IS〜インフィニット・ストラトス〜 とあるはみ出し者

□第3話 流転
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「はぁい! レッツルッキン! 次のうち仲間はずれはどれでしょう!」


桂が示したボードには四つの絵が書かれていた。ライオンと人間とサメとスズメ。桂は現在、妹である玉櫛と簪、そのお付きである布仏虚と本音姉妹相手に遊んでいた。


「えっと…サメですか? それ以外は陸上に住んでいるし」


「虚ちゃん……惜しい! 正解は人間です。人間以外は食えます」


「「「「……え?」」」」


「ぶっちゃけるとスズメも食えないことはない。ただ、人間はなぁ」


「あの……兄さん?」


「ちなみに、スズメはしっかりと焼かないとだめだぞ?」


「あの……桂さん。別に誰も聞いていませんよ?」


スズメの調理法に話がシフトした桂を見ながら四人の幼女は大量に汗をかいていた。このままここにいると知ってはいけないことを知っていそうになる。


ちなみに、桂は性格が変わった。以前は、寡黙で物静かだったのだがいつの間にか飄々とノリが軽くなった。楯無は理由を「人と触れ合ったから」と推測していたのだが、実際は違うようである。


「桂。少しいいか?」


「ん? 今、サバイバル知識の伝授を「任務だ」…了解」


「「「「(助かったー!)」」」」


四人の幼女は揃って息を吐いていた。それをみて桂は「るー」と泣いていた。









「さて、仕事というのはIS関係のことだ」


楯無に連れられてやってきた部屋。そこで、告げられたのは日本政府から「IS開発者である篠ノ之束の『数少ない』親友である織斑千冬とその家族の護衛」という依頼だった。


「で? なんで、俺にお鉢が回ってきたんです?」


桂は基本的に単独行動を取っている。他の構成員との折り合いが悪いのもあるし、何より桂自身が単独行動によるゲリラ戦術を得意とするためである。


「うむ。実は、織斑千冬からの指名らしいぞ? お前…生きていたこと伝えていなかったんだろう?」


「あ〜。ということは、束が調べていたか」


自分が生きていたことを千冬たちに伝えていなかったのは、特別な事情があるわけでもなくただ「忘れていた」というだけ。


「まぁ、ご指名ならやりましょうかね。ちなみに、銃火器の使用は?」


「……ナイフのみだ」


さすがに銃火器はごまかしが効かないらしい。それくらいやってくれればいいのにと思いながらも準備をするために部屋を出て行く桂。









数ヶ月前に世界を変えた「IS インフィニット・ストラトス」と呼ばれるマルチフォームスーツ。それを発表したのは、幼なじみの束だった。桂は要人警護の任務でその発表の場に居たのだが、簡単な説明を受けているうちにISがどのようなものか分かった。


「まさか、母さんに見せていた設計図があれとはね……」


母親の病室で試行錯誤していた設計図の完成形。それがIS。となると、その数日後に起こったハッキングにより日本に放たれた大量のミサイルとそれを鎮圧したIS『白騎士』を捕獲しようとした各国軍との戦闘の総称である『白騎士事件』の白騎士は―――。


「千冬だな。つーか、あのバカども。やるのは勝手だが、後始末をするのは俺たち暗部なんだよ」


日本に飛来したミサイル。白騎士により半数を撃ち落されたが、残りを落としたのは『更識』や自衛隊。とにかく、フレアやらなんやらをばらまいてミサイルを爆破していったのだ。


「それを千冬のバカが……」


自衛隊の戦闘機がフレアをばらまくために白騎士を通りすぎようとした際に翼を切り落としたのだ。幸いにもミサイルが着弾したのは開発中だった臨海エリアだったため人的被害は無かった。状況が状況のため仕方ないのかも知れないが、それならばそんな事件を起こすなと言いたい。


「それで助けを求めるか……ま、金さえ貰えればなんでもいいか」


桂は部屋に戻ると装備を整えて歩き出した。途中で、仲の良い連中から土産を頼まれつつ屋敷を後にした。










「んで? 満足か? こんな世界で」


「……分からない」


織斑家に向かうと、そこに群がっていたマスコミなどを「脅して」帰らせると家の中に入り、千冬との会話を始めた。


「お前らに色々言いたいことはあるが……俺は公私混同はしない主義なんでな」


そう言って、盗聴器などが仕掛けられていないかをチェックし始めた桂。千冬はその背中をただ見ていることしかできなかった。


「……これからお前と束はツケを払うことになる。世界を変えたんだ。尊敬されることもあれば恨まれることもある。それを理解することだな」


「……お前は?」


それは一連の騒動で理解した。だが、聞きたかった。桂はどう思っているのか? ISを開発したことをどう思っているのか。仮にも桂の母親が関与しているのだ。それを聞きたかった。


「別に? 俺は世界から弾かれたからな。人権も、今話題になっている女尊男卑の風潮もどうでもいい」


飛行機テロでたった一人生き残った事、その後戸籍がないまま裏の世界で生きてきたこと、『更識』での立場。その他様々なものが桂に『世界から弾かれている』と判断させた。


「というより、聞くくらいならするな」


盗聴器をいくつか回収し、それを一つ一つどこの諜報機関が設置したのかを調べながら会話をする。桂の中では千冬たちが世界を変えたことをとやかくいうつもりはない。ただ、自分たちの仕事が増えたので文句を云っているのだ。


「まぁ…なんかあったら言えばいい。幼なじみということで格安で色々引き受けよう。汚れ仕事から何からな。あ、それと俺はもうそろそろ外国行くから」


「どういう事だ? 『更識』を抜けるのか?」


そもそも暗部組織から離脱することができるのか不明なのだが、桂は近いうちに再び姿を消すと言っているのだ。


「日本に戻ってくるときに世話になった人が、今度設立されるIS委員会の理事になったからな。直下のエージェントとしてスカウトされているんだよ」


ISの管理などを目的として設立されるIS委員会。世界から集められた各国代表より構成される委員会。その委員会のイギリス代表として選出されたアイザッ ク・アルバートからスカウトを受けている。元々はドイツの企業の社長だったが、IS台頭による情勢変化を察知し、職を辞して母国であるイギリスに帰還。そ の後は、知り合いのツテで諜報機関やらイギリス王室直下の警備隊などを流れ歩いてその才覚を認められて委員会への代表に選出された。


「なんつーか、気に入られていてな?」


日本に戻ってくるときはイギリスに戻る直前だったらしく、その後も連絡を取り合い色々と融通してもらった。思えば『更識』よりも強固なコネを作れた気がする。


「『更識』での俺の立ち位置は「家を捨てた宗家の落ちこぼれの息子」だからな。居心地が悪いのよ」


無論、父親が落ちこぼれということは絶対にありえない。むしろ、『更識』から逃げ続けていた点を見れば十分すぎるだろう。


「義理の妹もできたが……どーも、組織に縛られるのは面倒だと感じた」


その点、アイザックは「目的のためなら人質もとるし、暗殺もする」男。ソッチの方が良さそうだ。無論、玉櫛たちが可愛くないわけではない。だが、どうにも 『合わない』のだ。それはやはり、世界から『弾かれた』と感じたあの飛行機テロの事件がきっかけなのだろうと判断していた。


「どうせ死ぬはずだった人生。自分の好きなように生きなけりゃ損だろ。お前もそのくらいの考えていけばいいんじゃね?」


「できるわけがないッ! 一夏もいる……」


「ブラコンもいいけど……ま、言わないでおこうか」


桂は昔から千冬はブラコンだと思っていた。といっても、昔は両親がいない故の過保護さと判断していた。しかし、今は千冬は一夏に依存しているように思える。恐らくは、一連のIS関連の自体で追い詰められているのだろう。


「とりあえず、少しは一夏を―――ッ! 伏せろ千冬!」


「え?」


殺気を感じた桂は千冬を押し倒した。そして、そこに撃ち込まれたのは銃弾。入ってきたのは一人の人影。見た感じ、訓練された軍人のようである。その男はライフル銃を持っている。装備がナイフしかない桂は状況の悪さを呪った。


「チッ、どういう事だ? 周囲は各国の諜報機関が固めていたはずだろうが!」


「桂、それは本当なのか?」


桂の毒づく声に千冬が声をあげる。桂は、腰からナイフを取り出すのと同時に懐の携帯から『更識』へと緊急事態を告げる通信を送る。


「当たり前だろうが! お前と束が『白騎士事件』の首謀者だというのは各国上層部の共通見解だ。あんまり『国家』をナメるな!」


「織斑千冬…貴様のせいで私の妻がァ!」


男はそう叫び、ライフルを千冬へと向けた。幸いにも、桂が抱えて飛び退いたおかげで千冬に怪我はなかったが、千冬は完全に恐慌状態に陥っていた。桂が殴って気絶させたため声はすぐにおさまったが、桂は内心そうしておいてよかったと感じた。


「おおかた、どっかで『白騎士事件』の真相を知ったか。そういや、ミサイル着弾の衝撃で階段を降りていた妊婦が転落して胎児共々死んだとか聞いたな…その遺族か」


「そうだ……その女のせいで!」


ミサイル着弾地点の数キロ先にあった団地地帯。衝撃というよりも、ミサイル落下の音に驚いて怪我をした人間が結構な数居たのだ。『白騎士事件』のインパクトが強かったため公には知らされていない事実。


「まぁ、アンタの身の上にも思うことは色々あるが……悪いな。こいつを殺させるわけにはいかないんだよ」


「何故だ!? そんな女を生かしておく必要がどこにある?」


「そんなん知らんがな。こっちは命令を受けているんだから」


桂は周囲にいるはずである各国諜報機関の人間を本気で呪いたくなってきた。


「各国諜報機関が動かないのは……装備がないからということにしておこう。考えるのは面倒だ」


篠ノ之束への脅しのためなど大体の予想は付いているが、今は千冬を守るのが最優先されるべき事項。しかし、ライフル相手にナイフで挑むのは―――。


「さすがに分が悪いな……しかも、あのおっさんもう錯乱状態だろ」


「妻の……娘の仇だ!」


しかも、こちらには千冬がいる。戦いにくいにもほどがある。


「つーか、CIAでもGSG−9でもいいから仕事しろよ。目の前で人が死にそうに……無理だな。そんな自国の不利益にしかならないことをするわけがねぇ」


最悪、腕の一本でも犠牲にするしかない。というより、さっさと片付けなければ援軍が来たときに不測の事態が起こる可能性が高い。例えば、錯乱した男がライフルを乱射など。


「ま、なるようにならぁね!」


「死ねぇ!」











桂に気絶させられた千冬が目を覚ましたのは銃声だった。目を開くと目の前にボトリと落ちてきた左腕。顔を上げると、男の喉にナイフを突き立てている『左腕がない』桂だった。


「妻の……子供の仇を……」


「ハッ……知るかよ」


「あ―――」


千冬は男を殺してその場に崩れ落ちる桂の姿だけを見ていた。

目にうつるのは『赤』

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