ILY 日常篇

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夜になってコッソリばれないように作った。
お菓子作りってのは結構な重労働なんだな。
作った後クタクタになってすぐに寝たんだけど、起きたらもう十一時の所を時計が指していた。




「アオイ、起きたか?」

『ん?トシか。
ああ、今起きた。』




突然私の部屋に入ってきたのはトシだった。
タバコを口に咥えて手にはお盆。




「ん、朝メシっつーか昼メシ。
女中さんが食えってよ。」

『そっか、わざわざありがとう。』

「どうかしたのか?
アオイが寝坊なんて珍しい。」

『いや、特に理由は無いんだが、しいて言うなら夜更かしをし過ぎた。
書類(手紙)書きがまだ終わってなかったからな、それをしてたんだ。
そしたらもう夜中で。』

「そうか。
せっかくの休みなんだから仕事の事は考えるなよ。」

『ああ、分かった。ありがとな。』




それからしばらくご飯を食べながら二人でいろいろ話してたんだけど、仕事が入ったらしくトシは出てった。

さてと、そろそろ届けに行くかな。
昨日のお昼頃に神楽から電話で、十二時三十分頃に万事屋に集合って伝えられた。
そこにお妙も来て友チョコ交換をするらしい。
銀時達にあげるチョコも持って屯所を出た。




_______
____
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「姉御、アオイ姉からのチョコはどんなのだと思うアルか?!」

「んー、きっと上手よ。
アオイさんなんでも上手くこなすから。
楽しみね。」

「ねぇ、なに?なんなわけ?
俺の前でアオイからチョコ貰って見せびらかすのかよ!
俺でも貰って無ェのになんでテメェらが貰えるんだよ!!
あーあ、俺もアオイに頼めばよかったなー。
ストレートヘアーだったら銀さんも貰えたのになァ。」




万事屋では神楽とお妙そして銀時がアオイからのチョコについて談議していてそれを新八が苦笑いしながら見ていた。

時刻は十二時三十分。
もうすぐでアオイはここに来る。
でも、来たとしてもきっと俺にチョコは無ぇんだろうな。
どうせお妙や神楽は"三人で"交換とか言ったんだろうなァ。
あーあ、俺だって欲しかったのにな……。




ピーンポーン

『こんにちは、アオイですけど。』

「あ!アオイ姉入るヨロシ!」

「アオイさん、こんにちは。」

『うん、お邪魔するな。
あ、銀時、新八もこんにちは。』

「アオイさんこんにちは。
どうぞどうぞ入ってください。」

「よぉー、ま、狭ェけど入れや。」




居間の椅子に座る神楽お妙、アオイ。
デスクチェアに密かに不貞腐れて座る銀時。
台所でお茶を用意する新八。

神楽とお妙はアオイからのチョコを待ち遠しにして眼をキラキラと輝かせた。
それを見たアオイはクスリと笑ってから持っていたカバンの中から綺麗に包装されたガトーショコラを取り出して二人に手渡した。




『お菓子作りは初めてなんだ。
だから、味はどうか分からないけど一生懸命作ったから食べてくれると嬉しいな。』

「キャッホーイ!
すっごく美味しそうアル。
食べるのがもったいないくらいネ!!
アオイ姉、ありがとうアル。」




神楽は椅子の上で飛び跳ねて喜んだ。
その様子を見てアオイも嬉しそうに微笑んだ。
神楽が思い出したようにポケットからチョコレートを出してアオイに渡した。
アオイは優しく神楽の頭を撫でてありがとうと伝えた。




「アオイさん、ありがとうございます。
初めてだなんて思えないくらい美味しそうですよ。
お店に出しても良いくらい!!

これ、私からです。
いつも卵料理しかしないから、あまり上手には作れなかったんですけど……。」




そう言ってお妙がアオイに渡したのはいつもの黒いなにか。
これにはアオイも一度フリーズしたが優しく微笑んでありがとうと伝えた。


甘い女の子特有の空気が漂う中部屋の隅では黒い空気が。
それは他でも無い銀時で、彼の目には神楽やお妙が持っているアオイからのチョコレートがキラキラと輝いて見えた。
何年も一緒にいた俺は貰えないのに、なんでここ最近会った二人は貰えるんだ、と心の中で嘆いていた。

さすがは長年の付き合いと言うべきか、そんな銀時に気がついたアオイは銀時に近づいた。




『銀時、今日私が来るのはマズかったか?』




ただ、なぜ銀時の機嫌が悪いかは分かっていなかった。




「は?なんで??」

『いや、だって銀時私が来た時からイライラしてるから……。』

「別にアオイの所為じゃ無ぇから安心しな。」

『うん……。
あ、あのな銀時。
えっと、嫌なら良いんだけど……ちょ、チョコ作ったんだ。
あ、でも銀時の彼女とかが怒るなら受け取らなくて大丈夫だし。
そ、それにお店のの方が美味しいから、えっと……。』




いきなり早口で捲し立てるアオイに一瞬ポカンと口を開けた銀時だけれど次の瞬間アオイの腰に手を回して自分の方に引き寄せた。
いきなり近づいた距離にアオイが慌てるのをクスリと笑いながら、神楽達が聞いた事の無い甘い声でアオイの耳元にそっと囁いた。




「ありがと、アオイのチョコ欲しかったんだ。」




ただでさえイケメンボイスの彼に甘く耳元で囁かれたアオイは顔を赤くして銀時の胸元を押した。

アオイは恋愛になんて全く興味がない。
だからこそこんな風に男の人と関わる事がない。
免役が無いのだ。
相手の事を恋愛的に好きで無くてもこんな風にされればドキドキするもの。

アオイは赤い顔を下に向けて急いでカバンをもって新八にあげるチョコを手に取り、



『し、新八、あんまり美味しくないかもしれないけどあげるから。』



となかば押し付けるような形で新八に渡した。
そして早口で別れの挨拶を告げると万事屋から出て行った。




真っ赤なアオイの顔を思い出しながら、右手に持つチョコレートを見つめ銀時はほくそ笑んだ。
神楽や新八、お妙に何があったかと聞かれても銀時は少し笑いながら「言わねぇよ」と言うだけだった。



さてさて、アオイちゃん、
君が俺を好きになるかなんざ分かりゃしねぇけど、まあ何より一歩前進した事には代わりねぇな。

神様なんざ信じちゃいねぇけど、まあ今日だけは感謝してやるよ。
ステキなステキなバレンタインをありがとう。


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