嘘つき少女ととある軍人

□夜の渓谷
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「全く……。こんなところまで飛ばされるなんて……」
「ごめんなさい……。私まさかこんなことになるなんて思わなかったから……」
屋敷からこのどこだかわからない場所に飛ばされ、先に気が付いたティアとディアナは自己紹介を軽く済ませた後、討論していた。
「私だけならともかく、マスターまでこんな目に合わせるのは納得いかないの……。だって私旦那様にものすごーく怒られそう……いえ、怒られるもの」
と、ディアナは、言葉に棘を含ませながらティアに言った。
「ごめんなさい……」
「まぁ……、謝られても今の状況が変わるわけでもないし……今は今の事だけ考えましょう?」
にっこり、とどこか胡散臭いほどの笑みをたたえると彼女は闇色のロングコートを翻し、さっさと自分の主の方に向き直った。
「マスター、いつまで寝てるつもりですかー?いつまでも寝てると魔物の餌にしちゃうよ?」
「ふざけんな!そんなことされてたまるか!……ててて」
びょん、と飛び上がりながら怒鳴る赤髪の少年――――、ルークが意識を取り戻した。
「あ、起きた」
「あんな起こし方されたら嫌でも起きるだろ!」
「……彼女っていつもそうなの……?」
「当り前よ?何言ってるの」
「お前主に対してなんだその態度は!」
「ふふ、ごめんごめん。そんなことより、マスター、どこが痛かったの?私に診せて?」
するり、と彼女がルークに接近する。
鼻と鼻がくっついてしまいそうなほどに。
「ななな、ない!!もう平気だ!!」
ルークが飛び上がる。
一方、ディアナはあきれたように立ち上がりため息を吐いた。
「……マスター、私にはマスターをお守りし、保護する義務があるの。これは仕事で遊びじゃないの。わかる?あるなら言って」
「ディアナ、悪かった……。本当に平気だから……」
「そう。素直でよろしい」
今度は恐怖すら感じ取れる笑顔を湛えるディアナ。
そんな彼女を眺めて侮れない、と思うばかりだった。
「ところで何があったんだ俺たち。てか、その女誰だよ」
「私はティア。どうやら私とディアナ、そしてあなたの間に超振動が起きたようね」
「ち、ちょうしんどう……?なんだそりゃ」
「音素同位体による共鳴振動よ」
「あなたたち第七譜術士だったのね……。うかつだったわ。だから王家によって匿われていたのね」
「だーっ!うるせーっ!うるせっつの!ちょっと黙れお前が何言ってるかこっちはさっぱりだ!」
ティアはそんな彼を無言で見つめる。ディアナはそんな二人をなだめた。
「まぁまぁ……、これから長かろうと短かろうと一緒なんだから……仲良く、ね?」
笑顔から圧力さえ感じてしまうほどの声と表情でその場を収めた。
「ったく、なんなんだよどいつもこいつも!」
「……マスター、静かに」
ルークの怒声を遮ってディアナが人差し指を自らの唇に当てて合図を送る。
「な、なんだよ」
ルークもつられて小声になる。
「ほら、ルークあれ見て」
ティアが少し先で走っている魔物を指さす。
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