IS〜インフィニット・ストラトス〜 とあるはみ出し者

□第5話 もう一人のはみ出し者
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「大将〜。戸籍一つ用立ててくれ」


「ん? どうした?」


ある日、アイザックから与えられていた任務を終えた桂が、アイザックがいる屋敷へと戻ってきた。そして、背負っているのは一人の少女。


「ふむ…桂。いくら女に飢えているからと言って「ちげぇよ」そうか」


アイザックはとりあえず、少女が日本人らしいのでそれ用の戸籍を用意しつつ事情を聞き始めた。












「……寒い」


桂は現在、ロシアのツングースカにいた。というのも、アイザックがツングースカにおいて非合法研究所が存在するという情報をつかみ、その研究所の調査をアイザック経由でIS委員会より命ぜられたのだ。


「やっぱウォッカってロシア人に必要なのがよくわかったわ」


スキットルに入ったウォッカをちびちびと飲んで、ピロシキを頬張って件の研究所を双眼鏡で見る。


「しかし…あの研究所って何よ?」


あのIS委員会ですら全貌がつかめなかった研究所。桂単独で行動するのも、被害を最小限に抑えたいとの思惑があるのだろう。例えISでも、室内戦ならばそのアドバンテージは存在せず、ISを触れるだけで破壊できる電磁発勁を持つ桂に利がある。


「さてと、行きますか」


白いコートを取り出し、雪原の中を進む桂。少しずつ研究所へと近づいていく。









「……赤外線センサーの類は無し……ソナーにも反応なし」


束が送ってきた義手は凄まじい性能を持っていた。『タケミカヅチ』と名付けられているこの腕は、その名の元となった武甕槌大神の伝承にあるように形や性能 を変える義手。現在、桂が使用しているのはソナーやレーダーなど索敵に特化した『レーダーアーム』。単独行動大好きな桂にはうってつけである。


「さてと……行くか」


右手にオートマチックタイプの拳銃を持ち音もなく研究所を駆ける桂。目指すは研究所の中枢。何かしらの情報を持ち帰らなければおまんまの食い上げである。


「つーわけで、死んでくれや」


「モゴッ―――」


偶然見つけた研究員らしき男の背後に忍び寄り、腰のホルスターに拳銃をなおすと右手で男の口を塞ぎ、指の部分が鉤爪のように変形した左手でその首を掻っ切り息の根を止めた。


「マジで便利すぎる。これ本当に義手なんだろうな?」


腕型ISなのではと思ってしまうほどに性能がよすぎる義手に驚きながら男の身ぐるみを剥がし始める。IDカードの名前と写真を『レーダーアーム』のカメラ で撮影しつつソナーで辺りを探る。そして、ある部屋から数人の話し声が聞こえてきた。さすがに内容などは聞こえなかったが、居場所を探るには十分である。


「そんじゃあ…行くか」


拳銃の調子を確かめつつその部屋の前まで移動すると、ソナーで再び音を調べ始めた。


―――それじゃあ、約束のものだ。


―――ハッ。男のくせにいい仕事をするじゃねぇか。


―――クックック。


「(丁度研究成果の引渡しの場面か?だが、ロシアが非合法研究をしているという噂はなかったはず。いや、むしろロシアの求心力を低下させる勢力という線もあるか)」


そもそもロシアも多民族連邦国家である。決して一枚岩ではない。そう考えると選択肢は大量にある。


「(まあ、それは俺が考えるべきものではないな)」


あくまで桂はエージェントである。情報の判断などはアイザックが行う。自分は情報を持ち帰るだけ。


―――ところで、そこにいるネズミは誰だよ!


「……ありま。ISを装備していたのかよ」


「さっさと出てこいよ!」


そう言われたので鋼鉄の扉を蹴り飛ばして部屋に入った桂。さすがに生身で鋼鉄の扉を蹴り飛ばすのは意外だったのか中に居た三人の男女も目を丸くしていた。


「ちーす。IS委員会のエージェントの高槻桂でござい」


どこぞのや○夫のように声をかけた桂はざっと敵を見た。女が二人に老人がひとり。女二人はISを装備していると仮定して、どうやってここから逃げるか考え ていたのだが、老人が拳銃をこちらに向けたので、とっさに左腕をレーザーライフルに変形させてその頭を撃ちぬいてしまった。


「ヒュー―――じゃねぇ。やっちまった」


思わずサイコガンを持つ一匹狼の宇宙海賊を称するような声を上げたが、左腕からの光学兵器。あながち間違いでもない。しかし、そのせいで女たちの警戒レベルを跳ね上げてしまったようで二人ともISを展開していた。そのISは両方共『強奪された』IS。


「あ? アメリカ製の第2世代の『アラクネ』にイギリス製の第1世代『エンフィールド』だな。強奪品をそのまま使うか……ふぅむ。ま、室内だしなんとかなるか」


「ナメてんのかテメェ! 男のくせによぉ!」


アラクネを装備している女はあからさまに桂を見下しているが、桂はそんな女を冷めた目で見る。


「あぁ…アンタ三流か。なら仕方ないわな。んじゃま……テメェらをしょっぴかせてもらうぜ」


「んだと!?」


「男だろうが女だろうが『裏の人間』なら能力で判断するのが常識。つまりそれすらできねぇテメェは三流だよ! ISの名前も『アラクネ』じゃなくて『アバズレ』に変えとけや!」


左腕を通常状態に変形させると、そのまま殴りかかった。といっても、無策ではない。相手が激昂しているからこそ、そして見下しているからこそ桂に分がある。


「紫電掌!」


「んな!?」


左腕がアラクネの脚に触れた瞬間、脚内部に高圧電流が打ち込まれ、脚は内部から爆発した。通常ならばありえない事態。しかし、アラクネの操縦者は状況をすぐに判断すると僚機に声をかけた。


「エム! 撤退する。テメェは「足止めをする。こっちにはBT兵器がある」わかってんじゃねぇか」


アラクネは脚部だけではなく全体に電流が流れたため細部に不具合が出始めた。一方エンフィールドは無傷。足止めには十分だろう。アラクネは天井を破り最高 速度で離脱し、エンフィールドは有線式ミサイルを2発射出すると桂に向け飛ばしたのだが―――。


「あ〜らよっと」


桂が左腕を広げると、ミサイルは『磁力に引っ張られる』かのように2基とも左手の中に吸い込まれ、桂により握りつぶされた。


「まぁ、鉄製だからな。これも『電磁発勁』の応用だ」


左腕を強力な電磁石へと変え、ミサイルを吸い寄せた。エムと呼ばれた少女は桂の底の知れなさに知らずのうちに後ずさっていた。そして、そのような自分に気づきがくぜんとしていた。


「私が……恐れている?」


「まぁ、世界は広いからねぇ。気にしなくてもいいんじゃないかな? とりあえず、君捕縛ね」


エムが何かするよりも早く桂が動いた。左腕を床に付けるとエンフィールドが高濃度の電磁パルスが発生したと報告し、システムの大半がダウンしはじめた。


「な…「まぁ、眠っといてくれや」え?」


いつの間にか自分の鳩尾に左腕を当てていた桂。次の瞬間、エムの意識は暗転した。


「ん? 吐血? 内臓には負担がないように電力調整をしたはずだが……」


吐血どころか耳や鼻からも血が出ている。一応、調べてみるとナノマシンの死骸であることが判明した。


「……持ち帰るか。色々事情を聞かなきゃならんし」


待機状態に戻ったISを回収しつつ、エムを担いで研究所のコンピューターからデータを一気に吸い出す桂。左腕大活躍である。







「そんで今に至る」


「……なるほど。しかし、研究所のデータは微妙だな。非合法ではないといえばそうなんだが、な」


桂が持ち帰った情報は、グレー部分の研究が多く問題がないと上が判断すればそれでお終いになるような情報だった。


「せいぜいこの…剥離剤(リムーバー)か? コレくらいしか有用なものはないな」


「ふーん。お? 大将、目を覚ましそうだぞ」


左腕をマシンガンに変形させ、エムに突きつけながら目をさますのを待つ。アイザックはそんな左腕を見て改めて『天災』の技術力の高さを思い知る。


「―――ん……ここは……」


「グッモーニン? とりあえず、知っていることを全て話してもらおうか」


「…ふむ。桂と同じ身の上か?」


「私は……それに、ここは……」


エムは現状が理解出来ていないようで、必死に記憶を探っているようだった。


「それと、お前の体から出てきたナノマシンについても話してもらおうか?」


「え? ナノマシンが?」















「クソッ…あの糞野郎が……スコール。エムの馬鹿はまだ帰って来ないのか!?」


「ナノマシンの反応がなくなったわ」


二人の女性が薄暗い部屋で会話をしている。片方は、アラクネに乗っていた女性。その女性は桂への悪態をつきながら傍らに立つ女性―――スコールに声をかける。そして、返ってきたのはエムに投与していた『首輪』の反応が無くなっているということ。


「おい待ってくれ…それってあの馬鹿が死んだってことか?」


「そうでしょうね。その高槻桂とかいう男……要注意しないとね。オータム」


「分かってるよ。あのヅラ野郎はアタシが殺してやる」


アラクネの操縦者オータムに目をつけられた桂。オータムと再び相まみえるのは数年後の事だ。












「……ん? 今、何か不本意な呼ばれ方をしたような」


「お前意外と余裕だな?」


銃を突きつけつつ何かを察知した桂。こいつも大概である。

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