夜空に消えた光・譲れない想い

□紅い悪魔の妹
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「ご苦労、咲夜」


 正確には話し合いを設けるための部屋であって、主本人の部屋はまた別にあるらしい。室内にはあまり物が置かれてない事もあって非常に広々としていた。相変わらずだが赤も目立っている。
 だが、それ以上に……王座らしき椅子で座ってるレミリア・スカーレットという存在がそれら全てをないがしろのものとしていた。

「さて、お前が赤池優也だな?」
「え? あ……そ、そうです」

 宴会の時にはなかった存在感に圧倒されたのか俺は少し間が空いた状態で答える。彼女は王座に肘を掛け、足を組み、まるで値踏みするような目で俺を見ていた。
 外見は10歳ほどの少女だろう。座った状態で足が下まで届かないほど彼女は小さかった。だが、そこから発せられるオーラは並の少女から発せられるオーラとこれまた違った。これが吸血鬼という妖怪の特徴なのだろうか。背中のコウモリのような羽と重なり、小さな容姿が非常に大きく見えてしまう。その紅い目が俺の全てを見抜いてしまうのではないかと内心ドキマギもした。

「私はレミリア・スカーレット、ここ紅魔館の主で誇り高き吸血鬼だ。まずは私の頼み事のため、ここまで来てくれた事に感謝する」

 やがて青みのかかった銀髪の上の帽子を取り、軽く会釈をする。その表情に喜怒哀楽はなく、無表情を貼り付けていた。

「それで……俺に頼みたい事って何ですか?」

 緊張しながらも俺は早速本題に踏み込む事にした。吸血鬼のレミリアさんが呼び出してまで俺に頼みたい事とは一体何なんだろうか。そして、それは俺に出来る事なのだろうか。……下手すると死ぬ事になるのではないだろうか。
 吸血鬼からしたら非力な存在だ。そうなる可能性は否めない。むろん、いつでも逃げられる準備はしてるが、最後まで逃げ切れるかどうか危うい…。

「心配しなくても良いわ。あなたに頼みたい事は妹の遊び相手よ」
「……え?」
「あなたには妹の遊び相手をしてもらいたいって事よ」

 レミリアさんは繰り返し言う。妹の遊び相手?

(……その程度の事なら確かに心配ないかな?)

 少しだけ気が楽になるのを感じたが、肉親と言う事はその妹も吸血鬼である。油断はできない。

「妹さんがいるんですか?」
「ええ、名前はフランドール・スカーレット。常に笑顔を絶やさない私と違って無邪気な子よ」
「へえ〜、可愛らしい妹さんなんですね」
「ただ、最近は情緒不安定だけど…ね」
「え? どうしてですか?」

 レミリアさんの表情がここで少し曇った。

「前の嫉妬による異変のせいで……暴走したのよ」
「!」
「私を含め、紅魔館全員嫉妬にはかかったけど、きっと霊夢たちが解決してくれたんでしょうね。数時間後、元に戻る事ができたわ。けど、フランだけは違った。元には戻れず、紅魔館を破壊し始めた…」

 嫉妬異変……幻想郷全土が嫉妬状態になるとは聞いていたけど紅魔館にもそんな被害があったのか…。

「私たちはどうにかフランを止めた。暴走もそれ以降はなくなったけど、同時に笑顔もなくなっていたわ…」
「……」
「だから、子供好きのあなたならフランに笑顔を取り戻してくれるって思ってね…」

 子供好きね。きっと何処かのパパラッチ鴉天狗がそんなデマ情報を流したのだろう。チルノの時と言い、傍迷惑にもほどがある。
 俺はため息を吐きながらも少し考えてみる。レミリアさんは心配ないとは言ったが、吸血鬼の遊び相手と言われるとやはり躊躇してしまう。彼女の妹さんの事は何も知らないが、何かの弾みで怒らせたら被害が生じるのは俺自身になる。現に嫉妬異変で暴走したのもつい最近の出来事、しかも、今は情緒不安定なのだ。断るのも一つの手だったかもしれない。

「……分かりました。その頼み事を引き受けます」

 でも、俺は引き受ける事にした。レミリアさんの表情から妹に早く笑顔が戻ってきてほしいという純粋な気持ちを感じ取ったからだ。俺もそれに感化されたのかもしれない。

「悪いわね……案内はまた咲夜に任せるわ」
「はい、それでは…」
「最後に一つだけ良いですか? 何で俺にそれを頼んだんですか? 姉のあなたじゃなくて…」

 だからこそ疑問に残る事がある。そういう純粋な気持ちを持ちながら妹の遊び相手を俺に任せた事だ。レミリアさんのこの気持ちが本物なら、他人の俺なんかに任せるのはお門違いな気がした。

「私とは違って、あなたの方が器用だと思ったからよ…」
「いや、でも…」
「それに…………ないわ」
「え?」
「……何でもないわ。咲夜、案内の方またお願いね」
「分かりました。優也様、こちらです…」


 この時、レミリアさんが何て言ったのか俺には分からない。それでいて聞き返す事もできなかった。
 この時のレミリアさんが一番辛そうで悲しそうに見えたから…。

 
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