+ SantaClaus is coming to me! + (Kise Ryota)

□@話
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疑惑のマフラーは、まだわたしの手の中にある。
昨日、家に持って帰ってずっと睨めっこしていたけど、答えは出て来なかった。


聞き覚えのある声なのに、どうしても思い出せない。




キスされたのって、夢じゃないよね?
このマフラーの持ち主であり、わたしを気遣ってくれた優しい人であり、キスをした人。
いったい誰なんだろう。


それに、誰であろうとマフラーは返さなきゃ。
手触りからいって、安いものではなさそうだから。




「名無しさんちゃん!どうしたの?」


「さつきちゃん!」


同じクラスのさつきちゃんが、朝から塞ぎ込んでるみたいだけど、と声をかけてくれた。
彼女は中学最強といわれるウチのバスケ部のマネージャーで、びっくりするほど美人でモテる人気者だ。
さつきちゃんなら顔が広いし、何か知ってるかも。
手掛かりの少ない状況で、縋れるものはそんなに多くなかった。




「へぇ〜そんなことがあったんだ」


昨日の出来事を打ち明けると、さつきちゃんは年不相応なほどに色っぽい目をした。
もしかして、何か知ってる?




「それで、名無しさんちゃんはそのマフラー王子を好きになっちゃったったんだ!?」


「まさか!マフラー返さなきゃって思っただけだよ」


「ふーん...」


「何よぉ」
ずいぶんと思わせぶり、だけど。


「それなら、先生に届けたらいいんじゃない?落し物ですって」




さつきちゃんに言われて、初めてその手があったことに気付いた。




そうだ、マフラーを返したいなら、それが一番確実で、普通の手段。
あれ?でも、どうしてそんな当たり前のこと思いつかなかったの?
初めから、その考えを除外してたなんて。


マフラーを返せればいいって、それだけじゃない気持ちがあるから?




「ふふ...」


「さつきちゃん、もしかして知ってるの?持ち主」


「さぁ?どーかなぁー」


あぁんっ!もうイジワルっ!
あの表情、口ぶり、絶対知ってる。


なのに、いくら問い詰めても教えてくれなかった。




さつきちゃんがあんなふうな態度を取った理由を、授業中ずっと考えてた。


さつきちゃんといえば、バスケ部。
バスケ部といえば...100人以上部員がいるんだよね。
その中から見つけるのは、無理かも。


うーん。でも、いくらさつきちゃんとは言え部員全員と部活以外で親しいとは思えないし。
あんなふうに思わせ振りな態度を取るってことは、ただの部員とマネージャーじゃなくて、もう一歩先のカンケイっていうか、仲良しっていうか。




いろいろ考えた結果、さつきちゃんがよく一緒にいるバスケ部一軍、中でもレギュラーに絞ることにした。
確か、キセキの世代ーとか言われてるんだっけ。
ちょっと怖そうだけど、マフラーの持ち主を聞くくらいなら、話しかけて大丈夫だよね?


自分を鼓舞する台詞を何度も復唱しながら、まずはさつきちゃんの幼馴染であり、バスケ部エースの青峰くんを訪ねることにした。




寝てる。


休み時間、青峰くんのクラスを覗いたら、彼は机に突っ伏して眠っていた。
起こしたら悪いよね、どうしよう。


教室の後ろの出入口でおたおたしていると、もうひとり背の高い人を見つけた。
あの人も、バスケ部の人だ。見覚えがある。
緑間くん、だっけ?




「あ、あのっ!」


思い切って声をかけた。
一度も同じクラスになったことはないけど、真面目そうな人だし、大丈夫!


「何なのだよ」


立ち止まり振り返った眼鏡の人は、低く甘い声を響かせた。




なのだよって言った?
それに、手に持ってるのって、何?
学校に必要なものなの?...ドライヤー。


「うちのクラスに何か用か?」


律儀にわたしの前まで歩いてきてくれた彼。
た、高い...。それに威圧的で...それに、ドライヤー。




「み、緑間くんっ!」


「何なのだよ」
オレに用なのか、と眼鏡を直す仕草で気付く長い下まつげ。


擦れ違ったことはあるけど、高い位置にある顔を確かめるまでは出来なくて。
今こうして見下ろしてくれる顔は、よく整っていて理知的だった。




「ちょっと聞きたいことがあって、あの」


無言で促され、紙袋から例のマフラーを取り出す。


「これ、誰のか知ってる?」


眼鏡の奥の目が、きらりと光った。






あーあ。


結局収穫なかったなぁ。
緑間くんは一瞬ためらったあと、知らないのだよ、と答えた。


緑間くんとの初めての会話で分かったのは、彼の声がやけに美声であることと、持っていたドライヤーが「おは朝」のラッキーアイテムだってこと。
それから、ウソがつけない人なんだってこと。


あと、ひとつだけ重要なことが分かった。
マフラー王子は、緑間くんじゃないってこと。




マフラーの持ち主を知らないのだよって答えたときの彼は、完璧な位置の眼鏡を何度も直してたし、その奥の目を合わせてくれなかった。
でも、オレのではないのだよっ教えてくれたときの彼は、真っ直ぐにわたしを見下ろしていた。


分かりやすい人で、よかった。




次の休み時間、もう一度青峰くんのようすを見に行ったら、寝ていた。
また、なのか。まだ、なのかは分からないけど、とにかく寝ていたから、諦めた。


次は...うぅ、怖い。
目当ての人の教室の入り口に、立ち竦む。
まさか、こんなに早く赤司くんを訪ねることになるとは。


本当は、紫原くんのクラスに行くつもりだった。
いつもお菓子を食べてる彼とは、去年同じクラスだったから話しかけやすい。
わりと話す方だったし、仲もよかった。
大きいけれどおっとりしていて子供みたいで、きっとお菓子で釣れるって甘い考えを持っていた。
なのに、次の授業が体育だったみたいで、みんな更衣室に着替えに行ってしまっていた。


仕方なく、紫原くんのことはお昼休みに訪ねることにした。
あと、彼と同じクラスの黄瀬くんも。
黄瀬くんとは話したことないけど、紫原くん経由で質問しようと考えていた。
モデルで有名な彼には、いつも女の子の取り巻きがいる。迂闊に声をかけようものなら、彼女たちに追い返されちゃう。


せっかく二人分の完璧な作戦を考えて行ったのに、空振りなんて。




そして、仕方なく更に隣のクラスへ向かった。
帝光バスケ部キャプテンにして、学校一の天才と誉れ高い赤司くんのところへ。


一部で彼を「赤司様」と呼ぶ熱狂的なファンがいるらしい、とか。
彼にまつわるウワサは、もうウワサ話として笑って話せるレベルのものじゃなかった。
有り得ないような恐怖を煽るものまであって、はっきり言ってほぼ初対面のわたしが話しかけるには、一生分の勇気が必要なほどハードルが高い存在だ。




あ、赤司くん席にいる。
ちょっとだけ、いないことを祈っていたのに。


でも、マフラーの持ち主を見つけたいっていうわたしの意志は、自分が思っているより固かった。




勇気を奮い立たせるには、休み時間の半分を要した。


「あ」


そんなわたしの横を、なぜか緑間くんが追い越していく。
まだドライヤー持ってる。って、持ち歩いてるの?


目で追いかけていると、彼は赤司くんの席で立ち止まった。




観察すること数分。
どうやら、緑間くんは赤司くんと将棋をするためにやって来たらしい。


緑間くんは、優しかったよね。
ちょっと語尾が変だったけど、さっき会話したばっかりだし、今なら話しかけやすい。


やっと充電された勇気を糧に、わたしは窓際の席へと歩を進めた。




「またお前か。いったい何なのだよ」


緑間くんが気付いて、声をかけてくれる。
彼の目線を追いかけるように、赤司くんがわたしを見る。


宝石みたいな、赤い目。
でも、その左目は不思議なほどに色素が薄くて、魅惑的に感じた。
見詰められると、まるで全てを見透かされてるような、そんな気になる。


恐怖のウワサ話もウソじゃないのかも、と思わせるだけの人だ。




「マフラーのこと、で」


「まだ諦めてなかったのか」


「うん。たぶん、バスケ部の誰かのだと思うんだけど」
さつきちゃんの口ぶりから、ということは伏せた。


「赤司くんなら、主将だし...知ってるかなって」


さつきちゃんのことを隠してるからか、やけに後ろめたさを感じる。
相手が赤司くんだから?




「知ってるよ」


「えっ!?」




勇気を出してよかった!


それに、赤司くんの声色は思ったより柔らかで、わたしは答えを期待して待った。




あれ?この間、やけに長くないですか?


赤司くんは、感情の見えない微笑みでわたしを見ているだけ。
そして、急かす勇気が残っていないわたしは、ただ待つだけ。




「赤司」


「なんだい?」


「もうチャイムが鳴る。オレは行くのだよ」


「あぁ」




緑間くんが行っちゃう!
わたしも教室に戻らないと...でも。




「あぁ、教えるつもりはないよ」


ようやくわたしが留まっている理由を察したのか、さらっと赤司くんが言い放った。


「こんな簡単に分かったら、面白くもなんともない」




全中最強のキャプテンは、難攻不落だった。






赤司くんとの会話での収穫を、数学のノートに書き散らす。


さっきの休み時間で得た情報は、赤司くんがわたしが焦るのを楽しそうに見ていたことから、恐らくドSだということ。
マフラーの持ち主を知ってるということ。




んー...。


バスケ部の誰かのマフラーじゃないかって聞いたとき、赤司くんは否定しなかった。
そして、知ってるとも言った。


わたしの推理は間違ってなかったんだ!




答えは教えてくれなかったけど、ヒントはもらった。


恐怖体験は、無駄じゃなかったんだ。




緑間くんじゃない、赤司くんじゃない。
でも、バスケ部の誰か。


あと残るのは、いつも寝ている青峰くん。
さつきちゃんの態度から考えると、幼馴染だし一番可能性が高い、かな。
でも、さつきちゃんとはただならぬ仲な気もするから、そんなことない、かな。




そこで、思い出した。


前にさつきちゃんに、青峰くんと付き合ってるのって聞いたとき  クラス中のウワサになってたから  違うって言われた。
他に好きな人がいるって。


えっと、誰だっけ。
さつきちゃんの好きな人、バスケ部の人だったよね。


名前、思い出せない。
あの人だよって教えてもらったのに、どんな顔だったかも記憶にないほど影が薄かった。




あーっ!もうっ。
取りあえず、候補のひとりに入れておいて、あとでもう一度さつきちゃんに聞こう。




推理メモと化した数学のノートの切れ端に、幻の6人目を書き加えた。




×赤司くん(キャプテン、ドS)
→マフラー王子を知ってるけど、教えてくれない。

×緑間くん(副キャプテン、下まつげ)
→知ってるっぽいけど、教えてくれない。

 青峰くん(エース、さつきちゃんの幼馴染)
→寝てる。起きたら、聞く。

 紫原くん(元クラスメイト、お菓子)
→お昼休みに聞く、お菓子をあげる。

 黄瀬くん(モデル、取り巻き注意)
→紫原くんから聞いてもらう。

 幻の6人目(さつきちゃんの好きな人、影薄い)
→クラスと名前を確認!




今のところ、メモはこんな感じ。


可能性が消えたのは、赤司くんと緑間くん。
残るは4人。
それとも、まったく別の誰か、なのか。




わたしにキスをしたマフラー王子は、いったい誰?














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