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□手をつないだら。
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『散歩にでもいくかい?』

そう言われて、差し出された手のひらが余りにも自然だったので。
言われるまま思わずその手を握ったのが―始まりだった。






小学校最後の夏、林間学校。
最上級生なんて大層な学年になってからも、まる子の周りは相変わらずで。はまじはふざけるし、関口はいじわるだし、ブー太郎はブーブー言っていた。

それでも気の知れた仲間内、林間学校の時間は楽しく過ぎていき。
皆でワイワイと楽しかったカレー作りもその後の食事も終わり、これまたワイワイと就寝の準備をしてから―

一際高く声を発したのは、城ヶ崎さんだった。




『ねぇ、今日こそはっきりさせちゃおうよ。』


何を、とまる子は思ったが彼女達のグループ内での話だろう、とさして気に止めずに布団に潜り込む。
そうして、隣の親友に話しかけようとした時―『さくらさん』という、クラス一の美少女の声がした。



『?なぁに、城ヶ崎さん。』


よいしょ、と体勢を変えてまる子は枕に肘を置く形でうつ伏せになる。
そうするとちょうどまる子の正面に位置する場所に陣取った城ヶ崎さんは、真剣な顔でまる子を見ていた。



『ねぇ、はっきり聞くけど。さくらさんって花輪くんとどうなってるの?』
『……へ…?』


どうって?何をどうと答えれば良いのか。
困って隣のたまえに視線を向けると―少し申し訳なさそうな顔をした彼女は、頬を掻きながらポツリとこぼした。




『えと…。あのね、最近とくに…噂になってるんだよ?まるちゃんと、花輪くん…』
『え…ええっ!?』



黙っててごめんね、というたまえの言葉に驚きを隠せず、まる子は声を上げる。
噂に、なんて三年生のあの時以来じゃなかろうか。
なんとなく当時を思い出して青ざめるまる子を、城ヶ崎さんが焦れた様に突いてきた。




『ねぇったら。結局、どうなのよ。』
『へっ…ど、どうって言われても…』
『付き合ってるの?』
『ま、まままままさか!!』


慌ててブンブンと両手を振るまる子に、城ヶ崎さんとその取り巻きが疑わしげな視線を向ける。
その事に更に慌てたまる子は、必死で言葉を探して捲し立てた。




『だ、だいたい付き合うとかなんとか、あたしゃ全くまだ思い当たらないって言うか!しかも花輪くんって一体どこから…!』
『あら。花輪くん、素敵じゃない。』
『ふぇっ…?』
『人気あるのよ、彼。私の友達の学校でも有名なんだから。』


力説する城ヶ崎さんに、まる子は呆気に取られてしまう。
頭の中には、いつものキザな彼の姿が浮かんで。まさか、という思いに駈られていた。




『それにさくらさん、今だに花輪くんの家に行き来してるでしょ?』
『そっ、それは、ヒデ爺がお菓子を用意してくれてたりで、って花輪くんが…』
『私達にはもうそんなお声かからないわよ?』


ねーっ?と声を合わせる城ヶ崎さん一同。
まる子は段々と気恥ずかしい気持ちになってきて俯いた。




『だいたい花輪くん、さくらさんには昔から妙に優しいもの。さては、花輪くんの片思いって事かしら?』
『……っ!?』




まる子は、居たたまれなくなって立ち上がった。

『まるちゃん?』と問うたまえにトイレ行ってくる、とだけ残してそそくさと部屋を出る。


『逃げちゃだめよー!』という城ヶ崎さんの声に、ますます足を早めるのだった。



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