IS〜インフィニット・ストラトス〜 とあるはみ出し者
□第1話 はみ出し始め
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「父さん。この写真に写っている人って誰? 父さんに似ているけど」
少年――桂はそう言って自分の父親に一枚の写真を見せた。そこには、自分の父親と顔が似ている男の二人が肩を組んで写っていた。
「あぁ…これは兄さんだよ。まぁ…もう十年くらい会ってないけどね」
父親はそう言って写真を懐かしそうに見ていた。桂はまだ小学生ではあるが、両親の血を受け継いでいるのか、勉強も運動も平均以上で聡明な少年だった。だから、父親の言葉に含むものを感じたが、聞くことはしなかった。だが、父親は肩をすくめて話し始めた。
「僕は…そうだねぇ。桂なら分かると思うけど、ちょっと特殊な家の出身でね。まぁ、特殊部隊を家業にしている家と思ってくれればいい。そこの宗家の次男坊だったんだ。今、桂に教えている体術とかもその家に伝わるものなんだよ」
「母さんもその家の出身なの?」
母親は生まれつき体が弱いが、元は国家レベルの研究に携わっていたという才女らしい。ならば、母親もその家出身かと思ったが父親は首を振ってその考えを否定した。
「母さんは、僕が家を出てから会ったんだ。丁度、僕が行き倒れそうなときにたすけてくれてね」
何でも、家業を兄弟のどちらが継ぐかで家が二つに割れそうになったため、兄に置き手紙を残して家を飛び出したのだが、すぐに路銀も尽き果て、ホームレスになろうかというときに不良に絡まれていた母親と出會ったらしい。
「まぁ、兄さんは怒っているかもね。手紙だけ残して家業をほっぽり出したから。でも、兄さんと争うのは嫌だったし…丁度兄さんがロシアの特殊部隊隊長の娘さんと結婚しようとしていた時だったからね。幸せそうな二人を見ていると…ね?」
最初は政略結婚の予定で、自分が兄のどちらかと結婚することになっていたのだが、兄と彼女が仲良くしているのを見て自分がいないほうが余計な波風を立てないと考えたらしい。
「でも、そのおかげで母さんと会えたし、桂という息子を得ることができたんだ。兄さんには悪いけど、僕は今幸せだよ」
兄と連絡を取らないのは、家業を継ぐために共に努力をしてきたのに「兄弟で争いたくない」という甘い考えで逃げ出した自分を恥じてのことらしい。
「さて、そろそろ僕は仕事に行ってくるよ。桂も、そろそろ千冬ちゃんたちが来る頃じゃないかな?」
「うん。父さん…別に恥じる必要はないと思う。きっとおじさんもそう思っているはず」
桂の言葉に父親はきょとんとしていたが、しばらくするといつもの優しい笑みを浮かべて桂の頭を撫でた。
「ありがとう。そうだな…いつかは兄さんと会わないといけないな」
父親はそう言って仕事に向かった。桂はその後姿を暫く見ていたが、すぐに自分を迎えに来た幼なじみの二人の少女と共に学校へと向かった。
「桂…どうしたんだ?」
「はっ! まさか、かっちゃんに春が!? 誰だよ! ゆる「そんな訳ない」」
桂が二人とあったのは小学校の入学式。優秀な両親の影響なのか、すでに大学レベルの知識はあった桂は、はっきりというなら達観していた。そのため、小学校 で浮かれているクラスメイトを一歩退いた目線で見ていたのだが、それに気づいて近寄ってきたのがこの二人。ほにゃっとした感じの篠ノ之束が言うには「君は 私と同じ感じがする」とのこと。
そこから、凛とした雰囲気の織斑千冬とも仲良くなり、今では結構仲が良い。
「父さんも苦労していたんだなぁと思っただけだ」
「健二さんが? ひよりさんのお世話もあるから?」
「いや、そういう訳じゃない。人間、知らないところで苦労しているんだと思っただけだ」
「ふ〜ん」
束は他者に対して排他的ではあるが、桂の両親は受け入れていた。特に、母親であるひよりに憧れている部分もある。
「あ、ならかっちゃん。今度、ひよりさんに会いに行きたいんだ。ちょっと、色々聞きたいことがあってさ!」
「ん? まぁ、電話で聞いてからになるとおもうが?」
「オッケー! ありがとね!」
最近、束は何かに熱中している。千冬も関わっているらしいが、自分には教えてくれない。まぁ、女同士の何かしらがあるのだろうと考えていた。
「そうね……ここはこうすればいいんじゃないかしら?」
「なるほどー!」
ある休日の病院の一室では桂の母であるひよりと束が何かの設計図を片手に意見交換を行っていた。千冬はひよりにお茶を淹れながら話を聞いている。
「そう言えば桂はどうしたの? 健二さんはお仕事だと思うんだけど」
「かっちゃんなら鉛入りのベスト着てランニングに行くっていってたよー」
最近、夫である健二から色々と話を聞く。自分がかつて所属していた対暗部用暗部『更識』で受けていた教育を桂に施していたのだが、まるでスポンジが水を吸うようにどんどん自分の物としていった、と。
それを聞いて、ひよりはやはり血が繋がっているものだと思った。健二は今でこそ優しい好青年であるが、生まれは警察の公安のような暗部組織のため、身体能 力も知識も高かった。それに、時折寂しそうな顔をする。それは多分、実家への負い目でもあり、兄への負い目なのだろう。暗部組織なら健二の居場所をすぐ探 せるはずなのだが、見つかっていないのは健二が何らかのツテを使っているからなのだろう。
「……男って不器用ねぇ」
「「??」」
まだ「少女」である二人にはそこら辺は分からないのだろう。そう思いながらひよりは『インフィニット・ストラトス』と銘打たれた設計図の添削を始めた。
「……剣道じゃないんだね」
「う〜ん。まぁ、基礎を学ぶという意味では剣道もいいんだけどね。それに、これはどちらかと言えばタイ捨流に近いかな?」
仕事から帰ってきた父親と修行をしていた桂はふと質問してみた。今は木刀を使っているのだが、剣道などではタブーの足元への攻撃や、剣道などではありえない目潰しに蹴撃や拳撃などを使っている。
「『剣』のみに限定するのは及第点と教えられたんだ。まぁ、極めれば関係ないかも知れないけどね」
「ふーん。まぁ、言いたいことは分かるよ」
要するに剣は手段の一つなのだろう。まぁ、それは暗部組織とか傭兵なら当然と思い桂は父親との修行を再開した。
そして、翌年にひよりの体調が回復したため家族旅行に行くことになった。最初は束が自分も行きたいとごねていたが、千冬に殴られて気絶していた。
「桂。おみやげを頼む。出来れば、一夏も食べられるような」
「一夏…あぁ、あのちびっ子か」
一回だけだが、千冬の弟を見たことがある。ただドギツい女難の相が出ていたのは気になったが。
「ああ。頼めるか?」
「大丈夫だ。任せておけって」
束にも土産を買ってくると約束して、桂は両親と共に旅行に出かけた。目的地はヨーロッパらしい。空港で見送った二人はどんなお土産を買ってくるのかがすごく楽しみだった。
「でも、よく考えるとかっちゃんのセンスって……」
「そう言えばそうだったな」
家に帰った二人は、桂のセンスが悪いことを思い出したのだ。
例えば、台所に現れる『G』を凄い生き物と思っていたり。いや、実際に凄い生き物ではあるのだが、ありがたがるのはご遠慮願いたい。
「まぁ…ひよりさんもいるし大丈夫だろう。健二さんは……分からないけど」
「あ〜……」
ぶっちゃけ健二も同様にセンスがない。よく温泉街の土産物屋にある『根性』とか書かれたキーホルダーを買ってくるような人だ。
「……まともなものを期待しよう」
「そだね。とりあえず、さっさとISを完成させてひよりさんをビックリさせよ〜っと」
立ち上がった束を横目に千冬が何気なくつけたテレビにあるニュース映像が流れていた。
フランスに向かっていた旅客機が自爆テロにより墜落したというニュースが。そして、その旅客機は桂たちが乗っている便だった。
初めに目に入ったのは、黒焦げになりながらも自分をかばっている両親の姿だった。
鼻に入ってきたのはむかつくほどの肉の焦げた匂い。
耳に入ってきたのは、未だに燃え盛る炎の音。
「父さん……母さん」
自分は大丈夫だと告げようとしたら、二人はボロボロに崩れた。まるで、役目を果たしたかのように。桂は聡明だった。だから、両親が死んだことも理解したし、泣くこともなかった。そして、立ち上がると声が聞こえた。
「た…たすけて……」
「……」
そこに居たのは、旅客機が墜ちる原因となったテロリストの生き残り。はて? 自爆テロを敢行したのに助けてくれとはコレ如何に? 桂は無表情のまま手近にあった瓦礫をテロリストの頭の上に落とした。
「ぎゃぴ―――」
訳の分からない断末魔の声を上げてテロリストは死んだ。そして、ふと思った。もしかしてこのテロで生き残ったのは自分だけなのか?と。
「生き残りは……いるかな?」
しかし、あらかた探しても生き残りはいなかった。全員死んでいる。何故か仲間はずれにされた気分である。
「……弾かれた?」
自分だけ『みんな一緒に死んだ』という事実から弾かれた様に感じた。無論、それは運が良かったのと両親のおかげなのだろうが、どうせなら両親と一緒に死にたかったと思う。でも、自分はこうして生きている。
「……」
桂は無表情のまま立ち尽くしていた。しかし、すぐに歩き出した。
―――弾かれた自分はここにいる必要はないと考えて。
数時間後にレスキュー隊が現場に到着したが、生存者はおらず『乗員乗客・犯人含めて全員死亡』という発表がなされた。
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