IS〜インフィニット・ストラトス〜 とあるはみ出し者
□第7話 第1回モンド・グロッソにて
1ページ/1ページ
IS版オリンピックとも言える『モンド・グロッソ』がアメリカで開催された。そしてその会場には来賓客としてIS委員会や各国の重鎮がやってきていた。その中で異彩を放つ存在が一人。
「あれが…イギリスのハイエナか」
IS委員会の理事のほとんどが60代という高齢者の中、たった一人30代のアイザック。若くしてその地位についたアイザックには色々後ろ暗い噂がついてまわっていた。
『目的のためならば手段を選ばず、弱みを見せればそこにつけ込み、弱みがなければ作るハイエナのような男』と諸外国では称されている。実際、そのとおりなのだがそれを『噂』にまで誤魔化しているのだからアイザックの手腕が分かるところである。
「大将〜随分、恨まれてんな?」
「フッ。弱みがなければ作る云々は、それだけ怪しいことをしているからだろう。言っておくが、弱みを作ると言ってもありもしないスキャンダルをでっち上げるくらいだぞ? そこから大騒ぎして実は真実だったと自滅した連中の責任まで取れるかよ」
「カッカッカッ。そりゃそうだわな。つーか、後ろ暗い事してなけりゃ付け入られることもないわ」
「……二人とも黒いなぁ」
アイザックの左に立つのは黒いハイネックの上にロングコートを羽織り、右手に鞘に入った日本刀―――銘は『壱式斬刀』を担ぎながら笑うサングラスをかけた 桂。普通は、このような場にこれ見よがしな武器を持ち込むのはご法度なのだが、ISは待機状態にすればアクセサリーと変わらないため、暗殺には持ってこい の道具なのだ。その警戒のため、IS委員会理事の護衛は牽制のため見えるところに武器を持つものもいた。一応、理由も「IS反動勢力への警戒」などで誤魔 化せる。
マドカはメガネをかけて決して派手ではないスーツに身を包み外見はアイザックの秘書とも見える。だが、実際はメガネが待機状態のエンフィールドのため桂と同じくアイザックの護衛である。
「さて…そろそろ試合が始まるな。桂、マドカ。行くぞ」
「う〜い」
「はい」
周りからの畏怖、または尊敬の視線を受けながらアイザックは観戦ルームへと向かう。
「ん? 尊敬の視線ってなんぞ?」
「しらんのか? 一応、これでもCIAの長官とさし飲みする仲なんだが?」
「すごいですね…」
「……あ、もしかしてあのメガネのおっさんか? いやぁ実におもろいオッサンだった」
「そうそう。あのメガネだ。ちなみに、プライベートでは娘を溺愛しているぞ?」
「……(=ω=;)」
ハッハッハッと笑いながらアイザックたちは廊下を進む。マドカはそんな二人を遠い目で見ているだけだった。
モンド・グロッソにおいて優勝候補の一角とされる日本代表織斑千冬専用機である『暮桜』を纏い空に浮かんでいた。
『では、日本代表織斑千冬対アメリカ代表ナターシャ・ファイルスの試合を始めます!』
レフェリーの言葉と共に試合が開始された。この試合は、純粋な実力をはかる実戦形式の試合。そして、モンド・グロッソの一番の目玉でもある。
「行くわよ!」
「―――チッ」
試合開始と共にナターシャはレーザーライフルを千冬に向けて放った。尤も、それはテレフォンパンチに近いものだったので普通に避けられる。
「さて…どうするか」
千冬の暮桜は、左腕にレーザーガンを取り付けているが真骨頂は主武装である雪片による近接戦闘。つまり、近づかなければ有効打はあたえることができない。普通なら難しい。しかし、千冬は独自にあみ出した『瞬間加速』と名付けた機動がある。それを使えば―――。
「嘘!?」
「貰ったぞ」
急加速・急停止を繰り返すことにより相手を撹乱しつつ距離を詰めるこの技。この技と自身の剣の腕で千冬はこの地位まで上り詰めた。
「―――って、簡単にやられるわけ無いでしょうが!」
「ひっ!?」
ナターシャが呼び出したのは『実弾ライフル』。それを千冬に向けると彼女は小さく悲鳴を上げ後ろに飛び退き詰めた距離を再び広げてしまう。そして、千冬は先程までとは違い荒く息を吐いて脂汗も掻いている。
「……織斑千冬は実弾ライフルに何かしらのトラウマがある。噂は本当だったのね」
「なに…を」
以前、桂が読んでいた雑誌にも書かれていたとおり千冬は実弾ライフルを持つ相手には総じて辛勝である。そこから各国IS操縦者は調べ始めた。そして、その結果千冬は何かしらのトラウマがあることに気づいた。
「理由は分からないけど…こっちも負けるわけにはいかないの。ゴメンね?」
「ナメ……るな」
それは一瞬だった。『瞬間加速』で一気に懐に入った千冬は個々のISが発現する単一仕様能力『零落白夜』を発動させ、ナターシャを一刀のもとに斬り伏せた。
「トラウマがあるのは事実だ。だが…それで私は止まってはいけないんだ。証明しなければならないのだ…アイツが…桂が腕を代償に助けた私はこれだけの価値があるのだと」
対象のエネルギーを全て消滅させる『零落白夜』は『電磁発勁』とはまた違う意味でISに対して絶対的能力を持つ。それをどう扱うかが千冬が勝利する条件。
そして、千冬は負けるわけにはいかない。『織斑千冬』という存在は桂が腕を犠牲にして守っただけの価値があるのだと証明しなければならないから。
「先輩! さすがです!」
「山田君、か。すまない…少し一人にしてくれ」
千冬は一人ロッカールームに篭った。千冬のサポートをしていた山田真耶は目をぱちくりさせながらロッカールームの入り口を見ていた。しかし、すすり泣く声が聞こてきたため一気に混乱していた。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
誰かに謝る声。真耶は一瞬ロッカールームにはいろうかと考えたが、頭を振ると静かにその場を離れた。
「私が…馬鹿だったから」
千冬は自分の体を抱きしめながら桂へと懺悔する。自分が、自分たちが後さき考えずに世界を変えたから。
目を閉じれば『あの時』の事が鮮明に浮かぶ。目の前に飛んできた腕。ナイフを首に突き立てられ壁を染めるほどの血を吹出す男。そして、床にたまった血の海 に崩れ落ちる桂。そして、入ってきたのは桂の知り合いと思わしき男たち。桂の容態を知ることすら無く千冬は警察へと連れて行かれた。数時間後には、一夏も 連れてこられた。そして、知ったのは自分たちがとても危うい場所にいるということ。
だから、力を求めた。一夏と自分を守れるだけの力を。しかし、強くなればなるほど一夏とは離れ、そして『あの時』の事が頭の片隅から離れない。多分、これ は罪。自分への罰。桂が現在どうしているのかは知らない。会って謝りたい。でも、それはできない。自分のいる立場が、そしてなにより自分が許さない。だか ら、ずっとこの罪を背負っていかなければならない。
「……織斑千冬は……私と同じ顔? え? じゃあ…私は…?」
「桂」
「あいよ〜」
千冬の試合を観戦していた桂たち。しかし、途中からマドカの様子がおかしくなった。ふらふらと部屋を出て行った。桂がその後を追っていったので大事には至らないだろう。
「(まぁ、桂がどれだけ『依存』させるかで今後が決まるな)」
アイザックはマドカの事を評価はしているが、これで桂が『依存』させるまでマドカを手中に収めることが出来れば今後の命令もしやすくなる。
「(だが……色々とありそうだな)」
マドカと千冬の顔が瓜二つなのはアイザックも気づいていた。恐らく、そこには自分が知らない何かがある。
[
戻る
]
[
TOPへ
]
[
しおり
]
カスタマイズ
©フォレストページ