IS〜インフィニット・ストラトス〜 とあるはみ出し者

□第6話 二人のはみ出し者
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「私は……マドカ。亡国機業のエージェントだ」


「亡国機業? 大将、ナチスの残党ってまだ残ってんのか?」


「残ってはいるが、ナチス残党とは限らん。それより、続けてもらおう」


ナノマシンが体から排出されたことで、マドカはなにやら声を上げたがすぐさま冷静になると桂たちの事を聞き、状況を理解したのか投降してきた。そして、現 在桂とアイザックにより尋問中である。といっても、マドカ自身が協力的なため食事や飲み物を用意してさながらお茶会である。


「すまない。私は…末端に過ぎないから全貌は知らない。ただ、多国籍の秘密結社だというくらいしか」


何よりマドカ自身が参加して日が浅いため大した情報も持っていないらしい。桂はマドカの顔が千冬と瓜二つなためクローンやその他の問題を考えていたが、どれも推測でしかないため余計な口出しはしなかった。


「まぁ、それはいい。貴様はこれからどうする?」


「え?」


「私は駒を必要としている―――」


アイザックは自身の目的を話した。その上で協力するならば、戸籍も用意するし、所有しているエンフィールドも『強奪』されたということをもみ消すとも。


「まぁ、断ったら地下室行きだがな」


そして、待っているのは拷問かもしくは捨て駒としての未来だろう。マドカはそこまで分からないほど馬鹿ではない。


「……わかりました。貴方たちに従います」


選択権など最初からなかったのだが、それを差し引いても破格の条件とも言える。


「ふっ。桂、この少女は「高槻マドカ」として戸籍を作る」


「俺の妹にすんのか?」


「…安心しろ。結婚できるように従兄弟で偽造しておく」


「おいこら」


後の教育などは桂に任せると告げ、アイザックは部屋を出て行った。


「ったく…あのオッサンは……」


アイザックに悪態を付きつつ、マドカに向き直る。


「さて、とりあえず……『はみ出し者』同士仲良くしようぜ?」


桂が差し出した右手をマドカはおどおどしながらとった。『すでに死んでいる』桂と『生きている証がない』マドカ。似たもの同士の二人がこの時出会った。











「まぁ、やることは変わらないけどね」


「そうなの?」


桂から自分たちの仕事の説明を受けていたマドカ。桂自身も仕事を整理するつもりだったので丁度良かった。ちなみに、今いるのはアイザックの屋敷にある桂の 部屋である。桂自身の物欲が薄いためベッドと小型の冷蔵庫、報告書作成用のパソコンを置く机くらいしかない殺風景な部屋。しかし、アイザックより「部屋は 監視の目的もあるから相部屋」と言われたため、色々買い足してメイドなどに女用の小物などを買ってきてもらってそれなりにいい部屋になった。


「基本的に、大将…アイザック・アルバートの指示で俺達は動く」


そして、カーペットの上に座ってマドカに説明を始める桂。名目上桂はIS委員会直下特務機関所属のエージェントである。しかし、実態はアイザック専属エージェント。


「まぁ、大将自身がIS委員会を手中に収めるつもりらしいんだがな」


「可能なのか? さすがに…難しいと思うんだが」


「何でも『利権と保身が確保出来れば別に構わない連中』らしいぞ?」


ISで女性の地位は向上し、男性は隷属を余儀なくされている世界になった。しかし、それは一般階級のみ。イギリスならば貴族社会、アメリカならば支配者層 といった世界では相変わらずの実力・階級社会。そして、その世界からIS委員会の理事に選出された者たちは利権と保身の手段が確保出来れば構わない。アイ ザックはそこにつけこんでいるのだ。


「俺の予想では…後数年もしないうちにIS委員会を自分のものにするな」


「……」


アイザックの「弱み? 無ければ作れ。目的のためならば手段を選ぶな」なやり方を知っている桂としてはIS委員会を手中に収めるアイザックの姿が簡単に想像できた。


「まぁ、それは置いておいて。俺達の仕事は一言で言えば『何でも屋』だ」


「それはあなたと出会った件からも分かる」


桂と出会うことになったロシアの一件。そこから想像できることは正しく『IS委員会の狗』として汚れ仕事などをするということ。まぁ、マドカも元秘密結社エージェントとして色々やってきたので別に忌避感はない。


「とりあえず、現時点ではIS関連研究の内偵や要人警護、そして…反動勢力の壊滅などを行う事になる」


ISによる世界情勢への不満を持つ者、ISを使用して国家転覆を狙う者などひとえに反動勢力と言っても無数に存在する。


「とりあえず、俺らの仕事はそんな感じ。他に聞きたいことはあるか?」


「それじゃあ…アラクネの脚を破壊したあの技は一体なんなんだ?」


マドカはずっと気になっていた事を聞いた。ツングースカの研究所でアラクネの脚部を破壊した技とその左腕。それがどのようなものなのかずっと気になっていた。


「左腕は義手だ。一応「タケミカヅチ」という名前だな。篠ノ之束より送られてきた一品だ」


「なるほど…で、あの技は?」


束が作った義手ならば、あそこまで構成のなのも納得できた。では、あの技は一体? マドカは桂に問いかけた。


「技…というか、あれは『電磁発勁』と呼ばれる技を応用した掌底だな」


「電磁発勁? 気功の一種なのか?」


発勁といえば中国拳法などでよく聞かれる事。マドカ自身そこら辺は詳しくないため「発勁=気功」という式が出来上がっている。


「ん〜…まぁ、そんな感じでいいわ。とりあえず、俺は生身で電気を発生させることができると考えてくれ」


ぶっちゃけ面倒になったため「発勁=気功」で押し通すことにした桂。さっさと説明を済ませようという魂胆らしい。


「本来なら隻腕のせいで経絡などに欠陥があるため体に反動が来るんだが、俺の場合はこの義手に搭載されているブースター代わりのダイナモのおかげで反動なして使用できる。ちなみに、ISの『絶対防御』すら透過するぞ?」


恐らく『電磁発勁』により発生する電気が生体電流であることなどが関係しているのだろうが、詳しくは分からない。ただ、分かるのはISがどれだけ強化されようとも『電磁発勁』はISに対して絶対的な力を持つということ。


「といっても、だれでも使えるわけではないらしい」


「え? そうなのか?」


桂は、自分に電磁発勁を授けてくれた崑崙山の老人を思い出していた。


―――若造。お主は…俗世に未練がないのう。俗世から弾かれたと考えているから儂を見つけられたのかも知れんな。どれ、少し手解きをしてやろう。


「……あれ? あの爺さん、もしかして仙人?」


「貴方は何を言っているんだ?」


あの時は別になんとも思わなかったが、冷静に考えると崑崙山に老人がいるのはおかしい。崑崙山に村でもあれば別だが、わざわざあんなところに村を作るわけがない。


「……そういや、崑崙山って仙界への入り口とかいう説があったな」


となると、あの老人はやはり仙人? 落ち着いて考えて見れば、呂尚とか名乗っていた。確かそれは太公望の本名だったはず。


「……」


考え込む桂を見つつマドカはふと自身のことを考え始めた。自分は気づいたら『エム』として生かされていた。エンフィールドはある日、自分に与えられた力。


「強いつもりだった」


エンフィールドを使っての『実戦』はツングースカの一件が初めてだった。訓練という名目で使い方や殺し方は分かっていた。実際に、どこからか連れてこられ た男をエンフィールドで殺したこともあった。しかし、実際に戦ってみればこのとおり。桂が規格外なのはわかるが、自身の経験が少なかったことも原因だろ う。そう考えると桂たちについたのは幸運かもしれない。


アイザックと桂という『規格外』の存在の近くにいれば、もっと強くなることができる。そうすれば、『エム』ではなく『マドカ』として存在できる。


「桂…さん」


「くそ…こんなことなら宝貝の一つでも貰っておけば……お?」


『電磁発勁』というこの科学技術バンザイな世界で絶対的なアドバンテージを持っている技を教えてもらっておきながら、宝貝を貰っておけばよかったと呟く桂。物欲は薄い方ではなかったのか? 


マドカに声をかけられ、振り向くが「さん」付けは怖気が立つので呼び捨てで構わないと告げるとマドカはあることを質問した。


―――私は『普通』になれるのか?


マドカは生まれた時から暗い場所に居た。誰にも知られること無く、自分に命令を下す者はいたが表の顔も持っているであろう奴らは自分とは違う。オータムも スコールも理由はどうあれ表から裏にきた人間だろう。でも自分は違う。任務で市街地に出ることがあった。その時、親に手を引かれる同年代の子供を見て羨ま しく思った。自分にも親が居たのではないか? もし、いたなら自分は何故ここにいるのだろうか? 自分は誰にも受け入れてもらうこと無く死ぬのか。


「普通にはなれねぇだろう。お前はもう人を殺しているんだからな」


「そう…だな…「た〜だ〜し」え?」


桂の言葉にうつむいて自分の生まれやこれまでの自分を呪ったが、桂の右手が頭に乗せられ優しい声をかけられた。顔を上げると、そこには桂が優しげな顔で自分を見ていた。


「『幸せ』にはなれるんじゃねぇの? それと…『自分』がわからないなら俺が認めてやるよ。『高槻マドカ』として、そして俺の相棒としてな」


「桂……」


桂はマドカに少し寝ておけと告げると部屋を出て行った。残されたマドカは知らずのうちに笑っていた。


「……桂……私を認めてくれた?」















「大将〜。俺の得物ができたらしいな」


桂は部屋を出て、屋敷の研究室に顔を出していた。桂が頼んでいた刀が完成したと左腕に通信があったのだ。そして、アイザックから渡されたのは日本刀。


「かなり苦労した。日本の刀鍛冶師の中でも選りすぐりの老人に頼み込んで打ってもらったからな。ISと打ち合っても刃こぼれはしないぞ?」


「へぇ……ところで、鞘がないようだけど?」


日本刀を持って少し振って調子を見ていた桂がふと鞘がどこにもないのに気づいた。話を聞いてみると、鍔のところにIS技術が使用されているらしく鞘は自動的に生成されるらしい。


「……なるほど。斬殺だけではなく撲殺もできると…棘つけね?」


「むしろ、流体金属で作るのもありだったかもな」


ただ、ビックリドッキリメカ『束博士特製の左腕タケミカヅチ』があるため別にいいかと判断した。


「さて、お前とマドカに任務だ。来月開催される『第1回モンド・グロッソ』へ出向く私の護衛だ」


アイザックから渡されたパンフレットにはでかでかと千冬の空を舞う姿が載っていた。


「ふーん…『優勝候補の日本代表織斑千冬』ねぇ……」


千冬の簡単な紹介が載っていた。そこには、『実弾系ライフルを持つ相手には苦戦する傾向がある。そこをどうするかがポイント』と書かれていた。

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