黒バス

□あの日の悲劇から
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あの日…


あの事故…


すべてを…絶望を味わったあの事故


もう何年もたっているのに…

あの時の記憶が


毎月あの日と同じ日に


フラッシュバックしてしまう


交差点にたったら

また、また…

事故にあって、今度こそ…

私は消えてしまうんじゃないかって


あの日轢かれた感覚なんて

当の昔に忘れたのに

轢かれたという事実が私を縛り

何年もたったというのに

いまだに私を苦しめる…





―――――――――――――――――
―――――――――――
――――――



今日はホントにいい天気だな

夕方だというのにそろそろ夏だからか

ポカポカと温かい日差しが差し込む

これから部活でテツと火神くんは私を置いて

さっさと行ってしまった


置いて行かれた私はまぁ急がないといけないわけではないから

ゆっくり日差しに当たりながら体育館までの道のりを歩いた

歩いていた途中でリコ先輩を発見したので

とりあえず先輩の元まで走って挨拶をしよう

「先輩、こんにちは」

「あぁ、澪ちゃんこんにちは」

「何見てるんですか?」

「あぁ、いろいろ足りなくてね、買いに行きたいんだけどね…」

「あ、じゃあ私買ってきますよ、そんな重くないですし」

テーピングだったりドリンクの原料だったり

そんなに重くないしそんなに量もない

だからここは後輩としてちゃんと働かなければ

「え、そう?じゃあお願いできるかしら…」

「はい、任せてください!じゃあ今から行ってきます」

更衣室に荷物を置き

先輩にお金を預かりカバンに必要なものをまとめ

じゃあ行ってきます、といえば

気を付けてね、なんて

優しいなぁ…先輩は

よし、早く行こう


ローファーに履き替え目的のお店へと歩みを進めながら

そういえば、何かを忘れてるような気がする…

思い出せないなら、そんなに大事なことじゃないのだろう

気にしないことにし、今日は天気が良いなー

なんて空を見上げた午後5時



―――――――――――――――
―――――――――――


火神くんに付いて行ったらつい澪さんを置いてきてしまった

まぁ、同じ部活だしそろそろ来るだろうと思い

今来た道を戻ろうとはしなかった

学校にいれば、大丈夫…

携帯を開き今日の日付を確認する

あぁ…何度確認しても今日は…

胸騒ぎがする、ただの気のせいだと良いのだけれど…



「―――…澪さん」


早く貴女の顔を見て、安心したい



―――――――――――――
―――――――――


5時過ぎといえど温かい日差しが身体を温め

そして、たまに吹く風が心地いい

もうすぐ大きな交差点だ

学校からここまで10分足らずだろう

近いっていいな

この交差点を渡ったらすぐそこの大きなスポーツ用品店で

あれ…

交差点?

何か…何かあったような…

そう、それは、決して忘れてはいけないもの

忘れたいけど忘れられない

忘れられないけど忘れなければいけないもの

信号が青から赤に変わった

なんだっけ…

すぐそこまで出てきているのに

もどかしい、あと少し…

交差点がどうしたんだっけ?

私は…交差点で…

赤が点滅しやがて青に変わる

たくさんの人が行き交う交差点

なんだっけ…


何か大切なことを忘れている



―――――――――――――
――――――――――


何分たっても澪さんが来ない

何かあったのだろうか…

不安を拭い去れず何度もパスミスをしてしまう

まず火神くんに心配され

大丈夫です、と答えた

次に先輩たちにどうした、と聞かれた

すみません、と謝った

流石に遅い

心配になったから、スミマセンと謝って体育館を出ようとする

出ようとしたら監督に呼び止められた

「どこ行こうとしてるの?黒子くん」

「あの、スミマセン、澪さんを探さないと…」

「澪ちゃん?あの子ならお使い頼んで今居ないわよ?」

監督の言葉に耳を疑った

「え…?」

「え?私が紙持ってたら澪ちゃんが私が行きます、て言って」

なんで、なんでよりによって今日…!

「どこに…どこに行ったんですか?」

「え?あぁ、すぐそこの大きなスポーツ用品店よ」

あそこは…

あそこは駄目だ、なぜなら

大きな…


  ―――――――交差点がある…――――



そう気づいたら身体が勝手に動いた

早く、一分一秒でも早く

澪さんの元へ行かないと


監督の僕を止める声は聞こえた

けれどそれに従うほど澪さんを放っておけない

あとでいくら怒られても良いから早く澪さんの元へ…!




―――――――――――
―――――――


練習を中断させ、体育館から出て行こうとする黒子くんを呼び止めた

少し焦っているような気がするけれど

きっと気のせいだろう

けれど黒子くんは澪ちゃんを探しに行こうとしている

澪ちゃんなら、お使いに行って今は居ない

そう伝えるとひどく驚いたような顔をした

何故?

場所を聞かれたので少し様子がおかしいな、と思いつつも

隠しているわけではないので、場所を教えると

目を見開き固まった

そして次の瞬間には走り出した

「ちょ、黒子くん!待ちなさい!」

私の静止の声なんて聞こえていないかのように

私の勘でしかないけれど、きっと何かあるのだろう

だからこそ、大事なマネージャーに何かあっては…


「火神くん!」

「――…何だ…スか」

「黒子くんについて行ってくれる?」

「は、なんで…!」

「いいから、行きなさい」

「うっ…」

笑顔で言うと火神くんはそそくさと体育館を後にした



「いったい澪ちゃんに何があるっていうの…」


2人が出て行った道を見つめながら呟いた



―――――――――――――
―――――――――


青に変わった信号でたくさんの人が交差点を歩く

やがて青が点滅し赤に変わる

赤に変わると人は誰も歩いておらず

当たり前のように車が動き出す

簡単で当たり前のシステム


だけど…そう、たしか、ずっと昔に…


    あ、


そうだ、思い出した…



交差点は…


――――私が事故にあった場所だ―――――



あ、…あれ?視界が…



視界が目の前にある大きな交差点ではなく

小さな交差点へと変わる

あまり人が渡っていない


青信号、ちゃんと確認した

右、左、もう一回右…

ちゃんと確認して渡ったのに…


       …私は車に轢かれた――


車にぶつかった瞬間ドンッという鈍い音

身体中が痛い

血が出てる、頭も痛いし

クラクラする…あれ、視界が…

私、死ぬのかな…

死にたくないな


―――――
―――

恐怖を味わった

絶望を味わった

交差点で


ぐるぐるグルグルぐるぐるグルグルぐるぐるグルグル

ぐるぐるしすぎて気持ち悪い

吐き気がする

私、生きてるんだっけ、

死んでるのかな

人が、誰も私を見てない

私、誰にも見えないのかな…

嫌だ、ヤダ、ヤダよ…テツ

テツ、テツ、

テツはどこ?どこに居るの?


「…テツ、…テツ…!」

テツが、居ない

どこにも、そう、どこにも…

あぁ、やっぱり私、死んでるのかな

ぐるぐるグルグル

目から溢れ出る涙

これが涙なのかすらわからない

頭が…回らない

テツ、ドコ…

ダレモ…イナイ…

イタイ…イタイ…イタイヨ…


ドコガ?


…ココロガ、カラダガ…

ダレカ、ダレカ…

「たすけ、―――――」


―――――――――――
――――――――


走って澪さんを追いかける

まだ…いや、もう…

それでも1分1秒でも早く…!

「おい黒子!なんで走ってんだよ!」

「っ、火神くん…!なぜ、来たん、ですか…!」

「あ?カントクに追いかけろって言われてんだよ!」

「そ、ですか、っ…」

「だから!なんで走ってんだよ!」

「―――…早く、澪さんの元へ、行かないと、いけないんです」

足を止めることなく走りながらも追いかけてくる火神くんを

邪険に扱えるわけなくて、必要最低限のどこへ行くか

だけ伝えれば、納得してくれたようだ

もうすぐ、この角を曲がれば大きな交差点が見える…!


曲がれば、目に見慣れた色素の薄い髪

「――、澪さん!」

目に入った澪さんの顔には涙が流れて

顔を歪ませ、頭を両手で押さえていた

…あぁ、また、やってしまった

火神くんは状況が分かっておらず

とりあえず、今は説明より澪さんを落ち着かせるのが優先だ

「、澪さん…!」

近付いて名前を呼べば

バッとこちらを向いた

そして僕と目が合うと目を開き

そして僕に飛びつくように抱き着いた

僕はギューと抱き着いて離さない澪さんを

人が見ていようが構わず抱きしめ返した


「澪さん、スミマセン」

「っ、や、ぅ、ぅゎ、…ふぇ、や…やだ…」

「大丈夫です、僕はちゃんといますよだから…安心してください」

嗚咽交じりに感情をぶつける澪さんに

なぜもっと早く気付かなかった、とかいろいろ後悔しつつ

澪さんを宥める言葉をゆっくり言いながら

少し身体を離し

澪さんの耳がちょうど僕の心臓に当たるようにして

心音が聞こえるよう抱きしめれば

だんだんと落ち着いて行った澪さん

そして、落ち着きを取り戻した澪さんはギューと抱き着いてきた

それを突き放すわけでもなく抱きしめれば安心したのか

ありがとう、と聞こえるか聞こえないかの声でつぶやいた

それに僕は二つ返事で抱きしめる力を強めた―――


 はい、どういたしまして





――――――――――――


これからも僕が澪さんを守ります

ずっと、この先ずっと

だから、安心してください



誰よりも大切な小さな幼馴染にむけて

誰に伝えるわけでもないのに呟いた――…








END


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