IS〜インフィニット・ストラトス〜 とあるはみ出し者

□第8話 ヤンデレ覚醒
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あの女は何だ? 何故、私と同じ顔をしている? いや、年齢を考えれば私『が』あの女に似ているのか? じゃあ、私は何? 双子の妹? それにしては年が 離れている。だが、年が離れていてもそっくりな姉妹はいる。でも、姉妹―――弟がいるから姉弟か?―――なら何故自分だけ『あんな世界』にいた?


「……」


考えても答えはでない。それどころか考えれば考えるほどに『自分だけ』が弾かれたように思える。


「あぁ……私が『あんな世界』にいたのはあいつらのせいか……」


「……ズゾゾゾ」


自分でも理解出来ないほどに黒い感情に支配されようとしていたマドカを正気に戻したのは、この場に不釣合いにもほどがある麺を啜る音。


「え……桂?」


振り向くとそこにはカップ麺を思い切り啜っている桂が居た。ちなみに、醤油味。


「何事かと思ったら『そんなことか』」


「―――そんなこと!? だって、私は「お前は『高槻マドカ』だろ?」え」


「い〜じゃないの。お前は『高槻マドカ』だろ?」


桂は左腕をバーナーに変形させカップ麺の容器を焼却するとマドカに笑いかけた。


「俺としては、お前と離れたくはないな」


それは桂の本心。マドカを手放したくないため、マドカを引きつけようとする。普段の言動で勘違いされる事が多いが、桂はアイザックと同じく『目的のためな らば手段は選ばない結果主義者』である。そして、『更識』内部の空気を察知して独自のコネを作った事や生活のために裏路地を支配していた事からも分かるよ うに冷静に理論的に行動することが多い。故に『マドカという結果』を手に入れるために右手を再び差し出す。


「もしお前が千冬たちのところに行きたいというなら…アイザックに頼むさ。さあ…どうする?」


この手を取るなら自分が『高槻マドカ』として受け入れる。しかし、取らないのならば『織斑マドカ』として生きていくようにする。桂の目はそう物語っている。手を取らなければ桂は本当にアイザックに掛けあってくれるのだろう。


だが、考える。自分はすでに何人も殺している。それに、今更出ていったところで自分を受けいれてくれるか? そこまで人間は優しいものか?


マドカが今まで居た『世界』は悪い意味で人間の本質が分かる場所だった。だから千冬が素直に自分を受けいれてくれるわけがないとマドカは思った。千冬の人 となりなど分からない。でも、恋人であるスコール以外を見下していたオータムや、男嫌いなのかは知らないが男というだけで嫌悪し、なにか頼む場合も見下し て『命令』するスコールを見ていると千冬も同類のように思える。マドカが見てきた『女』はそのような連中ばかりだった。


「……私は……『高槻マドカ』……だ」


もちろん、そんな人間ばかりでないのはアイザックの屋敷や実家にいるメイドなどで分かっている。しかし、彼女たちは『IS』とは関係ないため、マドカは『ISに関係する人間=スコールやオータムのような人間』という考えを持ってしまった。


だから、マドカは桂の手をとった。別に捨てられていてもいい。自分には自分を受け入れてくれる人がいる。それだけで十分だった。


「ま、寂しいとかあったら俺に言え……何とかしてやるよ」


マドカを落ち着かせるように抱き寄せ、背中をさする桂。マドカが見上げた桂の顔は自分を安心させるかのように微かに笑っていた。


「(まぁ、戸籍がないことなどを考えると下手すりゃ赤子の頃から『こちら側』だったから精神的に弱いのも分かるが……)」


だが、これはこれで構わない。恐らくこれでマドカの根幹は揺らぐことはないはず。


「(本来なら千冬もフォローすべきなんだろうが……)」


千冬が『あの事件』で左腕をライフル銃で失った自分に対して負い目を感じ、そのせいでトラウマを持っているのは先程の試合や前評判で大体察することができた。


トラウマを克服させるためには桂が出張ったほうがいいのだろうが、桂にそんな気はない。


「(住んでいる世界が違うからな)」


千冬には知り合いもたくさんいるはず。自分がしなくとも誰かがフォローするだろう。


「そんじゃ、大将のところに帰るぞ」


「うん」


腕を絡めてきたマドカの頭を撫でながらアイザックのもとへと進む桂。千冬へのフォローは自分からする気はない。千冬には悪いが、これも自業自得と思ってもらうしかない。











マドカは桂の腕に抱きつきながら笑っていた。


「(そうだ。私には血の繋がった姉や弟はいらない。桂がいてくれるから)」


それに本当に血が繋がっているとも限らない。もしかしたら、顔を似せただけの別人かもしれない。冷静に考えればそっちの方が説得力がある。


「(織斑千冬とは幼馴染みと聞いた。でも…『今』桂の横にいるのは私だ)」


桂の横で『パートナー』として隣にいるのは自分。それに、桂から聞いた話では桂の『邪魔』をしたらしい。それだけが原因ではないのだろうが、桂は千冬をあまり心良くは思っていない。


「(桂の邪魔をするなんて……)」


それに、もうあの女が桂の邪魔をすることはないはず。そう思えば、以前のあの女の邪魔も許せる。マドカはクスクスと静かに笑っていた。







「さて…戻るか」


「ん? 試合観ていかないのか?」


「総合優勝は日本代表だ。それに…仕事が入った」


「……了解。マドカ、行くぞ」


「うん」


観戦室に着くと丁度アイザックが部屋を出てきた所だった。モンド・グロッソの全日程も終了し、この後表彰式らしいがアイザックは千冬が優勝すると判断し、本国に帰国することに決めた。そして、何より『仕事』が入ったのだ。


「桂、本国に戻り次第マドカと一緒にこの男を移送してもらう」


アイザックが見せた写真。そこには一人の男が写っていた。


「あれ? 先月捕まったイタリアマフィアの弟くんじゃん」


写真に写っている男は、先月些細ないざこざで捕まったマフィアのボスの弟。その男をイタリアに連れていくのだが、組織の妨害があると思われるため、複数の 替え玉を用意してそれぞれ空路や陸路などを使って組織の妨害を防ぐらしい。そして、桂とマドカには本命の男の護送が回ってきたのだ。


「……なんか、裏かかれそうな気がする」


「というより、フラグにしか聞こえねぇ」


「まあ、政府からの命令だからな。分かっていてもどうにもできん」


アイザックとしては、ISを2機程度使って弟をコンテナにでも入れて空輸したほうがいいと思うのだが、政府からの許可がおりなかった。


「とりあえず、政府から鉄道を使えと言われている」


「鉄道事故フラグですねわかります」


「桂…縁起でもないよ」


背中に背負っていた刀を右手で担ぐとアイザックの左隣に桂。その隣にマドカといういつものポジションで三人は去っていった。













「兄さん……なんで……」


そして、それを見ていたのは次期『更識楯無』として動いていた玉櫛。彼女は兄の姿を見て安心してた。誰かの部下になっているのは予想していた。しかし―――。


「なに……あの女」


兄の隣に立って、兄に笑いかけてもらっているあの女は?


「……調べないと」


ここで任務を放棄すれば『更識』を掌握することができない。口惜しいがここは退く。だが、『更識』を掌握することができれば―――。


「待ってて…兄さん」


兄が戻ってきてくれる。玉櫛はそう決意し、去っていく三人の人影を見据えていた。

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