動き始める時・伝染する負の感情

□宴会に誘いなさい
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「ありがとうございましたー」


 人形を買っていった客に、見送りの挨拶をする俺。

「……どうかしましたか?」
「ん〜〜」

 それをカウンターからじーっと眺めている店長。どうしたのか俺は聞く。いや、聞かなくても分かるか。


「顔面強打したのかに〜?」
「……やっぱりか」


 俺の顔中に貼られた絆創膏(ばんそうこう)やテープだ。昨日にはなかった物だし、指摘するのは当然ですよね…。





「……という事がありまして」
「にゃるほどに〜」

 とりあえず、昨日の出来事を簡単に話した。チルノの下着を見て(不可抗力だが)、その色を口に出したから、弾幕をぶつけまくられこうなったと。聞き終わった店長は、どこか呆れた表情になってる。

「バカにゃ〜」
「は、はっきり言われた…」

 ちなみにあの後、チルノは目を合わせる事もなく帰って行った。俺も俺で謝ろうとしたが、雰囲気が悪すぎてできなかった。
 この状態は、チルノと初めて喧嘩らしい喧嘩をしてるで合ってるだろう…。

「とにかく、仲直りは早めにしにゃよ〜」
「そ、そうなんだけど…」
「ん?」
「俺、女の子とこう……喧嘩した事がないからさ…」

 元の世界では男友達しかいなかったので、女性との接点が少なかった(今は多いが)。だから、こういう時にどうすれば良いのか。男なら素直に謝れば許してくれてたけど、女の場合は良く分からなかった。

「ん〜、ユゥは確か外来人だっけ〜?」
「はい。だから、女の友達とかは幻想郷で初めてで━━」
「ホモか☆」
「違いますからね。変な解釈は入れないでください」

 俺は至って普通だ。異性に対して気にしなさすぎと言われた記憶はあるが普通だ!

「でも、本当にどう謝ったら…」
「そう深く考えなくても同じで良いんじゃな〜い?」
「え? そうなん━━」
「でも、あっしから言わせれば、どう謝ったらよりどう気持ちを伝えるかだけどに〜」

 店長はどことなく人形をカウンターに置き、それを縫い始めながら言う。

「謝ったって、上辺だけの謝罪じゃ許せないよ。それは同性も異性も一緒…」
「……」
「それで許せる人はそれで良いけど、そこまでの関係だって事だにぃ。信頼関係が薄いか、全くないかかな〜」

 何でだろう、少し胸が痛くなるのを感じた。そんなの分かってたはずなのに、分かってなかったように……店長の言葉が的を射てるのかな…。

「まあ、二人はそこまでの関係じゃないよね…っと」
「!」

 そう言葉を切ると同時に、店長はその人形を投げ渡してきた。俺は慌ててキャッチ。中くらいの大きさで、片手で掴めるようなクマのぬいぐるみ(人形じゃなかった)だ。その両手には、ちょうど良いように新聞が挟まっている。

「この新聞は?」
「幻想卿の新聞の一つで「文々。新聞」。実は昨日、パパラッチの鴉天狗さんから貰ってね〜」
「ぱ、パパラッチ?」
「ユゥの取材で来たとか言ってたけど、その時が午後だったから無駄足に終わってたよ〜。それで、立ち去る際に、この新聞を貰ったんだに〜」

 また無駄足に終わらせちゃったのか。その鴉天狗にも悪い事しちゃったな…。

「でも、パパラッチって言うくらいだから、ラッキーだったのかな?」
「ラッキーだったかもね〜。本来だったらしつこく探しまくるんだけど、それをしなかったのは宴会の準備で忙しかったからかな〜?」
「え? 宴会?」
「読んでみ〜♪」

 店長に言われるままに、クマから新聞を抜き取り、それを大きく広げる。一面しかなかったが、その一面にでっかく「博麗神社で宴会をする」と書かれていた。

「参加は自由で、良くハクちゃん(博麗)でやるんだよ〜。あっしはだるいから参加ゼロだけどに〜」
「……それで、これが何になると?」
「察しが悪いにゃ〜。せっかくチルルに謝れるキッカケがあるのに〜」

 ここまで来て、店長が言いたい事を何となく理解した。

「つまり、誘うついでにさっさと謝れ…か」
「そう。ウジウジしてると長引くよ〜。てゆか、ホントに悪いと思ってるなら、さっさと謝りに行けるものやで〜」
「うーん……でもなぁ…」
「いつまでも喧嘩中が良い?」
「そ、それは…」

 チルノはここに迷い込んで最初にできた友達、今は親友だ。今後、そんなチルノと会話はもちろん目も合わさないとなると……絶交したみたいで何か嫌だ。

「……」
「うむ。今すぐにでも謝りに行きたいなら、早めだけど上がっても良いよ〜」
「え?」
「だって、顔が「仲直りしたい」って言ってる〜」

 口には出してないけど、顔にはもろに出てたのか。実際にそう思っていたから、それほど嫌だったと改めて感じさせた。

「……店長」
「オ〜ッケ〜。ただし、それは返してからね〜」
「! ありがとうございます」

 些細な事でもチルノを傷つけたのは事実だ。それなのに俺は……すぐに謝りに行かないと!
 店長にぬいぐるみを返し、俺は猛然と店から出て行った。



「ふむ、下着くらいで大げさすぎだね。しかし、鈍感にヘタレ気味とは……チルルも酷い貧乏クジを引いたもんだにゃ〜」




 
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