IS〜インフィニット・ストラトス〜 とあるはみ出し者
□第2話 更識にて
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「君が健二の息子、かな?」
「……誰だアンタ?」
ドイツで出会った企業の社長という男の協力で日本に戻ってきた桂。しかし、戻ってきても自分がふらりと現場から消えたので自分は死んだことになっているた め居場所はない。そのため、とりあえず裏路地の不良などを潰してその日暮らしを行っていたのだが、ある日自分が根城にしている廃ビルの一室に一人の男が現 れた。
「私は…更識楯無という。まぁ…君の叔父といったところかな?」
「なるほど…アンタが親父が言っていた「自分にはもったいない兄」ってか?」
「……弟の気持ちに気づいてやれなかったダメな兄だがね」
結構、この界隈では有名になっていた自分。噂でしか知らないが外国で言うところの諜報機関である『更識』ならば調べられるかと結論づけた。
「んで? 何か御用ですかね? 一応、俺は死んでいるんですが?」
戸籍上は死んでいるため、今までは闇医者とかに治療などは頼んでいた。もちろん金は、父親との特訓で身についた身体能力などを生かしたヤの付く自由業のお 手伝いや、日本に戻るのに協力してもらった社長のコネを使っての便利屋の真似事などをして稼いでいた。恐らく、そんなことをしていたから見つかったのかと 若干、自分の後先を考えないやり方に自己嫌悪。
「実は…君を『更識』に引き入れたいんだ。戸籍の方も、私の息子として作れるし」
「……それをやってアンタにメリットがあるのか?」
「……まぁ、代償行為と思われても仕方ないかな?」
まぁ、代償行為なのだろう。だが、桂はふと考える。最近は、やはり肩身が狭くなってきた。後ろ盾がないことも関係しているのだろうが、やはり年齢がまだ中 学生なのが問題だろう。そう考えるとこの話は悪いことではない。戸籍も偽造してくれる上に、『更識』という後ろ盾を得ることができる。それに、「弾かれ た」と思っていた桂はこうやって受け入れてくれる人に甘えたい。
「そんじゃ、お願いします。親父がどんな人間だったってのも聞きたいし」
「うん。それじゃあ…行こうか」
まぁ、適当に楽しむかと思っていたのだが―――。
「「おにいちゃん?」」
「……当主。この二人は可愛いな」
「フッフッフ。ぜひともパパと呼んでくれ息子よ。まぁ、それはそれとして見る目があるな」
ものすごく楽しんでいた。
「しっかし…まぁ……まさか次期当主候補にするとはねぇ」
「まぁ、宗家筋だしね」
桂は『更識桂』として更識に入り、父親が現当主の弟ということ、桂自身が優秀なため現当主の子供を差し置いて次期当主最有力候補となっていた。
「ま、それでも納得はしない奴はいるわな」
しかし、ポッと出の桂がその場にいるのを嫌うものもいる。歳若い連中はそうでもないが、やはり中堅以上の人間は「家を捨てた男の息子が何故?」という気持ちだ。それを押さえているのは現当主である楯無にほかならない。
「私としては『実の娘』だからとか『長年仕えているから』とかの理由で次期当主を決めるつもりはない」
ここ数代は世襲制だったらしいが、それ以前は次期当主は前当主の指名制だったらしい。世襲制がいいのは分かる。実力による指名制ならば、その人間を嫌う派閥などでまとまりが取れない部分もあるが、世襲制ならば『当主の実子から』と納得できるし、波風もあまり立たない。
「ま、所詮ははみ出し者か」
桂の立ち位置は「『更識』を捨てた男の息子」である。だからなのか桂は自らをはみ出し者と称している。だが、実際いくつかの任務を任せると完璧に仕事をこなしており、評価も年齢を考えると高い方である。
「すまん」
「いや、当主や奥方には感謝しているさ。戸籍も作ってくれたし、後ろ盾にもなってくれた。まぁ、それだけでも大丈夫さ」
実際、当主とその奥方は桂の父親に負い目があったのか、自分に目をかけてくれて、今ではそれこそ冗談を言い合うほどに仲良くなっている。
「さぁて、玉櫛と簪と遊んでくるとするか。つーか、俺としても次期当主は玉櫛がいいと思うぜ? 所詮、俺は『更識を捨てた男の息子』だからな。そのほうが余計な波風を立てなくて済む」
「……」
手を振って部屋を出て行った桂を見ながら楯無は息を吐いた。世襲制にすれば組織にいらぬ波風を立てる。それは理解している。だが―――。
「それで、大事な弟を失った……健二」
自分と弟は正反対だった。自分が活発なら弟は寡黙。自分が感覚的な行動を取るなら弟は理論的な行動といった風に。そして、互いに切磋琢磨して実力をつけていった。最初はどちらかが当主になるなどは考えていなかった。だが、高校生になったときに父親に知らされた。
『お前たちのどちらかを次期当主とする』
その日から、周りの空気が変わった。自分を取り込もうとする分家の連中や外部組織。二人で修行をしていれば擦り寄って来る者も居た。
だが、ある日のことだった。協力関係にあったロシアの諜報機関の隊長の娘との婚約話が伝わった。こちらは次期当主が決まっていなかったこともあり、三人で過ごさせてそのなかで決定するという取り決めになった。
「えっと…ナスターシャっていうの。よろしくね?」
「えっと…更識健一だ」
「弟の健二です」
そして、実際に顔合わせとなったが、自分はナスターシャに一目惚れした。彼女の顔を見た瞬間に自分の心臓がうるさくなった。そして、彼女も自分を見て顔を 赤らめていた。思えば、その時から弟は気づいたのだろう。自分たち兄弟は平等にナスターシャにアプローチする事ができたが、弟はそれとなく自分とナスター シャが二人になれるように動いていた気がする。そして、ある日の夜。健二に話があると呼び出された。
「兄さんは…ナスターシャの事…好き?」
すごく真剣な目で自分を見据えていた健二。自分は一瞬呆けたが、すぐに表情を戻して告げた。
「ああ。好きだ」
これは偽りない真実。自分はナスターシャが好き。すでに彼女にも告白しており、キチンとOKを貰っていた。健二は自分の返事に頷くと口を開いた。
「分かった」
そして、それだけ告げると健二は自分の部屋に戻っていった。恐らく、この時すでに健二は『自分がどうするべきか』分かっていたのだろう。自分とは違い、冷静に状況を把握する事に長けていた健二だ。
「健一。お前が次期当主だ。健二は…家を捨てた」
翌日、父親から告げられたのは健二が最低限の荷物だけをもって更識を出奔したという事実。健二の部屋へと走ると、そこにはナスターシャがいた。
「健一…これ」
彼女が持っていたのは健二が自分とナスターシャに宛てたと思わしき手紙。そこには、こう書かれていた。
『兄さんとナスターシャへ。この手紙を読んでいるということは、僕が出奔した後だと思う。昨日―――まぁ、読んでいる日にもよるね。僕が出奔する前日に二 人に別々に話をしたんだけど、その結果、僕がいないほうが色々な問題がないことが分かった。それに、兄さんとの家督争いっていうのもしたくないからね。 まぁ、家を出奔したのは申し訳ないけど、そろそろ派閥争いが本格化しそうだからね。僕としては兄さんやナスターシャが幸せならそれでいいかな? とりあえ ず、ふたり仲良くね? 僕は僕で生きて行くさ。それじゃあ、お幸せにね? 健二』
それは勝手にもほどがある手紙だった。全て自分で考えて自分が『これでいいだろう』と勝手に結論づけて残された者の事など考えずに行動した結果の手紙。だが、分かるのは『兄弟で争いたくない』という気持ちと『兄の幸せを願う』という弟の気持ち。
そして、出奔した弟が幸せであるようにと妻となったナスターシャと祈っていた。部下を使って秘密裏に調べていた。だが、健二自身が情報を改ざんしていたた め、ようやく足取りがつかめた時には、先日の飛行機テロで死亡したことで絶望した。だが、息子が居た。最近、東京の裏路地に身元不明の子どもが現れた。何 でも噂では、先日起こった飛行機テロの生き残りらしい。その情報を聞き、駆けつけた。そこに居たのは、弟の面影を遺した桂だった。
結局、弟の結婚を祝うことも出奔した時の恨みを晴らすこともできなかった。だから、せめて弟夫婦の忘れ形見を引きとって自立できるまで育てようと思った。そして、桂の才能に気づき、桂を次期当主候補に挙げたのだ。
「……桂には悪いが、出来ればあいつに『楯無』を継いで欲しい」
そうすれば、自分たち兄弟のような事は起こらない。自分の娘達が険悪な仲になることもない
「勝手だな」
そして、それが確率の低い願いである事も理解している。多分なのだが、桂はしばらくすればここを出ていきそうな気がする。今は、娘たちの世話が楽しいようで色々教えているが、それも一段落つけば「はみ出し者」を自称しているのだ。ここを出て行くだろう。
「なら…その時に便宜をはかるのもいいかもな」
それならそれでいいかも知れない。その時は…まぁ、後悔しないようにはしたい。楯無はそう思っていた。
しかし、この数年後に一人の天災により世界のパワーバランスが崩れ、世界が変革し、桂もある任務で片腕を失う事件が起きることとなった。
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