夜空に消えた光・譲れない想い
□家族だから…
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「くっ!!」
「あはは、スゴイスゴ〜イ♪」
フランから放たれた密度の濃い弾幕を紙一重でかわす。
フランが言い出した遊びとは予想もしていなかった弾幕ごっこだった。それも吸血鬼という立場でありながら、魔理沙のような相手への配慮やルール等はまったくなし。弾幕ごっことは言うが、これはむしろガチンコ勝負に近い形だ。
(俺がやられるのが目に見えてるっての!)
今更ながらフランではなく自分が先に遊びを決めていればと後悔していた。他人に譲ってしまう甘い性格が今の事態を招いていたのだ。
「えへへっ、他のビクビクしてた人間たちとは大違い♪」
その人間たちが最後どうなったのかは聞かないでおこう。俺は改めて、彼女を、フランドール・スカーレットを見る。
弾幕をかわしきったのを見てなのか、前方の彼女はとても活き活きした表情を浮かべていた。弾幕ごっこを心から楽しんでるという風にも見えなくはない。だが、本当にそうなんだろうか。さっきの狂気染みた表情だってそうだ。今は消えているが、あの表情が弾幕ごっこを待ちわびてた顔には━━
「じゃあ、ちょっと難易度を上げてみようか。禁忌『クランベリートラップ』!」
「!?」
彼女は意地の悪そうな顔を浮かべながらスペカ宣言をしてきた。今はそんな事を考えている場合じゃなかったな!
宣言と同時に大玉弾幕が俺を逃がさないかのように四方に並ぶ。その後、湧き出るように大玉弾幕が外側から、囲む弾幕をすり抜け俺の方に雪崩れ込んできた。
「うわっ!」
俺は倒れ込みながらも何とかその弾幕をかわす。幸い雪崩れ込んできた大玉弾幕と地面との距離はほんの僅かだが離れていた。それもご丁寧に全部。
通過していく弾幕を見て、このままならやり過ごす事も出来るのではないかと考える。だが、流石にそこまで甘くはなかった。
「あっ、その避け方ズルイ! だったら…」
「うわー、これはマズイなー…」
上空に浮き上がったフランがこう言うと、さっきまで左右に平行移動していた大玉弾幕が、今度は上下に、文字通り上から下へと落下してきたのだ。このままではいけないと俺は慌てて起き上がる。そして、懐のスペルカードに手を伸ばした。
「流符「コールド……」
抜き出し、宣言しようとした所で止めた。俺は切り替え、上からの弾幕を避ける準備をする。
「あれれ〜? 使っちゃわないの〜?」
「生憎貧弱でね、俺は!」
と言うのも、俺が霊力や妖力もなくスペルカードを発動できるのは自身の"気力"を使っているからだ。言うなら、精神力と言っても良いだろう。その中でも流符「コールドウェーブ」はかなりの精神力を要する。一日ニ回が発動の限界なのだ。三回目はどうやっても発動しない。
(まあ、最近になって気づいた事だけどっ!)
落ちてくる弾幕と四方の弾幕との距離を考えながらこれも紙一重で、いや、かすりながらかわす。
こんな状況でこそあのスペルカードを使うべきだと思うのだが、フランがコレ以上の弾幕、スペルカードを持っている可能性も否めない。ここは自力でかわすべきだ。
「しまっ!」
そう結論づけた直後、弾幕が落ちた事でできた穴に躓(つまず)き、大きくバランスを崩してしまった。すぐ上空には弾幕が…。
「せめてこれでっ!」バチッ
「!」
不意に手を出した。直撃を少しでも免れるために行った行為だが、どういうわけか直撃すらせず跳ね返ったように上へと戻っていった。痛みもそこまで感じない。
この現象には自分自身でも驚いたが、すぐまた別の弾幕が落ちてきたため俺は転がりながらそれをかわす。
「へえ〜……面白いねユウヤって」
そんな俺を見て、フランは興味深そうな顔を覗かせる。まるでこの玩具は楽しめると言っているみたいに…。
「壊しちゃうのがもったいないくらい♪」
「っ!」
フランが手を前に翳(かざ)す。すると、今まで雪崩れ込んでいた大玉弾幕は止み、今まで檻のような役割を果たしていた大玉弾幕が少しずつ俺の方に近づいてきた。光景だけ見ると、蝶を慎重に捕らえる時の手の動作と何処か似通っている。もちろん手とは違いこんなのに挟まれたら一貫の終わりだが…。
「……すぅー、はぁー」
一旦落ち着かせるため深呼吸し、俺は迫りくる大玉弾幕を再度見渡す。四方の大玉弾幕の大きさは自分の身長の二倍くらいありジャンプして避ける事は難しい。下を潜り抜けるのも無理だ。また、通り抜けられそうなスペースらしきスペースも存在しない。飛んでしまえば良いのだけどそれができたら苦労しない。仮に飛べたとしてもそれをフランが妨害するだろう。
詰んでしまった。まさに今の俺の状況がそう物語っている。
「……」
だが、俺にはまだ考えがあった。俺は一つの大玉弾幕に向けて走り出す。スペルカードを使う? いや、違う。
「っ! やっぱりな」バチッ
「おぉー、またまた跳ね返しちゃったよ」
目の前の大玉弾幕はさっきと同じように弾き飛ばされる。
実はさっきの現象は一回だけ体験していたのだ。嫉妬異変時、チルノの「パーフェクトフリーズ」の弾幕を弾いた時がそれだ。今の今まで気にも止めていなかったが、どうやら対象物と自分の動作が重なった時に起きてしまう現象らしい。今回はフランの弾幕と俺の手の出すタイミングが一致してしまったのが原因だろう。
また、この現象は対象物が遅いほど起こりやすいようだ。迫り来た方の弾幕はお世辞にも速いとは言えなかった。故に合わせるのも差ほど苦労はしなかった。
「変な能力だよな! 受け流すだけじゃないのかってんのっ!」
だが、おかげで上手く行った。俺は大玉弾幕の密集地を抜け、上空のフランと出来るだけ距離を取る。フランは相変わらず違和感の覚える笑顔を貼り付けていた。
「じゃあ、あたしも面白いもの見せてあげるよ♪」
「?」
そう言うと一点に集まった大玉弾幕に手を向ける。大玉弾幕は時々色を変えながら、更に一点に集まろうとしていた。ギュウギュウと苦しそうな音が周囲に響く。
(……マズイ!)
俺は弾幕から一番遠くに位置しそうな壁に向かって走り出した。俺が想像したのはゼクスのあのスペルカードだ。確かオキシガンパクトだったはずだ。大気中の酸素を一点に圧縮し、後に一気に開放。その時の衝撃波を周囲に飛ばす…。
俺の想像通りなら今現在フランがやっている事も…!
「くっ……うおおおおおおおっ!!」
険しく鳴り響く音を耳に入れつつ、俺は全速力でその壁に向かった。地面を強く蹴り、壁も壊すくらいの勢いで強く蹴り上げた。……それとほぼ同時だった。
ドガガアアアアアアアァ!!
「うっ……あ…」
予想通りだった。一点に集中する事に限界を迎えたのか、大玉弾幕は粒状の弾幕へと弾け飛び、周囲に大きく展開したのだ。先ほど蹴り上げた壁の無惨な姿が目に映る。
壁を蹴り、高く跳び上がった事で幸いしたのか、弾幕の直撃に関してはどうにか免れる事ができた。だが、壁が破壊された事で生まれた衝撃波に関しては流石に免れる事はできなかった。為す術なく、俺の身体は玩具を捨てる時のような放物線で投げ出されてしまう。
「くっ……後ろには…」
「あはははは、禁忌『レーヴァテイン』!!」
フランが居る。右手にはどうやって持ってるんだと驚愕するほどの巨大な剣を持ち、それを俺目掛けて振りかぶろうとしていた。俺はスペルカードとサバイバルナイフを抜く。
「流…符『カバーリング』!!」
「!」
周囲に金属音が木霊する。俺は少し前に編み出していたスペルカードを使い、巨大な剣の直撃を防いだのだ。
このスペカは自分の受け流す力を武器に開け与えるというもの。また、武器やその種類によっては性質も微妙に異なった形を見せる。例えば刃物で言うと、今持っているサバイバルナイフ等短い物は接近での受け流しに強いが、受け流す範囲は小さい。真剣等長い物は受け流す範囲は大きいが、接近での受け流しに弱い。フランの巨大な剣をサバイバルナイフ如きで受け流せたのもこのような効果があっての事だ。
ただ、自分が空中に居た事とフランが力で押し込んだ事もあって地面に強く叩き付けられてしまう。
「ぐっ!」
背中に違和感が走った。まさか、背骨が折れ━━
「とーーどーーめっ♪」
「っ!」
確認している余裕などなかった。すぐに剣を振り下ろしてきたため、俺は転がりながらそれをかわす。幸い転がる事ができるという事は背骨は折れていなかった。
「あはは、何かかわし方が泥臭いねっ」
「よく言われるよっ!」
すぐさま立ち上がり、剣を乱暴に振り回すフランと相対する。しばらく金属音の応酬が続いた。正直合わせる事に精一杯だった。合気道での反撃もできないほど、フランの動きはメチャクチャだったのだ。
「くっ……このままじゃじり貧…」
「そーーぉりゃあ!」
「!!」
じり貧所の騒ぎではなくなってしまった。受け流し損ねサバイバルナイフは俺の手から離れて行ってしまったのだ。
ニィと笑い、今度こそトドメだとばかりに剣を突き出すフラン。俺は一か八かあの現象を信じ、両手を前に突き出す事に決めた。
「ぐあっ!」バッチィ
どうにか直撃だけは避けた。だが、勢いは殺しきれず、そのまま壁へと叩き付けられた。叩き付けられたのが二回目という事もあり痛みは単純にその二倍。背骨がまだ折れてないのが嘘みたいだ…。
「はあ…はあ…」
俺は壁にもたれるような形で何とか立ち上がる。ここまでだけでもボロボロだ。さっきので頭を切ったのか、生暖かい液体が頬を伝う。
「えへへっ、ゆ〜う〜や〜♪」
対照的に服すら汚れてないフランは、俺の様子を笑顔で眺め見ていた。これら全ての惨状を一人で、しかも無邪気に行ってるんだから本当に凄いなとも思う。もちろん褒めてはいないが…。
「もっともーっと本気でやっても良いよね♪」
「……正直、ルールとかはほしいけどね」
「じゃあ、あたしに一回でも触れる事ができたらユウヤの勝ちっ! どうどう?」
「物分かりが良くてたす━━」
「で・き・れ・バ・ダ・ケ・ド・ネ! アハハハハハハハハハハッ!!」
フランの表情が変わった。さっきまでの無邪気な表情とは違い、殺す事も躊躇しない残忍な表情に……それでいて狂ったように笑い始めた。
「禁忌『フォーオブアカインド』!!」
宣言と同時にフランの数が四体に増える。そして……
「禁忌『カゴメカゴメ』!」
「禁弾『スターボウブレイク』!」
「禁忌『恋の迷路』!」
「禁弾『カタディオプトリック』!」
「……」
それぞれからスペカ宣言をしてきたのだった…。
目の前から広がる光景にもう何も言葉が出なかった。かわせるレベルの問題じゃない。死体が残ってれば良いレベルの問題である。
だが、この光景を間の当たりにしても、スペルカードを構えるだけの気力が俺にはあった。
「アハハ、ナーニヤッテモムダダヨ〜♪」
「そうかもな。でも……諦めるわけにはいかないんだよっ!!」
俺はあいつに何一つまともな事をやれてない。むしろ迷惑をかけてばかりだ。最近だって喋る事すらできずにいるのに…。
もうこれ以上、あいつに迷惑をかけたくない。俺が死んだ事で絶対に悲しませたくない! 好きだと言ってくれたあいつのためにもっ!
(そして、レミリアさんのためにフランを…!)
あいつの笑顔を守りたい。この姉妹の未来を守りたい。この二つを、この二つだけを強く想い続けながら俺は宣言した。
「流符『コールドウェーブ』っ!!」
ゴッシャアアアアアアアァァァ!!