創作

□目が合わない月曜日
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「はー……」

さすが“予言者”、鬼負のねな。

転校生がやって来た!


「この時期に転校するなんて珍しいとは思うが、受験に差し障りがない程度に仲良くやれよ」

教師の言うことじゃないよな……と思うものの、
クラスでも“ノリがいい奴”数人が緩い返事をした。

大丈夫かこのクラス。

鬼負の“予言”は俺以外聞いていないらしく、教室中が軽くザワつく。


「よしっ転校生、入って来い」

ガラッ、と教室の扉を開き、廊下に向かって言う先生。

近くの席の奴が、何故か必死に覗こうとしていた……どうせすぐ入ってくるだろうに、
人は何故こうも、野次馬精神を発揮するのだろう?

よく、分からない。


「っ!」

息を吸い込む音が、俺の耳に届いた。

音源は廊下……転校生からだろうか。

と、ゆっくりとしきいをまたぎ、入ってくる少女と一瞬目があった。

ドキリ。

男の定めなのか、心臓が数拍速まる。

学校指定のセーラー服ではなくブレザーの制服の姿。

少女は俺と同じくらいの身長だろうが、背筋をピンと伸ばしているからか
心なし、もっと大きいような印象を持つ。

直毛なのか真っ直ぐハネのない髪は、ハーフかクォーターなのだろうか?
琥珀色のような、黄土色のような、日本人離れした毛色をしている。

結んだりすればいいだろうに、肩に届きそうな髪は無造作に顔にもかかっていた。

そして目。

これが一番、前述の“ハーフかクォーターなのだろうか”と思わせる原因であろう。

鮮やかな、群青色だ。

まあいわゆる、“整った顔立ち”なのだろう。

だがこの転校生、どれほどかは測りかねるが相当アガッているようだった。

カチンコチン、という擬音語が聞こえそうなほどぎこちない歩み。

室内に入るにあたり、顔を上げたはいいものの真っ赤で、
自覚しているのかすぐに少女は顔を伏せた。

そのまま自身の上靴を見ながら歩く姿は、背筋が伸びていることもあってか、
うん、まあ分かりやすく。

異様だった。


「まあ、そう緊張するな」

やっとのことで教卓横の、先生の近くまで来た転校生に先生は軽く笑いながら言う。


「自己紹介、するか?」

むしろ出来るのか?

失礼ながらに俺は転校生を見ながら予想する。

声とか、ちっさいんだろうな。


「……きう、……づ、……です」

途切れ途切れに聞こえる言葉。

うつむいたままの転校生は自己紹介(と言えるのか?)をしたようだった。

前の方の席に座る俺でも全ては聞こえなかった。

予想を裏切らない声の小ささだな。


「……あー、転校生の積雲 雨月(せきうん うづき)だ。
 おじいさんが危篤状態らしいから、気ぃ使ってやってくれよ」

転校生、積雲が全然話せないのを見切った先生は静まりかえった教室で告げた。

紹介が重い。

軽い言い方なのに重すぎる。


「先生!?危篤って!?危篤ってマジすか、先生って本当に不謹慎ですね!!」

クラスの中でもリーダー格の奴が、噛みつくように叫ぶように突っ込む。

確かに先生の言った『危篤状態らしい』という言葉は、本当でも嘘でも、
どっちにしてもかなり不謹慎だ。


「鬼負の“予言”はやっぱ当たるのか……」

じいちゃんっ子というか、さすがに危篤なら言うことを聞かざるを得ないか、なんて。

誰にも気付かれないように小さく呟いた。
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