Fortissimo

□新しい日常
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「そっか、でも二人とも仲良くしないとだめだよ?」
結依はさっきとは打って変わって、ぱぁっと明るい表情で笑って言った。
「わかってるよー、もう。私だってそうしたいのにこいつがねー……」
再び涼風が櫂を憎々しげに睨んだ。
それに対して櫂は微動だにもせず、デッキを切っていた。
「ほんっと可愛くないやつ……!」
「まぁまぁ……涼風も落ち着けって……」
三和が涼風の頭を撫でて彼女を宥めた。
「ふぇ!?ちょ、三和君!私年上だよ!離せー!」
と、抵抗する涼風をよそに楽しそうに彼女の頭をわしゃわしゃとかきまわす。
「やめねぇってー」
「なにおー!」
「ふぅ……」
櫂はそんな様子を呆れたように見ると、興味を無くしたように、椅子から立ち上がり、カードキャピタルを出て行った。
「あ、あいつ逃げた!!」
「いいからいいから」
またわちゃわちゃと涼風の頭をかき回す三和だった。
涼風が三和から解放される頃にはその場に結依はいなかった。



「ね、トシキ、明日もカードキャピタル行く?」
帰り道。
夕日でコンクリートの地面が茜色に染まる。
そんな中を二人は歩く。
「さぁな」
櫂はそう返事をした。
結依はその返事を聞いて、「そっか」とだけ言った。
正直な気持ち。
結依はさっきの涼風と櫂を見てもやもやしていた。
櫂と涼風が仲良くしてほしいのは事実。
しかし、胸の中で何かがつかえるような、重苦しいような、何とも言い難い気持ちが渦巻いていた。
その正体が彼女にはしっかりとわかっている。
それは明確な。
はっきりとした、拒絶。
涼風の事が嫌いになったわけではない。
ただ、怖いだけ。
取られることが。
自分を見てくれないことが。
ただ、ただ。
怖かった。
一歩一歩の足取りが重くて仕方がない。
少しでも気をゆるませてしまえば涙が出そうだった。
あまりの自己嫌悪に。
自分の汚さに。
「結依?」
「あ……」
櫂に呼ばれてようやく虚ろになりかけた意識を元に戻す。
「どうかしたのか?」
「ううん、なんでもないよ……」
にこり、と力なく笑う。
「……何かあったなら言えよ……?俺は、お前の幼馴染なんだから」
「……うん」
幼馴染。
結依二はその言葉が胸に刺さった。
それでいい。
それだけでいい。
近づきすぎたらきっと関係は破綻する。
それでいいと言い聞かせて結依は櫂の隣に寄り添って再び歩き始めた。
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