長編
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ーバルバット郊外、ひっそりとたたずむ屋敷。
昼間だというのに、ぐちゃぐちゃと卑猥な音が部屋に響く。
「エレン、いいぞ...もっと...強く...」
『......。』
言われるがまま、握る力を強めれば、主人はあえなく達してしまう。
ドロリとした白濁が、頭にふりかかる。
「エレン、今日も良かったぞ。褒美をくれてやろう。」
『......。』
主人の家にはなんでもあった。
高い酒や美味い飯、銀貨や金貨、大きな宝石の装飾品、そして、たくさんの奴隷...。
その大半が女奴隷だったが、俺が主人にこんなことを命じられたのはいつだったか。
「エレンよ、やはりお前はそこらの女よりも魅力的だなぁ」
主人が居ずまいを正しながら言う。
主人の言葉が指す通り、俺は主人に気に入られていた。
「女よりも美しい」だの、「指の絡み具合が絶妙」だのと褒めちぎられたことがある。
そんなこと言われても、まったく嬉しくないのに。
『......。』
少しうつむけば、頭に降りかかっていた白濁が、前髪を伝い、視界に入る。
いつまで、こんなことをしていれば良いのだろう。
その時、コンコンというノックが聞こえ、主人が許しを出すとそのドアは遠慮がちに開かれた。
そこには重そうな足枷をつけた一人の女奴隷がいた。
主人にこんなことをされていないから、彼女はこんなに綺麗に見えるのだろうななんて頭の隅で思いながら、彼女の言葉を待った。
「来客で御座います。シンドバッドと名乗る者が、御主人様に会いたいと...。」
「何!?シンドバッドだと!?」
主人はひとしきり驚いた後、俺に「そこで待っておれ」と命じ、客間へ向かった。
俺と女奴隷の二人だけが残された。
『酷いこと、されてない?』
なんだか重く感じられた沈黙を貫き、できる限りの優しい声音でたずねる。
「酷いことなんて、そんな...。私よりも、貴方の方が辛い筈です...。」
彼女の足枷がじゃらりと揺れる。
『...腕、痛むんだろ?』
「!!」
俺はそっと、彼女の左腕を指さす。
そこには痛々しい鞭の痕。
「...貴方は、なぜ人の心配が出来るのです?」
ずっとずっと辛い筈なのに、と彼女は言った。
『確かに、辛いさ。だけど、女の子は体に傷作っちゃいけないだろ?俺みたいな辛さも、味わっちゃいけない。』
そう言えば、彼女は震える小さな声で「ありがとうございます」と言って。その場を立ち去った。
俺はそこに座り込んだまま、ぼーっと窓の外を見つめていた。
『ごめんな、守ってやれなくて。』
彼女の傷痕を思い出しながら、ぽつりと呟いた。
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