動き始める時・伝染する負の感情
□異変の前触れ
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「本当にこの辺りなんでしょうね? ザコ妖精しか見えないのだけど?」
悪戯をしかけてきた妖精を弾幕で退けながら紫に聞く。
昨日同様、私と八雲紫、そしてその式神(藍と橙)は、早朝から幻想郷への侵入者を捜していた。今は二手に分かれ、紫と共に魔法の森を探索している。
「私が嘘を付いてどうするのよ。ええ、またその妖気がここで感じられたわ」
紫の話だと、魔法の森に何らかの形で侵入者の妖気が残っているらしい。けど、この広い森にたった一つの妖気を探すのは困難を極めていた。私は次第に苛立ちが募ってくる…。
「まあ、手がかりだけならもしかしたら捜せるかもね」
「こっちは手がかりじゃなくて侵入者を捜してるのよ! そんな悠長に構えてる時じゃないわ!!」
そいつの目的が何にしろ、意図的に入って来たのは明らか。幻想卿の事も知っているはずだ。長引くとそれだけ危険にさらわれてしまう。
紫のような大妖怪がそんな事も分からないのかと、私は大声で怒鳴る。
「落ち着きなさいって。いくら捜すと言っても、情報が少ないんじゃ時間がかかるわ。私たちが短期間で探すのに、少しでも手がかりを見つけて、そこから想定する必要があるのよ」
「でも!」
「紫様、霊夢さん、大変です!!」
反論しようと口を開こうとした時、二手に分かれていた橙が切羽詰まった様子で私たちを呼んできた。藍もその後ろから付いて来ていて、誰かを背負っているようだった。
「……どうしたのかしら、橙?」
「厄神様が…」
橙は藍の背中の人物を見て、痛々しそうに言った。私と紫は顔を見合わせる。私たちは急いでその人物に近づいた…。
「ひ、雛!?」
「この子が最初に襲われたのね…」
その人物とは、昨日宴会に参加してた鍵山雛だった。
体のあちこちを斬られて……いや、えぐられてると言った方が良い。とにかく、酷い状態で意識もなかった。
「息はしてます。しかし、かなり危険な状態かと…」
「なるほど、私の隙間で永遠亭ね。あまり神助けはしない主義だけど、どうしようかしら?」
「ちょっと、見殺しにするつもり!? 侵入者の情報を持ってるかもしれないのよ!!」
「冗談よ。というか、情報よりこの子の心配しなさいよ…」
紫はそう言って、目の前に大きな隙間を出した。