長編
□08
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ーふふっ、今日も元気ねぇ。
この日、俺はまた夢を見ていた。
この前…エレンが昼寝をしてしまった時に聞いた女性の声が、頭の中に響いていた。
相変わらず、周りは真っ暗のまま。
ーねぇねぇ!一緒に遊ぼうよ!
ふと、女性とはまた別の、幼い声が響いた。
この声もまた、エレンには誰のものか分からなかった。
ーもう……少し休ませて?
ーぶーっ!!
遊ぼう、と女性を誘ったが、やんわり断られてぶすくれる幼い声。
ーねぇ。
今度は女性が、幼い声に語りかける。
ー貴方は、----------。
この夢でも、女性が最後に何と言ったか聞こえなかった。
***
船の一室から出ると、ちょうどバルバッドに着くところだった。
目の前に広がるバルバッドの大陸を見るなり、昔の記憶が蘇る。
主人のあの目、あの声ー……。
頭の中に主人の姿が浮かぶ。
だが、すぐにシンドバッド王との出会いを思いだし、もう縛られてはいないのだと被りを振る。
しっかりしなくては。
もう俺に自由なのだから。
ふーっと息をついた時、後ろから声をかけられた。
「船に酔ったか?エレン。」
『あ…シンドバッド様』
微笑みながらも、心配そうに自分を見つめてくる王に、エレンはどうしていいか分からなくなってしまった。
「エレンは船に慣れていないからな…。大丈夫か?」
『はい、すみません…。大丈夫です。』
「ならいいが…無理はするなよ。」
ぽふり、と彼の手がエレンの頭に置かれ、わしゃわしゃとエレンの黒髪を撫でる。
少し乱れた自分の髪が頬に触れて、くすぐったかった。
「さぁ、もうすぐに着くだろう。」
そう言ってエレンの頭から手を離し、目の前のバルバッドを見つめる彼の髪が、潮風に揺れていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあれ?上陸……してないだと?