夜空に消えた光・譲れない想い

□夜空に拡がる星空の中…
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「優也さん……脆くなりましたよね…」

 チルノちゃんに抱き付かれるような形になった上、追い討ちをかけるような言葉で撃沈してしまう優也さん。顔を真っ赤に硬直させ、頭から煙が立ちのぼる光景を見るのは今日だけでもう二回目…。


「すぅー…すぅー…」


 そして、撃沈させた張本人のチルノちゃんは、本当に心地よかったのかそのままの状態で眠っちゃってる…。

「微笑ましい光景だけど、これで付き合ってないから不思議だね…」 
「ずーっと、このままって事もありえそうだよね…」
「そーなのだー」
「でも、いつか付き合うと私は思うよ」
「本心…?」
「……私も少し心配になってます」

 だって、優也さんが気絶、もっと言うとオーバーヒートしてしまったら元も子もなくなるわけじゃないですか。チルノちゃんを意識したのはまあ良かったんですけど、意識した事で鈍感よりも更に厄介な問題が生まれてしまいました。チルノちゃんが大胆な行動を取る度にああなるんでは今後が心配にもなります。

「まあ、でも、最終的に大ちゃんがくっつけると思うなー」
「え? 私が?」
「私も何となくそう思う。いつか二人を本気で叱ってねえ」
「大ちゃん、二人のお姉さんっぽいから…」
「そーなのかー♪」
「そ……そんな事あるのかな…」

 思わず暗い気持ちになってしまう。みんなは口を揃えてこう言ってくれてるが、さっきの魔理沙さんたちみたいに言えなかった私が、そんな二人を後押しできるような言葉……かけてあげられるのかな。
 今まで何もしてあげられてない……私が…。

「……っ」
「? 大ちゃん?」

 い、いけない。魔理沙さんたちに言われたのにまた変な方に考えちゃってる。昨日のてゐちゃんの作戦を止められなかった所から私ちょっと弱気だ…。

(も、もう! 親友の私が頑張らないで誰が頑張るって言うのっ!)

 考えすぎると止まらない所は私の悪い癖だ。いい加減しっかりしなきゃ。昨日の事はもう終わった話なんだからっ。 

「もう、大ちゃんってば!」
「ふ、ふえ!? あ、ああ、うん! とにかく、私も二人のために頑張ってみるよっ!」
「え? あ、うん。凄い意気込みなんだね」
「うんうん!」
「え、えっと……話を最初に振った私が言うのもなんだけどさ…」

「地上に着いたのかー♪」
「らしいよ…」
「え!?」

 私たちの乗ってる猫車は、旧都を超え、洞窟を超え、いつの間にか妖怪の山の麓まで辿り着いていた…。





「んんぅ〜……お燐やキスメには悪いけど、やっぱ地上の空気は落ち着くわね〜」
「息苦しいのもなくなったのかー♪」
「まっ、地上と地底とじゃ空気の質っていうのが違ってくるからね」

 リグルちゃんの話だと私が深く考えすぎてた辺りから地上はもう間近だったらしい。現在の麓周辺はもうすぐ夜になろうかと薄暗く、夕焼け空には一足先に多くの星が顔を覗かしていた。
 ていうか……私って何やってるんだろ…。

「き、キスメちゃん。その……ごめんなさい…」
「?」
「私、旧都の方、全然見渡せてない…」

 優也さんとチルノちゃん、そして、特に自分自身の事に集中してしまい、本来の目的の方を疎かにしてしまった。一つの事に集中しすぎると周りの事が疎かになるという私の悪い癖をすっかり忘れてしまっていたのだ。昨日もそれでてゐちゃんの作戦に気づけなかったのに……本当に何やってるんだろ…。
 キスメちゃんには申し訳なさで一杯だ…。

「大丈夫。みんなもあの二人のせいでほとんど見渡せてない…」
「い、いや、でも…」
「遊びに来てくれた時でも別に良いから…」
「……」

 内心呆れてるんだろうな。何しに猫車に乗ったんだって…。

「私、気にしないよ。泣かないで…」フキフキ
「あっ…ぅ…」

 気づいたら涙も堪えきれなかった。自分への不甲斐なさで今は頭がゴチャゴチャ…。

「もーさー、大ちゃんは深く考えすぎなんだよ。ここは「てへっ☆ 旧都どころじゃなかったー♪」で済ましても大丈夫な━━」
「みすちー、後で旧都全体見渡して来てね…」
「ちょっ、冗談じゃん! 冗談!」
「あはは……でも、みすちーほどじゃないけど私も同意見だよ。もうちょっと楽に考えても良いんじゃないかな?」
「わたしも心配になるのかー…」
「う、うん……ごめんなさい…」

 今日の私って何だかダメダメだなぁ。こんなんじゃ優也さんとチルノちゃんにまで心配かけちゃうよ…。

「ふぅー……うん、みんなありがとう。もう平気になったから…」
「え? もう?」
「まだ無理してない?」
「大丈夫なのかー?」
「あはは、心配しすぎだよ。こう見えて私吹っ切れるのが早いんだよ?」

 実際は嘘。考えすぎてしまう私がこんな早く吹っ切れてしまったら正直苦労しない。でも、ここは空元気でも元気になったって繕わないと…。
 みんな、私なんかにでも優しい友達たちだから…。

「本当に大丈夫…?」
「うん、大丈夫。燐さんも留ませちゃってごめんなさい。今、降りますので…」
「あっ、そうだった」
「んん、その事なんだけどね…」

 私が最初降りようとした時、待ち兼ねてたかのように燐さんが言う。

「今の所、動けない奴が二人居るから、もう一踏ん張りで全員を家まで送ってくよ」
「え? でも、ここまで運んでいただいたのにそんな…」
「なーに、ほどんどはまとまってる帰路だからそこまで時間はかからないさ」

 そろそろ妖怪も本格的になる時間帯だしねと上を指差す燐さん。確かに私があれこれ心配をかけてる内にもう完全な夜だ…。

「ごめ……あっ、ありがとうございます…」
「ラッキー♪ 私妖怪〜♪」
「あー、ミスティアは自力で帰ってねー」
「てねー…」
「ちょっ、さっきから私の扱い酷くない!?」
「みすちーが調子乗るからだよ…」

 また謝ると長引かせちゃうのでここは感謝の言葉に切り替えた。でも、本当は謝る所だ…。
 再び動き出す猫車。相変わらず気分が乗らない私を尻目に、皆は屈託ない笑顔を浮かべ、ワイヤワイヤと盛り上がってる。

「……」

 そんな中、一人ルーミアちゃんが夜空を見上げ、深刻そうな表情でそれを眺めていた。

「ルーミア…ちゃん?」
「むぅ、今日もなのかー…」
「え?」
「おーい、大ちゃんにルーミア。下りがあるらしいから━━」



ガコンガッコン!!



「わっは!?」
「わっわっわ!」
「ちゃんと掴まってて言おうとしたけど遅かったか…」

 その後、ルーミアちゃんと支え合いながら下りを乗り切り、私たちはそれぞれ自分たちの家路につく事となった。
 あの二人が焦れったくなったのと同様、私も今日は本当にダメダメな一日だったな…。


(それにしても……何が"今日も"だったんだろ…)



 この時の私は、ルーミアちゃんが何に対して呟いてたのかまだ理解できていなかった。だけど、日が経つにつれ……嫌でも気づかされる事となった。
 思い出したのだ。その時の夜空は星がまばらに輝いていた。だが、そんな中にあってもう一つあるべきものがなかったと…。

 いつからか……幻想郷から月が消えていたのだ…。

 
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