夜空に消えた光・譲れない想い

□今度の招待先は紅間館…?
2ページ/4ページ






「店長、この人形はここで良いんですかー?」
「まっ、良いんじゃにゃーい。どうせいつもてきとーに置いてるし」
「適当とか言わないでくださいよ…」


 地霊殿での宿泊期間を終えてから五日後、俺は本来あるべき生活を送っていた。
 午前中にゴチャゴチャになっていた店内の清掃を済ませ、今現在は棚に置くであろうにんぎょうの配置を決めている所。何でもにんぎょうの在庫が少なくなっていて、昨日の夜、店長がせっせと作っていた所、逆に作りすぎてしまったらしい。俺が今日店内に入ると、そこには使い終わった糸や布の山、カウンターでは人形に埋もれながら店長がつっぷしていた。流石にこの状態での商売は無理と判断してか、今日一日は休店とし大掃除と整理整頓に全時間を費やす予定。ちなみに俺の勤務時間も午後まで延長しての作業だ。

「まあ、でも、ありがとにー。午後まで手伝ってもらって…」
「いや、気づかなかった俺にも責任はありますし、何より昨日は店長が頑張ってますからね。このくらい当然ですよ」
「えへへー、もしかして惚れ直した? 惚れ直しちゃったの?」キャー
「うるさいです」

 こういう変な性格じゃなかったら少しは考えるんだけどな。突拍子もない所も込みで。

「いやいやー、それにしてもにー…」
「テンションの落差激しいっすね。えーっと、何ですか…?」
「ああ、コレコレー」

 そう言いながら、店長は手に持っている物を見せる。どうやら今朝配られた号外らしい。

「ああ、月が消えたっていう…」
「んにゃ、これは妖怪にとっては大変になるにゃー」
「え? 何でです?」

 時点が傾くとかその程度の事じゃなかったっけ? 幻想郷では良く知らないけどさ…。

「おぅ、ユゥは外来人だったにー。にゃら……説明しよう!」キラーン
「何処から持ってきたんすか、そのメガネ…」

 細かい事は気にするにゃとばかりにメガネをクイッとする店長。また、これも何処からか小型テレビくらいの黒板とチョークを持ってきて、頼んでもいないはずなのに何故か本格的に説明し始めた。

「ユゥが普通だと思ってる幻想郷の月、実はこの月の光には禍々しい魔力と狂気が潜んでるのにゃ。地上で生活してる妖怪たちはそれを起源して夜の活動を活発化させてる。だから、人は夜中に行動する事を比較的避けるのにゃ」

 店長は幻想郷で生きる妖怪にとって月というのは必要不可欠だにゃと続ける。店長にしては中々分かりやすい説明だけど、妖怪のシルエットが棒人間でその上に\ガオー♪/は酷くね? まあ、とやかくは言わないけど…。

「よって、月がなくなると言う事は普段みたいな夜でも活動的に動けなくなる。さてさて、ここで問題にゃ。そうなる前に妖怪たちが行うと予想させる事は!?」
「まーたいきなりですね。えーっと……月が消えてるのが仮に異変として、その原因となっている者を殺そうと各地暴れ回る…とか?」
「まさにその通り、グッジョブ♪ つまり、この状況が続けば、妖怪がこの人里内でも暴れ出すぅーなんて事が充分に考えられるんだにゃ」

 ま、マジか。各地がどんな感じか知らないけど、ここには戦う手段のない女性や子供が多く居るっていうのに……そんな中で妖怪に暴れられたらどうなっちまうんだ…。

(また大変な異変になりそうだな…)

 今回の異変も楽観視できないと認識させられる俺だった。

「以上、てんちょーの月講座でしたー。どうどう? また惚れ直しちゃったー?」キャー
「うっさいです。あなたにも危害が加わるという事を少しは再認識してください」
「あたい、ユーヤが守ってくれるから良いもん♪」
「仕舞いにはそのボサボサ頭に拳骨くらわすぞっ!!?」

 ち、チル…ノの口調で言うなんて最悪だ! もうこの緩店長には二度と女性という認識は捨てておこう!

「あっ、そういえばチルルで思い出したにゃ。今朝、メイドさんが━━」
「お、俺を本気で怒らせたいのか!?」
「だーかーら、思い出しただけだって。チルルを悪いようには使わんよぅ」
「うえ!? あっ……ゴメン…」

 俺の反応を見るや否や、ニタニタと満面の笑みを作り出す店長。反応しなければ良かったとすぐに後悔した。

「なになにー? もしかして進展あっちゃったのー? きすきすらぶらぶーとか?」
「きっ……お、俺たちの事はどうでも良いですっ! それよりそのメイドさんがどうしたんですかっ!」
「にゃっはっは、氷精と熱愛ですかー? ねちゅあい〜?」
「〜〜っ!!」
「おぅっとっと、拳骨くらわされる前に……ほいっ! メイドさんがユゥにだって!」

 俺が近づくのと同時に、店長はポイッと手紙を投げ渡してきた。もしかして俺を近づかせるためにわざとチルノの話題を続けたのか。店長のペースにまんまと嵌ったような形となり、不意に顔が熱くなる。

(というか、チルノの話題出された時点で…)

 俺は手紙を団扇代わりに使い、何とか落ち着こうと平静を繕う。
 自分自身が落ち着いたとようやく確認できた所で、封を開け、この手紙を読んでみた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
拝啓  赤池優也

 そなたに頼みたい事がある。
 ここには記載できぬが、本日の夕暮れ時、紅魔館に来る事でその内容を話そう。

追伸 そなたに来ないという選択肢はない。仮に来なかった場合、こちらとて迅速な対応を取ろう。

紅魔館 主
レミリア・スカーレット

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 紅魔館……宴会の時に大ちゃんから教えてもらった通りなら、俺に手紙を渡すように言ったのは十六夜咲夜さんで、手紙を書いたのは記載通りレミリア・スカーレットさんか…。
 ていうか、頼みたい事があると言いながら、何でそっちが偉そうなんだよ…。

「つーか、俺に拒否権すらないのか…」
「あーあ、ユゥ何かやらかしちゃったんだねー」
「何もやってませんからね。そもそも会話した事すらないし」
「屍で戻ってきたら埋葬してあげるからね。うっうっう…」
「勝手に殺さないでください。余計質が悪い」

 いつの間にか俺の近くで手紙を読んでいた店長がオイオイと泣き真似を見せる。そんな事をされても逆効果なのは言うまでもないが…。
 いや、そもそも手紙の内容以前にもっと重要な事を忘れてた。確かこの手紙を俺に渡すよう頼まれたのは今朝俺が勤務する前の話だ。

「そういえば店長。何で俺が来た時に真っ先にこの手紙を渡さないんですか? もう4時近くですよね?」
「……」
「そりゃあ、昨日の事で疲れてたのは理解できますよ? でも、今の時間帯を考えたら…」
「…………てへっ☆」
「てへっ☆ じゃねーよ!! 可愛い子ぶってもダメだーっ!!」

 この人絶対忘れてた! 今の今まで忘れてて、本当に今さっき思い出したんだっ!

「い、いや〜、でも、間に合うようで良かったじゃーん?」
「良くねーよ! 危うく本当に屍で戻ってくる所だよ!!」
「大丈夫大丈夫。ユゥの屍はあっしが超えて行くからさ〜」
「だから、勝手に殺すなっ! 店長、いい加減に━━」
「おぉ〜、チルル〜」
「はっえぇ!?」
「にゃはは、うっそだよーん♪ ぷっぷっぷ…」
「ブチンッ!!」



ゴチンッ!




 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ