動き始める時・伝染する負の感情
□ピンチの連続!
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「つっ、頭いてー…」
多少痛みも引いたので、布団からのろのろと立ち上がる。それでもまだ痛い…。
「ったく、鬼の酒なんて飲み物じゃな━━」
バンッ!!
「ユーーヤーー!!!」
不意打ちとばかりに、ドアが勢いよく開いたと思ったら、自分の腰に抱きつかれる衝撃が走る。
(あはは……朝から元気だ)
「チルノ、ノックくらいしてな…」
苦笑いしつつ、その頭を撫でて言う。それに対し、チルノはどこか震えてる?
「い、今はそれどころじゃないよ!!」
「ん? それどころって━━」
「妬ましい……気づかないのが妬ましい!」
「!!?」
チルノの伝えたい事が、この光景で良く分かった。開けられたドアの先、大ちゃんが……包丁を片手にそこに立っていた!?
「ななな何!? 何があったの!?」
「ゆーやー…」
大ちゃんから隠れるように、チルノは前から後ろに移動。小刻みに震えてるのを改めて感じた…。
(と……とにかく、状況を確認しないと!)
「ど、どうしたんだ、大ちゃん!」
「妬ましい…」
「何か気に入らない事でもあったのか!?」
「ホントに…妬ましい…」
大ちゃんは光ない瞳で、パルスィみたいに「妬ましい」を連呼させるだけだった。しかも、包丁をちらつかせながら、じわりじわりとこちらに近づいてくる…。
「ちちち、チルノ! お前、何かしたのか!」
「なんもしてない…」
「何もしてなくてああなるのかよ!?」
「ほんとだもん…」
抱きついた状態で、チルノはもごもごと答える。
ていうか、今は離れてくれない? 目の前の光景がめちゃくちゃ怖いからさ!
「気づかないのが妬ましい…」
「何に……って、うわっ!?」
大ちゃんは、もう俺の目と鼻の先まで近づいていた!
「え、えーっと……武器を持ってるから…」
「妬ましい!!」
包丁を上に掲げ、振り上げた瞬間、
「あ、あれだ!」
咄嗟に行動に移せた!
大ちゃんの右手首を右手、右肘を左手で掴み、自分方向に捻る。
次に自分の左手も右手首を掴み、その状態で前進し床に右肘が付くように大ちゃんを押さえ付けた。
この技は「正面打ち第四教」の表で、あまり激しい動きがいらない技だ。
「!?」
「ゴメン、大ちゃん! しばらく寝っててくれ!!」
「うっ……」
大ちゃんの首に手刀を入れる。気絶したのか、妬ましいの声も消え、大人しくなった…。
「ふう……大ちゃんはこれで良いかな?」
到底想像できない出来事があった後、やっと落ち着いてきた俺は、気絶した大ちゃんを布団の中に入れる。
ホント、酔いが一瞬で覚めてしまうほどだった…。
「さてと……何があったの?」
とにかく、現状を知ってるはずのチルノに聞く。あんな事があって、答えられるかどうかは分からないけど…。
「え……えっと、えっと…」
「焦らなくて良いよ。ゆっくり答えれば大丈夫だからさ」
「う、うん…」
チルノは頷いた後、深呼吸をして言葉を選ぶように口を開いた。
「そ…それがホントに分からないんだ。起きた時にはもうあんなんだったから…」
「その言い分だと……大ちゃんに起こされたが正しい?」
「うん……あたいが寝てた時、妬ましいって声が聞こえて……目開けたら、包丁を持ってる大ちゃんが居て…」
「そっか。じゃあ、大ちゃんが具体的にああなったまでは分からないか…」
「と、とにかく、あたい怖くて、ユーヤの家まで来た…」
チルノは脅えながら答える。その様子を見て、俺は罪悪感を覚えた…。
「何か……無理に言わせちゃったな。大丈夫か?」
「う、うん、もう大丈夫! 少しは落ち着いたよ…」
チルノはもう一度深呼吸をして答えた。
(にしても、大ちゃんはどうしてこんな事を…)
「あっ! そういえば、人里の人たちの様子も変だった! 大ちゃんと同じような感じで━━」
”・・・しい”
「……話を折るようで悪いけど、今何か聞こえなかった?」
”・・ましい”
「う、うん。何か聞こえる…」
「だ、だよな…」
”・たましい”
唸り声が、ゾンビが声を出したらこんな風に聞こえてきそうな唸り声が……外から響いてきた。
それも、だんだんと声が大きくなっている…。
(これは……本格的にヤバイ!)
”妬ましい”
「チルノ! 大ちゃんを連れてここから出るぞ!!」