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□シャイガールからプレゼント
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梅雨明け直後、まだ蒸し暑い夏の日には少し遠い、
生温い風が木々の隙間でくるくる回る、初夏の日のこと。
件の“ひみつきち”の中で、サファイアは頭を抱えて悶えていた。
(…………む、無理無理無理無理無理無理無理ッ!できるわけ、無かっ!)
可愛らしい水色の四角いクッションを思い切り抱き締めて――――息をもらす。
「なんで、こげんことに…………」
エメラルドをからかった過去を後悔しながらもことの発端を思い返した。
それは、数日前にさかのぼる。
***
「そういえばさ。今日はルビー、いないんだな」
「当たり前ったい!あたしとルビーがいつも一緒にいるなんち、そんなわけ無か」
梅雨明け間近なとある日のこと。
唐突にエメラルドの小ささを愛でたくなった、という本人に言えない理由で
エメラルドのもとを訪れたサファイアは、エメラルド宅のソファーでサイコソーダを飲み、くつろいでいた。
気だるそうに言うエメラルドに、ひじ掛け部分にあごを乗せたまま答えると、ふーん、と気の無い返事が返された。
気の無い返事であっても、割と二人ともがマイペースなのが要因か怒る様子もなく会話を続けられる。
案外仲良しなのだ。
「ルビー、もうすぐ誕生日なん、知ってた?」
「へー。…………プレゼント、何か用意しなきゃな。
サファイアはプレゼント、もう考えたのか?」
「うぐっ…………」
好きな人の誕生日プレゼントで、ある。
簡単に選べるほど、納得できるほどの物には、まだ出会っていなかった。
「選んでないのか?じゃあ俺が選ぶの手伝うとか、どうだ?」
「どっ、どうだじゃなかっ!あり得ないったい!却下、却下、却下!」
「そこまで拒否するなよ……」
気まずい沈黙。ずぞぞ、ストローをくわえてサイコソーダを気晴らしに飲む。
まだ開けたばかりだからか炭酸が強くて、少し気持ちをリセットできたような気がした。
「――――たとえば、エメラルドが選ぶとしたら、どんなのが欲しか?」
「俺が好きな人からもらいたいもの?
もらえるなら何でも家宝にする」
「…………」
もう一口サイコソーダを飲んでみた。
あれ、おかしいな、この気まずさがぬぐえない。
「冗談は止めといて。
相思相愛なんだし、ちゅーの一つや二つでもプレゼント、ってどうだ?」
「〜〜〜〜っ!何考えてると!!」
気づけば、ニヤニヤ笑いを崩さないエメラルド。
ちょっと小憎たらしくてサイコソーダを投げたくなったけど、年長者だからと根性でこらえる。
「何、って別に。普通なら、こーいうこと、考えるんじゃないの?」
「……………」
どこが普通なんだろうか。
反論したいが、思いが思うように口にできない。
もどかしくて、きつく口をつぐんだ。
ルビーも本当は、そんな風に思ってるのだろうか?
アイツの気持ちなんて、あたしには分からん!
頭を抱え込んでも、耳をふさいで自宅に逃げるように帰っても、モヤモヤした黒い思いはぬぐい去れなかった。