長編
□04
1ページ/1ページ
青年の後を、ひたすらついていく。
長く続く王宮の廊下は、いたるところに細かな装飾がなされていて、見ているだけで俺の居心地はどんどん悪くなっていった。
すると、青年が立ち止まり、目の前一室のドアをノックする。
「シン、例の子を連れてきましたよ。」
青年がそう言うと、中から短く許しが出て、青年はガチャリと扉を開いた。
入りますよ、と青年は小声で俺に話しかけてから、部屋へと入っていった。
『………ッ』
部屋に入った瞬間、複数の視線が体に刺さる。
その視線がなんだか鋭く感じられて、俺は下を向いた。
「へぇ、コイツが例の子ですか?王様。」
「うわぁ!美人さんだねぇ!」
『………。』
どうすれば良いのか分からず、シンドバッド王を見やる。
そうすれば、ニッコリ笑ってこっちへおいでと手招きする。
戸惑いながらも、シンドバッド王に近づいた。
「悪いな、急に呼び出して。」
『あ、いえ…』
「この者達は俺の部下、八人将だ。彼らを紹介したくてね。」
『八人、将……』
「ああ。」
顔をあげて周りを見回す。
シンドリアの守護天使としても名高い彼らの名は、長年部屋に閉じ込められていたエレンも知っていた。
「俺のことは、もう知っているかな?」
シンドバッド王が小首をかしげながらたずねる。
俺はコクリと頷いた。
「では、紹介しよう。君をここまで連れてきてくれたのがジャーファル。シンドリアの政務官だ。」
紹介を聞き、ジャーファルさんを見ればペコリと一礼してくれた。
慌てて俺も礼をした。
「次に、君を屋敷から連れだすときに担いでもらったのがマスルール。あのファナリスという戦闘民族だ。」
「どうも。」
『ど、どうも…』
ファナリス。
エレンも聞いたことのある民族名だった。
力の強さもあの目元も、まさかとは思っていたが、シンドバッド王の口からその名を聞いて納得した。
それから順にピスティさん、スパルトスさん、ヒナホホさん、ドラコーンさん、ヤムライハさんとシャルルカンさんを紹介された。
するとすぐにシンドバッド王が解散の指示を出し、部屋にはシンドバッド王、ジャーファルさん、マスルールさん、俺の四人だけになった。
戸惑う中、俺は一つの考えにたどり着く。
『え…皆さんもしかしてご政務中でしたか…?』
そう問えばシンドバッド王は「ああ。」と頷く。
「ある国との貿易の事でちょっと、ね。」
それを聞いて混乱し始める俺を「まぁまぁ、」となだめてから、別の話を切り出す。
「それから、君に謝りたい事があってね。」
『え?』
謝るのは寧ろこっちの方だ。
屋敷を出た時からお世話になってばかりで、自由の身にしてくれたのに、お礼の一つも言えていない。
出てくるのはやはり申し訳ないという気持ちだけだった。
「随分無理をさせたし、服も手配できなかったからな…。すまなかった。」
ハッとして、自分の服を見る。
俺の服装は屋敷から出てきた当初の、ボロボロの服だった。
今更思い出して恥ずかしくなったが、汚れた自分にはこの服で充分だと言い聞かせた。
「眠っているのを起こすのも酷なことだし、女性に対して勝手に着替えさせるのも気が引けてね…」
『そんな…俺にはこんな服で充分です…って、え?』
女性に対して。
彼は今確かにそう言った。
…どうやらシンドバッド王は大きな勘違いをしているらしい。
『あの…王様?』
「なんだ?」
すっとんきょうな顔をして振り向く辺り、本当に女だと思っているらしい。
『俺は……男です。』
「…………。」
暫しの沈黙。
そのあとに…。
「ええええええ!?」
シンドバッド王の声が響く。
相当驚いたらしく、彼の叫び声は耳がキーンとするほどだった。
「ジ、ジャーファル…気づいてたか?」
「ええ…。一人称が『俺』なあたり、もしかしたらと…。」
「じゃあ、マスルール…。お前は?」
「気づいてました。担いだとき、匂いで。」
『………。』
自分と同じ意見の人を探し、ジャーファルさんとマスルールさんに問いかけるが、二人とも気づいていたようで信じられない、と言わんばかりにシンドバッド王は口を開けて俺を見ていた。
「………………すまない。」
『い、いえ…。』
絞り出された謝罪の言葉に、俺はまた戸惑うしかなかった。