長編夢
□新たな地
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ルキウスは船のマストの上に立っていた
昨日まで着ていたボロボロの服ではなく、清潔で動きやすい服だった。ただし男物
もう奴隷ではないのだから、とシンドバットが買い与えたものだった。ただし男物
それでも右腕と左足の枷と背中に背負った剣、銀のピアスだけは変わらなかった
「さびしいですか?」
マストの下から声をかけてきたのはジャーファルだった
『ジャーファルさん……いいえ、寂しいわけじゃないんです。ただ…』
「ただ?」
『奴隷として過ごしたあの大陸から離れられるんだなと思って……自由を実感してます』
「そうですか」
『ありがとうございます』
「はい?」
『俺、ずっと無気力で、なんにもやる気が出なくて、脱走しようとすら考えずただダラダラと剣奴として過ごしてきました。そんな地獄から俺を引っ張り上げてくれたのが貴方達です』
「シンの気まぐれだったんですけどね」
『でも、その気まぐれに俺は助けられた。牢屋から出て、新たな道をいま進もうとしている。剣闘士として、観客を喜ばせるためでなく、何かを守るために戦える』
「ルキウスはそれでいいのですか?」
『……なぜ?』
「他にも道はあったはずです。自分であの牢屋を壊せたんだから…あそこから抜け出して自由にやりたいことをやるという道もあったと思いますよ」
『たしかに、いつでも逃げ出すことはできたけど……でもしなかった。目的が見つからなかったから……両親や妹を探すという選択肢もあったけど……それをしようとは思わなかった』
「家族も奴隷狩りに?」
『父と母はわかりません。妹は一緒に捕まったけど、アイツはやさしそうな人に奴隷としてではなく、養女として買われていったし、俺よりか待遇は良いと思う。多分生きてる』
「会いたいとは思わなかったんですか?」
『もちろん思いましたよ……でも、アイツのためにも合わない方がいいと思う…落ちぶれて卑しい奴隷の姉がいるだなんて…恥ずかしいじゃないですか』
「そこまで自分を卑下することはないでしょう。貴方はもう奴隷じゃないんですよルキウス」
そう言うとジャーファルは一瞬でマストを登って隣にまで来ていた
「シンが決めたんです。貴方を仲間にすると。ならもう貴方はシンの仲間で私の仲間です」
そう言ってやさしく頭をなでてくれるジャーファル
『ありがとうございます』
「いいんですよこれくらい」
『ジャーファルさん母さんみたい』
「なっ?!」
『シンドリアの母』
「えっ?!」
『母さん』
「言っておきますけど私男ですからね?!」
「なあマスルール、あいつら何を話しているんだ?」
「気になるんスかシンさん」
「昨日よりかルキウスの目に明るさがさしてるからね」
「ジャーファルさんが母さんみたいだってルキウスが言ってますよ」
「ブッ なんだそれ」
「シンドリアの母…って」
「シンドリアの母!!ジャーファルが!!ハハハハハハハハ!!ついにお母さん言われるようになったかジャーファル!」