+ SantaClaus is coming to me! + (Minato)
□B話
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何も言えなかった。
四代目はいつも通りの優しい笑顔で、泣きぐずれてぐちゃぐちゃのわたしが見上げちゃいけないくらい、眩しかった。
黙って見上げるだけで精一杯で、何も言えない。
だって、あのケーキ見られちゃったし。
あんな恥ずかしいの
。
そして、四代目はわたしがなんで泣いてるのかも分かってる。
それなのに、笑顔を向けてくれる。
この人の優しさは、残酷なほどに深い。
「名無しさん」
落ち着いた青い瞳に射抜かれる。
今はそれが理由で動けないわたしに、大きな手が伸びてきた。
信じられないくらいあたたかくて、ふわふわしてて。
冷たく濡れた頬を撫でてくれた。
「ありがとう。オレのために頑張ってくれたんだよね」
頷くことも出来ずに、笑顔を見詰める。
ずっと見たかった、向けて欲しかった笑顔なのに、自分がそれをもらえるだけのものを持っていないことが悲しかった。
苦しくて、声が出ない。
「そんな顔しないで。おいしかった。全部もらったよ」
今までのそれでも満足なのに、それ以上の笑顔が溢れて、その瞬間に喉が動いた。
うぅ、という情けない嗚咽だったけど、このまま喋れなくなるんじゃないかって不安はなくなった。
「よん...だい、め」
「ん?」
よかった、なんとか喋れる。
帰ってください、って言える。
全部もらったなら、分かってるはず。
わたしが、四代目にふさわしくないってこと。
四代目が望んでるようなおいしいものを作れる女の子じゃなくて。
キスだって、してもらっちゃいけないんだってことを。
でも、わたしの負の想いを全部遮って、畳み掛けるように続けた。
「どうしてすぐ起きなかったの?」
質問されたら、自然に答えを探す。
そうやって、わたしからマイナスの思考を奪っていく。
「別に...盗まれるようなものないから」
ようやく見つけた答えを伝えたら、眉間に小さな横皺が寄った。
「本当に?」
「...はい」
まだ、手が離れていかない。
ずっと四代目と繋がっている気がして、そこからぽかぽかと暖かい気持ちが流れ込んでくるみたい。
「あるよね、ここに」
その手が両手になって、すっかり頬を覆われた。
目はわたしを射抜いたまま、1ミリも動かない。
ひたすら、見詰め下ろしている。
キミだよ、名無しさん。
「一番大切なものだよ」
一番大好きな笑顔に言われたら、何も言い返せなくなる。
頷きとも取れる動作で俯くと、そのまま腕の中に包まれた。
全部が、抱き込まれた胸へと吸い込まれる。
とくとくと規則的な、でも少し早い鼓動が心地いい。
「ん、ごめんね」
「なんで、謝るんですか?」
「オレの言葉に、振り回されたんだよね」
振り回された?
顧みれば、そう言えるかも知れない。
でも、嬉しかった。
いつでも四代目のこと考えて、四代目の笑顔のために張り切ってる時間は、すごく幸せだった。
結局うまくいかなかったけど、それでも。
「ごめんね、全部知ってたんだ」
「え?」
「ん、名無しさんが一生懸命頑張ってくれてること、全部だよ」
キスを奪ったあとのわたしの行動を、全部知っていたって、四代目はそう言った。
「いろいろ準備して、練習してくれてたよね。ごめん、知ってたのに隠してて」
まだよく理解出来てなくて、首を傾げるしかない。
「でも、オレのためにって頑張ってる名無しさんを見てるのが幸せで、言い出せなかったんだよ」
ごめんね、と抱え込まれて、四代目に包まれる。
あったかい、全部が。
それと、同じ。
わたしも幸せだったから。
嬉しい、幸せ。
涙に、こんな理由があるなんて知らなかった。
四代目のキスは、約束を取り付けるものでも予定を奪うものでもなくて、わたしが見て見ぬ振りをしていた気持ちに気付かせてくれたキスだった。
本当は、ずっと見えてたのに。
見えない振りをして、ただの憧れで片付けようとしてた。
身に余る恋に傷付きたくなかったから。
それを間違いだと気付かせてくれたキスは、一番のプレゼント。
クリスマス前にもらっちゃった。
止まらない涙を必死に拭う。
「ん、ごめんね。そんなに泣かないで」
「す、みません...」
「泣き止むまで、離さないよ?」
「それじゃあ...泣き止めない、です」
離して欲しくない。
ぎゅ、と締め付ける腕が揺れる。
くすくすと笑い声が落ちてきた。
「名無しさんには適わないね。本当に」
向けられたのは、特別な笑顔。
今まで見たことがないような、なんていうか...もう言葉では尽くせないほどの愛しみに溢れた笑顔だった。
また、もらっちゃった。
これも、最高のクリスマスプレゼント。
四代目は、わたしが好きなものをそれだけ持ってるんだろう。
わたしだけのサンタクロースみたい。
「今年は、今までで最高のクリスマスだよ」
「え?」
今まさにわたしが思っていたことと同じことを言われて、はたと顔を持ち上げる。
「名無しさんがいてくれるから」
それだけで、幸せになるんだよって、わたしもその言葉だけで世界一幸せな気分になれます、って。
声に出せなくても、四代目なら分かってくれる。
伝わってるんだって、笑顔を見ただけで分かった。
「今度はちゃんと、確かめさせて」
「ん...」
突然でも、強引でもない。
見詰め合って、息遣いを確かめて、ゆっくりと唇を重ね合わせる。
わたしに訪れた、わたしだけのサンタクロースと
。
end.
アンケートありがとうございました!
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