長編

□04
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青年の後を、ひたすらついていく。



長く続く王宮の廊下は、いたるところに細かな装飾がなされていて、見ているだけで俺の居心地はどんどん悪くなっていった。




すると、青年が立ち止まり、目の前一室のドアをノックする。



「シン、例の子を連れてきましたよ。」



青年がそう言うと、中から短く許しが出て、青年はガチャリと扉を開いた。




入りますよ、と青年は小声で俺に話しかけてから、部屋へと入っていった。




『………ッ』



部屋に入った瞬間、複数の視線が体に刺さる。


その視線がなんだか鋭く感じられて、俺は下を向いた。



「へぇ、コイツが例の子ですか?王様。」

「うわぁ!美人さんだねぇ!」



『………。』



どうすれば良いのか分からず、シンドバッド王を見やる。


そうすれば、ニッコリ笑ってこっちへおいでと手招きする。



戸惑いながらも、シンドバッド王に近づいた。




「悪いな、急に呼び出して。」


『あ、いえ…』



「この者達は俺の部下、八人将だ。彼らを紹介したくてね。」



『八人、将……』


「ああ。」




顔をあげて周りを見回す。



シンドリアの守護天使としても名高い彼らの名は、長年部屋に閉じ込められていたエレンも知っていた。



「俺のことは、もう知っているかな?」



シンドバッド王が小首をかしげながらたずねる。


俺はコクリと頷いた。



「では、紹介しよう。君をここまで連れてきてくれたのがジャーファル。シンドリアの政務官だ。」



紹介を聞き、ジャーファルさんを見ればペコリと一礼してくれた。


慌てて俺も礼をした。


「次に、君を屋敷から連れだすときに担いでもらったのがマスルール。あのファナリスという戦闘民族だ。」



「どうも。」


『ど、どうも…』



ファナリス。

エレンも聞いたことのある民族名だった。


力の強さもあの目元も、まさかとは思っていたが、シンドバッド王の口からその名を聞いて納得した。


それから順にピスティさん、スパルトスさん、ヒナホホさん、ドラコーンさん、ヤムライハさんとシャルルカンさんを紹介された。



するとすぐにシンドバッド王が解散の指示を出し、部屋にはシンドバッド王、ジャーファルさん、マスルールさん、俺の四人だけになった。


戸惑う中、俺は一つの考えにたどり着く。



『え…皆さんもしかしてご政務中でしたか…?』




そう問えばシンドバッド王は「ああ。」と頷く。



「ある国との貿易の事でちょっと、ね。」


それを聞いて混乱し始める俺を「まぁまぁ、」となだめてから、別の話を切り出す。



「それから、君に謝りたい事があってね。」

『え?』



謝るのは寧ろこっちの方だ。

屋敷を出た時からお世話になってばかりで、自由の身にしてくれたのに、お礼の一つも言えていない。



出てくるのはやはり申し訳ないという気持ちだけだった。




「随分無理をさせたし、服も手配できなかったからな…。すまなかった。」


ハッとして、自分の服を見る。



俺の服装は屋敷から出てきた当初の、ボロボロの服だった。


今更思い出して恥ずかしくなったが、汚れた自分にはこの服で充分だと言い聞かせた。



「眠っているのを起こすのも酷なことだし、女性に対して勝手に着替えさせるのも気が引けてね…」


『そんな…俺にはこんな服で充分です…って、え?』




女性に対して。

彼は今確かにそう言った。




…どうやらシンドバッド王は大きな勘違いをしているらしい。



『あの…王様?』

「なんだ?」


すっとんきょうな顔をして振り向く辺り、本当に女だと思っているらしい。





『俺は……男です。』


「…………。」



暫しの沈黙。




そのあとに…。





「ええええええ!?」


シンドバッド王の声が響く。

相当驚いたらしく、彼の叫び声は耳がキーンとするほどだった。


「ジ、ジャーファル…気づいてたか?」


「ええ…。一人称が『俺』なあたり、もしかしたらと…。」


「じゃあ、マスルール…。お前は?」


「気づいてました。担いだとき、匂いで。」



『………。』



自分と同じ意見の人を探し、ジャーファルさんとマスルールさんに問いかけるが、二人とも気づいていたようで信じられない、と言わんばかりにシンドバッド王は口を開けて俺を見ていた。





「………………すまない。」


『い、いえ…。』



絞り出された謝罪の言葉に、俺はまた戸惑うしかなかった。


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