長編夢

□砕かれる鎖
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自身にあてがわれた部屋…もとい檻の中で壁に背を預け己が獲物である大剣をなでるルキウス









『………ん』






かすかに人の臭いがする



それはだんだん近づいてきているようだった







『(複数のお香のにおいと……草花の臭い……また夜の情事を望む御婦人方か…)』




俺は女なんだがな…


とつぶやき溜息をつくルキウス







するとコツーンコツーンと規則正しい音が聞こえてくる




『……俺に何か用か』




遠くの足音に向かって声をかける




すると声が返ってきた

「君はさっき闘技場で戦っていた少年かな?」




その声は穏やかさを含んだ男の声だった




『………』



ふと昼間闘技場でみたあの男を思い出した





『アンタは?』





そして檻の目の前に来た男はやっぱり昼間の男だった。従者を二人従えていた



「はじめまして。おれはシン。後ろは部下のジャーファルとマスルールだ」


『………ふーん(そばかすの方…臭いがしないな…何者だこいつら)』



剣を握る右手に力を込める



「簡単な話、俺は君が欲しい」



牢屋越しに手を伸ばす男・シン



『一晩のお相手をしろと?』





「そうじゃない。そもそも俺には男の子を抱くという性癖はない。俺達の仲間になってほしいんだ」


『……』


「俺は自分の国のために強い奴をたくさん集めてる。来るべき戦いに備えて、国を守るために」


『……』


「今日、あの闘技場で君の力の片鱗を見せてもらった。ぜひ、俺達と一緒に来てほしい」


『素性のわからん人間について行くほど俺はバカじゃない』


「いま名乗ったじゃないか」


『確かにあんたは名乗った。だがそれだけだ。アンタが何者かは聞いていない…まあ国を守るとか言ってるあたり、国王か領主ってとこか?』


「………」


『アンタ…何?』



「シン…」


シンと呼ばれた男の従者、そばかす童顔の男が声をかける


「大丈夫だろジャーファル」


『……』


「すまなかったね、俺の名はシンドバット。シンドリア王国の国王だ」


『……七海の女たらし?』


「ブッ…な、何をっ…」





あわてるシンドバット


その後ろでジャーファルと呼ばれた男と、たしかマスルールとかいった赤毛の男が笑いをこらえていた









「七海の女たらしではなく七海の覇王だよ!」


『だってシャヘラザードのばあちゃんがそう言ってた』


「なっ……」


『で、その王サマは国を守るために俺が欲しいんだね』


「そ、そうだ。シンドリアを守るために屈強の戦士が欲しい。あんな大きな剣をいともたやすく片手で振り回すくらいの君だ。きっと強いんだろう。だから俺達の国に来てほしい」



『………ふーん……なあお前はどう思う?』







自分の左足につけられた足枷に話しかける




「?」


それはシンドバット達から見ればいささか滑稽な情景だった



目の前の少年が自分の左足に話しかけているように見えるのだから





『…そうだね……いつまでもここにいたってしょうがねーよな………これはルフの導きってやつなのかね……』



「(誰と喋ってるんだ??…ルフの導き?)」



『なあ王サマ』


「え…あ、なんだい?」


『俺は奴隷だ』


「あ、ああ」


『それでも……いいのか?』


「君が奴隷であろうとなかろうと関係ない。俺の国に奴隷制はないし、俺は君を一人の戦士として、一人の仲間として来てほしいんだ」


『そうか』


「それに、マスルールも昔このレームで剣闘士をやってたんだ。だが今ではシンドリアの守護天使"八人将"の一人として立派にやってる」


『……』


マスルールという男の方に顔を向けると彼は軽く会釈してきたので自分も会釈を返す




そこでふと気付いた


マスルールという男の目が……







『あんた…ファナリスか?』


「…まあ…そうだ」


『……似てるな…』


「?」


『いや、なんでもない』


「で、どうするんだい?俺達と来てくれるかい?」


『いいだろう。どうせいつかはここを出ていくつもりだったんだ…アンタの国、シンドリアへ行こう』


「交渉成立だな」


牢屋越しに手を取り合う二人






「で、どうするんですか?我々は不法侵入だしこの牢屋の鍵ありませんよ?」

ジャーファルという男がシンドバットに話しかける



「それなら心配ないだろ?マスルールがいるんだsバキッ










『よっこいしょ』


普通に檻をけ破って出てきたルキウス



「え……」


『ん?』


「本当に強いんだね君」


『(半ファナリスだし普通だと思うんだけど…)』












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