優等生の憂鬱+

□優等生の優越
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「っはは、こりゃ〜、一本とられたなぁ。流石優等生様!」
 苦笑いをしたまま、でも心から楽しそうに、そう言いつつ彼も小指を差し出して、互いに重ね合わせる。
 そんな二人の様子を眺めながら櫂は漸く箸をお弁当につけようとしていた。


「櫂! お前もしろよ」

「何故、こんな子供じみたことを」

「え? お前ら友達じゃないの?」

「!」


アイコとトシキは互いに顔を見合わせる。
こうして「二人」が対面するのは、あの出来事以来だった。
だから、今になって漸く、互いに互いを意識し始めたのだろう。
二人の間に沈黙した空気が流れ始める。
互いを探り合うかのように見つめ合っている。
とても、友達同士だとは言えそうになかった。
その時、一分が一時間にも感じられるようなこの非常に気まずい沈黙は破られた。
互いに何が起きたのか一瞬分からなかった。
――三和タイシだった。


「三和君!」

「三和!」


二人はほぼ同時に声を挙げた。


「はーい、そこ沈黙しなーい!」
三和タイシはそんな二人にお構いなしに、左手で小指を作ったままのアイコの手を掴み、右手でトシキの少し緩めている手を掴んで引き合わせたのだ。それから、互いに小指が触れ合っている感触を感じて声を挙げたのだった。

「……!」
 トシキはさらに驚きを隠せずに、目の前に居るアイコを凝視した。
 咄嗟のことで、元々小指を一本だけ立てていた彼女は、それを彼の小指に結んでいたのだった。
アイコも気まずそうに見つめるが、思わず顔を彼から反らす。
ある意味先程よりも状況は悪化しただろう。



(!……、彼も結んでくれた?)


 アイコは確かめる為に顔を上げると、確かに自分の指に彼の指が綺麗に結んであったものをはっきりと見た。
 その瞬間、彼女は自分がどんな顔をしていたのかよく解らなかったが、彼には見せられない顔だということは容易に解って再び俯く。


トシキもまた、そんな彼女の様子をどんな風に見ていたのかよく解らずに居た。ただ一つ言えるのは、彼女だけではなく、三和にも絶対に見せられない顔だということだ。
彼もまた、三和にも彼女にも見えない位置に顔を上手く反らした。
 再び沈黙が起こってしまった。しかし、先程より幾分空気は温かかった。
 しかし、現実に再び戻されることになる。

「指きりげんまん。嘘ついたらハリセンボンの〜ます。指切った!」
 相変わらず空気を読んでいるのか、読んでいないのかよく分からない三和は楽しげに歌った。
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