+ SantaClaus is coming to me! + (Kise Ryota)

□A話
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結局、次の休み時間も青峰くんは眠っていて、紫原くんと黄瀬くんのクラスとはタイミングが合わないまま放課後になってしまった。


こうなったら、練習を見学しながら情報収集しよう。




そう決めて、体育館に向かった。




おおお...さすが全国区のバスケ部。
まず訪れた体育館は3軍用、次は2軍用。
確かにウチの学校は人数が多いけど、バスケ部だけでこんなにいくつも体育館使っていいのかな?


うん、たぶんOKなんだよねっ!


2階から見下ろしたコートを見て、一瞬で納得した。
まるで王様のように君臨する赤司くん。
赤司帝国、という中二くさいネーミングセンスが思い浮かんだことに愕然としながら、犇めく観客を退けて一番前に出た。




よく見れば、観客は100%女子。
黄色い歓声は「黄瀬くーん!」という甘い声ばかり。


あー...モデルの。


取り巻きだけじゃなくて、もしかして学校中の女子に気をつけないと、黄瀬くんからの情報収集は難しいかも。




あ、いたいた。


彼がボールを持つたび、ううん、彼が動くたびに歓声があがる。
確かにカッコいい。モデルだけあって背も高いし。
バスケ部の中だと目立たないけど、廊下ですれ違ったときとか、すっごく背が高くてカッコよかった。


それに、いい匂いがした。
甘い、優しい匂い。




あれ?わたし、その匂いって他の記憶にもあるかも。


思い出そうとした瞬間、階下から呼びかけられた。




「名無しさんちゃーんっ!」


「さつきちゃん!」


マネージャーのさつきちゃん。
わぁ、なんか楽しそうだなぁ。


大きく手を振って返したら、下りてきて、と手招きされた。




え?ウソ、わたし?


下りてこいって?
いやいや、この状況じゃ無理っ!


嬉しいけど、マフラーの持ち主を探すチャンスだけど、この状況でひとり下りて行ったら、黄瀬くんの取り巻きさんたちに目をつけられちゃう!!




でも、選択の余地はなかった。


一瞬迷ったわたしに対して、さつきちゃんの背後で赤司くんが口を動かす。


下りて来い、と。




はい、下ります。
だって、赤司くんの言うことに逆らったら、たぶんこの先、平穏な学園生活は望めないから。






「名無しさんちゃん!マフラー王子見付かった?」


「えっ!?ううん、まだだよ」


「そっかぁ。でも、一生懸命探してるんだよね。だって赤司くんのところにまで聞きに行ったんでしょ?」


バスケ部の連絡網、早っ!


「そうなんだけど、まだ見付からなくて」
さつきちゃん、教えてくれないかな。


おねだりを込めて見上げたら、背後で何かが落ちる音がした。




さつきちゃんは、渾身の上目遣いをスルーして、音の方に向いてしまう。




「何やってんだ、黄瀬っ!」


「スンマセンっス!」


うわ、黄瀬くんが叱られてる。
バスケ部だとこんなこともあるんだ...意外。




黄瀬くんて、何でも出来て、運動神経抜群で、特に体育の授業のときはみんなが注目してる。
その部活のエースだって適わないくらいの活躍ぶりで、それはもうカッコよくて。


それなのに、ボードを倒して叱られてる。
なんだかかわいい。




「今休憩中だから、聞きたかったらみんなに聞いてみたら?」


「え?」


「だって、まだ全員に聞けてないんでしょう?」


さつきちゃんの提案に、戸惑った。
確かにすっごいチャンスだけど、こんな大勢の前で聞くのは恥ずかしい。




「あれー?名無しさんちんじゃん」


「紫原くん!」


って、体育館でもお菓子食べてるんだ。
休憩中だからいいのかな?
赤司くんが何も言わないから、いいんだろうなぁ。




「何してんのー?」


「あ、うん。ちょっと」
見学っていうか、調査っていうか...その途中で強制連行されたっていうか。


「ふーん」


それで納得してくれるの、紫原くんだけだよ。
でも、話しかけてくれてありがとう。




「またお前か」


「緑間くん...」


一際目立つ紫原くんが立ち止まってくれたおかげで、他のメンバーも自然と集まってきた。


「あー...休み時間はお邪魔してごめんね」


「それで見付かったのか?」


「それが、まだで」


知ってるなら教えてよ。イジワル。




「ねぇねぇ、大ちゃんも聞いてあげてよ!」


「んだよ」


だるそうにしながらも来てくれたのは、やっと起きてる姿を見られた青峰くんだった。


「名無しさんちゃんね、人を探してるの」


「人?」


「そう、王子様!」




ガタン!!




「えっ!?」




さつきちゃんの声と被って、またさっきと同じ音がした。
振り返ると、また黄瀬くんが、今度はボールのカゴに躓いて倒していた。


ゴロゴロといくつかのボールが足下に転がってきて、そのひとつを拾い上げる。




「お前はさっきから何をやっているのだよ!」


忌々しいと言わんばかりの顔で怒鳴っても、ちゃんと拾って戻してあげる緑間くん。




「きーちゃん、大丈夫?」


「わぁ、桃っちごめんっ」


黄瀬くんがカゴを押しながらボールを回収してる。
拾い上げたボールを戻そうと、近付いた。




あれ?


1歩進んで、これ以上近付いたら取り巻きの人から罵声浴びるかも、と躊躇った瞬間。
憶えのある匂いに刺激された嗅覚の指示で、更に1歩を進めていた。


残りの距離は、黄瀬くんから。




話しかけるチャンス   !!




って、思ったんだけど。




こく、と、目を頷かせただけで、他のボールを追いかけて行ってしまった。




「きーちゃん!?」


気を利かせてさつきちゃんが呼び止めてくれるも、聞こえないのか振り返ってくれなかった。




やっぱり、最難関は黄瀬くんかな。
きっと女の子に話しかけられ過ぎて、おなかいっぱいなのかも。


ファンです、とか。好きです、とか。
多そうだなぁ。


この程度のことで煩わせたら、迷惑だよね。




マフラーをしまった紙袋が、急に重みを増した気がした。






「ねーねー、赤ちん」


「何だ?」


「あのさー名無しさんちんが持ってたのってー」


「ふふ、それは言うなよ」


「うーん。よく分かんないけど、分かったー」




赤司くんは知ってる。緑間くんも、知ってる。
さつきちゃんも知ってる。


ってことは、バスケ部レギュラーはみんな知ってるのかな?




青峰くんは...ちょっと怖そうだから、あとで。
まずは仲良しの紫原くんから。




「紫原くん!」


「なーに?名無しさんちん」


隣にいた赤司くんのことは極力見ないようにして、紫原くんに集中する。


「このマフラーなんだけど、誰のか知ってる?」


眠そうな目でゆったりと観察したあと、まいう棒が1本減る時間を待った。




「ごめんねー。知ってると思うけど、赤ちんに口止めされてるしー」


「えっ!?」




赤司ぃ...くん。
心の中でさえ、呼び捨てに出来ない迫力で隣に立っている彼。


なんだか、悉く調査を妨害されてる気がする。




「そう簡単には教えないよ」


「何?これって、赤司くんが仕組んだゲームか何かなの?」


「さぁ、どうかな」




違うの?


ぐず、と鼻の奥が鳴った。




なんだか、どうしていいのか分からなくて、ぎゅっと紙袋を抱き締める。
やだ、ちょっと泣きそうかも。




赤司くんは楽しんでるみたいだけど、さっきの黄瀬くんの、明らかに迷惑そうな表情に心を折られてるんですけど。




「名無しさんちゃん、せっかくだから最後まで練習見て行ってよ」


「...うん」


そんな気分じゃなくなっちゃったな。


「一緒に帰ろうよ。いっつも男子ばっかりで寂しいんだもん」


「うん、いいよ」


さつきちゃんの押しに負けて、こくんと頷いた。




バスケ部には、もう関わりたくなくなっていた。


マフラーの持ち主は知りたい。
でも、わたしの行動って邪魔なのかも、と思い始めていた。




詳しいルールは素人のわたしには分からないけど、ハードでハイレベルな練習が繰り広げられてる。
特等席でそれを眺めながら、メモを見返した。




×赤司くん(キャプテン、ドS)
→マフラー王子を知ってるけど、教えてくれない上に部員に口止め。

×緑間くん(副キャプテン、下まつげ)
→知ってるっぽいけど、教えてくれない。イジワルだけど優しくて、真面目。

青峰くん(エース、さつきちゃんの幼馴染)
→黄瀬くんを怒鳴る勇者。話は聞けてない。

×紫原くん(元クラスメイト、お菓子)
→知ってるけど、赤司くんに口止めされてて教えてくれない。

黄瀬くん(モデル、取り巻き注意)
→思ったより話しにくい。迷惑だと思ってる?

幻の6人目(さつきちゃんの好きな人、影薄い)
→未確認。




今のところ、メモはこんな感じ。


そういえば、さつきちゃんの好きな人ってどの人なんだろう?
バスケ部のレギュラーってことは、この中にいるのかな?


それっぽい人はいないけど...。
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