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□甘くあまい
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『最近さ、彼氏に愛を感じないんだよね。』


大学を卒業し、普通のOLとして働く私には同年代の同僚が何人かいる。
集まれば馬鹿の一つ覚えの様に男の話。学生時代でも社会人になっても、女の習性というものはそうガラリと変わるものじゃ無かった。



『愛を感じない、って彼氏に対して?』
『違う違う。彼氏からの愛を感じないってこと。』
『えー、まだ付き合ってそんなに経たないでしょ?』
『うん、もうすぐ1ヶ月くらい?』
『みじかっ』


ケラケラと笑い合った彼女達の会話が一段落して、ふと視線が着替えていた自分に向いたのを感じ、少しだけ身を強張らせる。
次に来るだろう質問を予期して―ぱたん、とロッカーを閉じながら唾を飲んだ。




『ねぇ、さくらさんは彼氏いるの?』




―ほら、きた。
どうもこの手の話題の中心になるのは好きじゃなかったけど、なってしまったものは仕方ない。
へらりと笑った私は、いつも通り『うん、まぁ…』と曖昧な返事をした。




『いるんだ!ねぇねぇ、何やってる人なの?年上?』
『えーと…普通に会社で働いてて、同い年…』
『へぇ、付き合ってどれくらい?』
『五年か、六年かなぁ…』
『えーっ!!スゴーイ!!』
『…』



見事にハモった彼女たちの歓声に愛想笑いを浮かべながら、内心スゴいと言われる事に複雑になる。

付き合った人数を競うのが普通?付き合った期間が短ければ短いほど女としては格上?




『でもまぁ、さくらさんってそんな感じだよね』
『うんうん、分かる分かる!』




勝手に話が進んでいるが、その言葉の裏に少しの優越感が潜んでいるのがよく分かる。

こんな気持ちになるのが嫌で、こんな風に考えてしまう自分が嫌で。
だから恋愛話には加わりたくないのだと―私は鞄の取っ手を握り締めた。



『ねぇ、さくらさん。その彼とは上手くいってるの?』
『愛を感じる〜?』



新しい男の話に興味津々の彼女たちににこり、と精一杯の笑顔を向けて。




『…うん、だいじにしてくれるよ。』




それだけ言うと。
キャーッ、とまた声を大きくする彼女たちに用事があるからと手を振って、私はそさくさと更衣室を後にした。




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