夜空に消えた光・譲れない想い

□495年越しの仲直り
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「「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」。全ての物質には「目」という箇所があり、そこに力を入れると簡単に破壊してしまう能力。フランには生まれつきこのような能力があった。それは後に私とフラン本人を苦しめる能力に繋がった…」
「……」
「最初は物を破壊する程度で済んでいた。私と一緒になって遊んでいる時、たまたま近くにあった木や窓ガラスなんかがそうかしらね。まだその程度だった。でも、破壊の対象は物だけには留まらなかった。人に、そして、その命にまで及んだ。しかも、この時はフランの意思味方関係なく能力だけが暴発してたわ。今みたいに能力を使いこなしてなかったの」

 私は一息吐く。ここから先はあまり思い出したくない内容だ。

「両親は言った。何もない地下室に閉じ込めてしまえばどうかと。そこでしばらく様子を見よう…と。私は反対した。フランが可哀想。もしフランを閉じ込めるんだったら、私もそこでフランと一緒にいる。意見は対立した。話し合いは何回か設けられたが、結局は何も対策が取れないでいた。……それが災いしたんでしょうね。両親はフランの能力の犠牲になった」
「!」

 その時のフランはわんわん泣いてたっけ。私の胸でいつまでも泣きじゃくっていたのを思い出す。それなのに私は…。

「私はこの時……フランを恐れた。両親の次は私だって。私だけじゃない。フランが存在する限り生きるもの全てが彼女の掌にある。もう躊躇してられなかった。私はフランを地下室へ閉じ込めるに至った。皮肉にも反対していた両親の意見を私が行使していたんだ…」
「……」
「屋敷ごと幻想郷に移り住んだ後もその体制に変化はなかった。メイド妖精に食事を運ばせ、私は罪悪感に蝕まれる哀れな姉。たまにフランが飽きないようにと玩具や人間を送り込んだけど全部壊れて返ってきたわ」

 一種の罪滅ぼしのつもりが全部逆効果だった。私のやる事なす事全てがフランを苦しめていたのかもしれない…。

「地下室から出そうと何度も考えた。でも、出せなかった。その度に両親の死に顔が脳裏を過ぎったから。私もああなるんだって恐れたから…」
「……メイド長等が紅魔館に加わったのはそんな中か…」
「ええ。でも、家族が増えた事によりもっとフランを出しづらくしてしまった。家族が失うのはもう耐えきれなかった…。
 結局はそんな自分の勝手な都合や感情で、いつまで経ってもフランを出す事ができず、気付いたら495年の年月を費やしていた。そんな時、転機が訪れた」

 私は一人の親友と、後からやってくる二人の異変解決組を思い浮かべる。

「私はある異変を起こした。人は「紅霧異変」とも呼ぶ。吸血鬼の弱点である日光を紅い霧で遮るよう試みた異変だ。
 この異変を起こした理由は、周りからは私の私利私欲のためと認識されてるけど、本当は私たち姉妹の未来のため。この時、私はフランを地下室から出そうと決心していたの。その切っ掛けと勇気をくれたのが家族の一員であり私の親友のパチュリー。何も出来ず地下室の前を何万回とウロウロしてる私に、あなたが今やっている行為は妹様のためになるの、心配するだけなら誰だって出来る…ってこぴっどく叱られてね」

 この時は私がわんわん泣いてたわね。もちろんそこまでは言いたくないけど…。

「で、フランと仲直りしたら、昔みたいに外で一緒に遊んだらどうだってこの異変を勧められたの。要は紅霧異変は一種の実験みたいなもの。異変自体も二日程度で終わらせるつもりだった。その日の内に日光が遮られると判断できたら、次の日までにフランと仲直りして、日の出ない空の下、二人で笑顔で…。
 そんな私にとって夢みたいな未来を実現したい。大丈夫、私にはそれを実現できる能力がある。「未来を操る程度の能力」、この能力さえあれば何も怖いものはないはずだ。大丈夫、きっと大丈夫……そう意気込んでいたわ。でも、異変は呆気なく一日で解決された。ちょうど紅い霧の現象は立証された後の出来事だった。あなたも知っていると思うけど、博麗の巫女博麗霊夢と普通の魔法使い霧雨魔理沙にね」

 ここには誰も来ないって未来を貼り付けておいたのにね。特に博麗霊夢の方は私の能力があまり適用しない奴だった…。

「異変解決組の二人は紅魔館に侵入し、美鈴、小悪魔、パチュリー、咲夜と破り、最終的に元凶の私の所まで辿り着いてきた。私は持てる力全てを奴等にぶつけ、一時は私が勝てる未来が見えてきた所まで追い込んだ。けど、敗れてしまった。異変も解決され、私の夢も費えたかと思った。そんな時、下から、地下室の方から大きな音が響いた。事情を知っているパチュリーが、ちょうど石扉の魔法陣を緩めていたんだね。フランが地下室の扉を破壊した音だった」

 私は目を閉じる。目を閉じただけでもあの時のフランの顔が鮮明に思い出される。

「気になった異変解決組は地下室へ向かって行き……そして、そのままフランと戦闘になった。咲夜の肩を借り、私も現場に急行した。私は驚いた。何百年ぶりに合う妹の姿は、かつての純粋だった妹の姿と遙かに懸け離れていた。狂気に歪み、相手を傷つける事を生き甲斐にと楽しんでいた。……私のせいだって思った」
「……」
「この後、フランの狂気を霊夢が打ち破ってくれた。敗れた魔理沙もフランの心の支えになってくれた。フランが能力を扱えているのを知ったのも二人のおかげだ。本当は二人に感謝しなくてはならなかった。でも、私はそこまで頭が回らなかった。私の中にあったのは罪悪感しかなかった」

 仲直りという言葉も自然と離れていった…。

「結局、それが最後まで残った。最初に地下室から出した時だって私の口からは伝えなかった。咲夜の口を使った。閉じ込めたのは私だって言うのにね…」
「その…パチュリって人は…?」
「もちろん大激怒。でも、もう仲直りなんて甘い考えは切り捨てると断言してやった。もう姉妹二人で笑い合う事もないと思ったから…」

 未だにその事でパチュリーともいざこざみたいなものが出来てしまっている。まあ、自業自得か…。

「フランが私たちと同じ生活をし始めても、私はそこには誰もいないものとして接した。話しかけなかった。目すら合わせなかった。フランが恨み憎むべき存在、レミリア・スカーレットであり続けた。今のフランが望んでるのはそんな自分だと思った。そんな生活を今の今まで繰り返してきた…」

 私は目を開ける。そして、奴に向かって言った。

「……後はあなたに説明した通りかしら。嫉妬の異変により暴走したフランを再び地下室へと閉じ込めた。ああ、地下室に閉じ込めた部分は抜かしていたわね。でも、そうした理由は……もう分かるでしょう?」
「家族が失うのが怖かったから…か」
「ふふっ、フランだって家族なのにね。それも唯一の肉親で大切な妹なのに…」

 自傷気味に笑う。もう姉というのもおこがましいのかもしれない…

「お前の存在が妬ましい。お前さえいなければあたしは、あたしは…だったわね。閉じ込める間際、フランが私に吐き出した台詞…」
「……そうか」

 まるで同情するような視線を送る。敵なのに不思議な奴だ。さっきまで怒りの感情を抱いていたのに、気付いたらそれすらなくなっていた。時折甘い言葉を投げかけたりもする…。

「もう仲直りできないのか? こんなんじゃ悲しすぎ━━」
「私の話で分かったでしょ。私は妹に不器用…と偽り"臆病"なんだって。それに…」

 それにもう……



「私にはもうそんな資格すらないのよ…」

 
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