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□I love you.の訳し方
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「クリス、ちょっといいか?」

授業後の部活に向かう人や帰宅準備する人で騒がしい時間に、
いつもなら部活に一直線のゴールドが話しかけてきた。


「ん。どうかしたの?」

学級委員の仕事である黒板消しをしている時に
話しかけてきたので、彼には背を向けた状態で返す。


「……ちょっと」

曖昧な返事に、黒板に向かってまゆを潜める。
(ゴールドに向かい合ってまゆをひそめたら怒りそうだからしない
けど、これならアリ……だよね?)

一体何事だろう。


「掃除、終わったか?」

「うん、これで終わり」

ぶっきらぼうな言い方に彼らしいな、なんて思いながら言うと、
不意に私は手首を捕まれた。


「えっ、待って終わったから……ゴールド!?」

有無を言わさないようなオーラをまとうゴールドに、
言ってもムダだと分かっていながら言う。

(もう、しょうがないんだから……)

でもどうせなら、手を握ってくれればよかったのに。

そうしたら、自然な感じに手を繋げるじゃない。
(手を繋いでみたい、なんて彼女でもないからダメかもしれないけど)

小走りで後を追うように縦になった状態で進む。

(ゴールドの手、温かいな……)

ぎゅ、と伝わる熱は少し高くて。

彼なりの配慮なのか、力が緩められているのが伺えて、ちょっと嬉しい。

適度に引っ張られるこの距離感が心地いいような、
物足りないような。
(私って、欲張りよね)


「ねえゴールド、どうしたの?」

「いーから黙ってろ、って」

機嫌が悪そうな声で返して、ずんずんずんずん、つき進む。

一体どこに向かっているのだろう。

私の方を見てもくれないことに少しムッとしたけれど、
チラリと横を見て気付いた窓に写る光景を見て、口をつぐむ。

(なんか……彼氏と彼女、みたい、かも……)

私の手首を掴んで進む彼。

頬が赤い気がするのは、夕陽のせいとは思いたくない。

(私だけがあなたを想ってる、って分かってはいるんだけどね)


「こっちだ」

手をひいてノンストップで急に曲がると、階段を登り出す。

もしかして、屋上に行く気かしら?

いつもなら段を跳ばして瞬時に行ってしまうゴールドだけど、
今は手をひいているからかスローペース(当社比)。

これも優しさかしら、なんてゴールドの良いところを探してる自分に、
我ながら赤面する。

それでも速くて、つんのめりながら付いていくと
思った通り、屋上に到着した。

『入るなよ! ゴールド』と書かれた張り紙が、ドアに貼られている。

何故か新聞紙から切り取ったことが窺える文字で書かれている。

(……用事ってコレ?)

誰かに勝手にされた、とかだろうか。

先ほどまでの“恋人同士っぽい”雰囲気からかけ離れていたので
こっそりとため息をついた。

(やっぱ、これは永遠に隠し通すべき片想いなのかな……)

言わなければ、いわゆる“腐れ縁の幼馴染み”の名目で一緒にいられる。

それさえも、脆い関係だけど、
それにすがるしかない。

この関係すら壊れなければ、ずっと彼の近くにいられるから。

でもその方がずっとゴールドらしいな、なんて思う。

そんな風に考えたのに、何の躊躇いもなく彼は、ドアを
勢いよく開け放った。

(え、違うの!?じゃあ何だろう)


◇◆◇◆◇


おっとっと、と転びそうになるのをこらえ(?)て彼に向き合うと、
掴んでいた手首を離された。

少し名残惜しい気がしてしまったのは、どうしようもなく君が好きだから。

言えもしないけど、想っているから。

(君から繋がれた温もりを絶つなんて、嫌なんだ)


「あの張り紙……どうしたの?」

「あ?だってよ、貼っておかないと邪魔されるだろ?」

邪魔って何、と不安になる。

というかあの面倒な文(?)をゴールドがやったのか。
……ちょっと想像できなかった。

確かに授業後は自由解放されている屋上に、カップルがいることは多い。

ゴールドにとって張り紙は、場所取りの感覚だったのだろう。

(それにしても、なんで屋上?)

わざわざ人が来ないようにしてまで、何をする気なのだろう。


「屋上で話すなんて……赤点でもとった?」

「うっせえ、そーいうんじゃねーよ」

手持ちぶさたな手をズボンのポケットにつっこみ、ジト目で反論された。
(可愛いなんて、思ってないんだからね?)


「ええと、その。俺、今からクリスに告白しようと、思う」

「こ、くは……く!?」

何を突拍子もないことを言い出すんだろうか、彼は。

(告白って……何の、どんな告白?)

彼にその気はないだろうけど、意識しちゃうよ。

願っちゃうよ?
自惚れちゃうよ?

一瞬でも、喜んでしまう。
(そのくらい君に溺れているから)

宣言したあと、おもむろにゴールドは口を開いた。

「色々と考えたんだけどな、やっぱ、俺って何も思い付かなくて。
 自分の言葉で伝えよう、とか決めても思い付かなくて……
 でも結局、お前が好きで」

しどろもどろで言葉を繋げる。

これは長い間夢見てた風景で、
願ってもないシチュエーションで。

とくん、と胸が高鳴るのが分かった。

(好き……)

自分に向けられた言葉に赤面してしまう。

好き、好き、好き。

甘い甘いお菓子みたいな、現実味のないそれが私の中に貯まっていく。

それを彼が、ゴールドが、私に対して言っているなんて。

夢みたいだ。
(どうか夢なら、絶対に醒めないで)


「お前の言うようなマジメな奴にはなれないけど……
 俺はクリスと付き合いたい」

「!」

こんな時に名前を呼ぶなんて、反則よ。

うつむきながら、見るからに『照れています!』と主張する姿が、
ゴールドらしいような、可笑しいような、可愛いような。

できるならこれからずっと、クリスと一緒にいたい。

そんな優しいこと、嬉しくてしかたないこと、
あなたが言うなんて思ってもみなかったから。


「……私もあなたと、ずっとずっと一緒にいたい」

だから顔をあげて?

そう言うと、綺麗な金の瞳が私をとらえて。


「クリス」

私の顔を見て、くしゃっと笑った。


「愛してる」

「うん。愛してる」

ゴールドを見るのが今更だけど、なんだか恥ずかしくて。

彼の胸に顔を押しあて腕を回すと、ぎゅっと抱きしめられた。

その感覚は本物で、間違うはずなんてなくて。

ああこれは、夢なんかじゃなくて、現実のことなんだ。

(……嬉しい)

実感は全くわかないけれど、じわじわと沸く、喜び。

だって思いが通じあえたんだもん。
だって大好きなんだもん。

好き、大好き、愛してる。

こんな在り来たりな言葉しか浮かばなくて、さっきのゴールドじゃないけど
どうしたらこの想いを分かってもらえるだろう。

この想い全部を、あなたにちゃんと伝えたい。

(私の幸せ、あなたに届け!)

顔をあげて笑うと、彼もつられるように笑ってくれた。




I love you.
(あなたをいつも、想ってる)












ゴークリで甘々、だと思ってもらえると嬉しい。
頑張って甘い展開を目指した……!
ワンパターン化されつつあるゴークリ。
最悪、なんとか打開策を見いださなければ……!
ゴークリは純愛。
故に訳も直訳に限りなく近いイメージ。




→次はレイエ。
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