されたオムライスをパクリ。口含んだ後、恥ずかしさからそっぽを向いてしまう。
「おおぅ、真っ赤真っ赤♪ じゃあ、それに優也も答えないとね♪」
「え、ええっ!? 俺もやるの!?」
「ほらほら、さっさとやるぅ♪」
そっぽ向いた方向のこいしちゃんに促され、優也さんもスプーンでオムライスを掬い、チルノちゃんの口元近くに…。
「ち、チルノ。はい…」
「あ、あーー…んっ」
「……お、おいしい?」
「ま、まあ…ね。別にユーヤに食べさせてもらっても嬉しくも何ともなかったけどね…」
「い、いや、俺はそこまで聞いてな━━」
「別にまたユーヤに食べさせてもらいたいなんて、か、考えてもないんだからっ!!」
「だから、聞いてないって!」
そして、口含んだチルノちゃんも本当は嬉しそうだけど……って、さっきの修羅場から一転して、
『あっまいなぁ〜』
本当に一気に甘くなりましたね。少し前までの重たい空気は何だったんでしょう?
「これで仲直りした事になるよね、大ちゃんっていう妖精さん♪」
「!?」
私の両肩に誰かが手を置いている感触が突然走った。見ると優也さんの左隣に座っていたはずのこいしちゃんの姿が私の後ろにあった。
これが無意識なのか予想以上にビックリする…。
「な、仲直りさせるためにわざとやってたの?」
「えへへ〜、大ちゃんが二人の喧嘩で焦ってたのを無意識の時に見てたから、何か無意識に助けたくなってね♪ 結果的に無意識に仲直りできて良かった良かった♪」モミモミ
「きゃあ! そっ、それは意図的でしょ!?」
「むーいーしーき〜♪」
時に無意識なのか怪しい部分もある…。
「んふふ〜、困った時は私の無意識におまか━━」
「へえ〜……本心でもそんな事を思ってたんだ…」
「で、でも、咄嗟に言った言葉よりは━━」
「同じだよ!! ふんっ!! どうせあたいは胸が小さいよ!!」
「そ、そこまで言ってないじゃん!!」
「言ってるじゃんバーカ!!」
「あらら?」
「あ、あれ?」
何で……また喧嘩してるの?
「二人が話してる間、優也さんは兼ねて温泉の一件を謝ろうとしていました。何でも咄嗟に出た言葉は違くて、本当は「成長するから大丈夫」…とか。ですが、この発言でチルノさんはまた怒ってしまい、再びこのような状態に…」
どうしてまたこうなってるのか、さとりさんは私たちにそっと教えてくれた……って!
「優也さん、何言っちゃってんですか!? せっかく━━」
「そういうユーヤだって○ん○んちっちゃい癖に!!」
「は、はあ!? 何だよそれ!?」
「だって、ギュッとした時もされた時も何も感じなかったもん!! それとも男じゃないんじゃないの!?」
「声で分かるだろ!? お・と・こっ!!」
「ふふん、顔は女だけどね。もしかして○ん○ん取れちゃった? 男としょーめーできなくて残念だったね!」
「む……っか! 良いよ。分かったよ。そんな事を言うチルノなんかもう知らないっ!」
「あたいだってユーヤなんか知らないもんっ!」
「「ふんっ!!」
「チルノちゃんも悪化させちゃダメでしょーっ!!」
「おおぅ、無意識ってこえぇー♪」
「こいし。今は黙っててあげなさい…」
「しょうがないウサね。また私がどうにかするかウサ…」