Fortissimo

□動きだした時間
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「ねぇ、三和君。なーんでこいつまで一緒なの?私聞いてないんだけど」
「まぁまぁ……落ち着けって」
四人は屋上で昼食を摂っていた。しかし、涼風だけは櫂がいることに納得がいかないようで、不満げに文句をこぼしていた。
「しかもゆいにゃんと隣の席ってどういうことよ……。私だってゆいにゃんと隣の席になりたいのに……」
涼風は悔しそうに櫂を睨み弁当箱のおかずに思いっきり箸を突き刺した。
「先輩、あんまり文句ばっかり言ってるともうお弁当作ってきてあげませんよ?」
「むー……、わかった……」
いまだ納得いかなそうに弁当の中身を口に運んでいく涼風。
「……おまえ、こいつに弁当作ってるのか?」
「うん。そのかわり先輩にはいろいろ勉強教えてもらってるんだよ。……さすがに学年トップだとは思わなかったけど……」
苦笑いを浮かべながら結依が涼風を見ると彼女は櫂を見下すように見ながらふふんっ、と自慢げに弁当のおかずを見せつけた。
「うらやましい?」
「…………」
「よ、よかったらトシキの分も作ってきてあげるよ!……迷惑じゃなかったら、だけど……」
「ちょ!?ゆいにゃん!?」
「結依やるねぇ」
「いいのか?三人分も大変じゃないか?」
「大丈夫だよ。一人分増えたってそんなに変わらないから」
「そうか。ならお前の分は俺が作る」
「へ!?」
「毎朝そんなに大変だろう」
「でも……ほんとにいいの……?」
「同じことを何度も言わせるな」
そう言ったきり、櫂はそっぽを向いてしまった。
「ほんと素直じゃないやつ」
三和は三和で愉快そうに櫂を見て笑う。そんな彼に見向きもせず櫂は結依を見つめる。
彼女は、幼いころとは何もかもが違っていた。
何よりも雰囲気が変わっている。
あの幼い雰囲気はあるものの、それ以上に大人っぽくなっている。
大きなピンクトルマリンのような瞳は柔らかな色気を放つ。
しかもこれだけ可愛らしい容姿を持っていたら言い寄る男は決して少なくはないだろう。
少々の不安を織り交ぜながら結依を見つめていると、視線に気づいた結依が振り返った。
「どうしたの、トシキ?」
「いや、なんでもない」
「結依に見惚れてたんじゃねぇの?」
「えぇ!?」
頬を桃に染めてあわてる結依。
「そんなわけあるか」
三和の言葉をすっぱり否定すると、櫂は一人立ち上がり屋上を出た。
「何よ、もう帰るの?」
「……お前らといると無駄に疲れる。行くぞ、結依」
「へ!?私も!?」
「早くしろ」
「う、うん!じゃあ二人ともさよなら!」
櫂は結依を連れさっさと帰ってしまった。
残された二人――――おもに三和はぽかんとしながらもどこか嬉しそうに二人の去った後の扉を見る。
「ったく……櫂のやつ、やりやがったな」
「…………」
「先輩?どうかしたか?」
「後から突然出てきたくせに……、結依のこと何にも知らないくせに……」
下を向いたまま悲しそうに、悔しそうに、涼風はポツリと呟いた。
「お前、もしかして結依のこと――――好き、なのか……?」
「…………」
涼風はそれ以上何も言わなかった。
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