pkmn

□髪の分だけ近付いて
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「うわっ!?」

風が吹いたわけでもない。

ただフワリと、帽子が舞った。


「え……?」

「!?」

背後からの驚いたような声。

帽子をかぶり直そうと、後ろの人を確認しようと、大慌てでイエローは振り向いた。

ふわっ、と髪が宙を舞う。

まだ慣れないそんな感覚すら、イエローは感じないほど驚いた。


「レッド……さん………!?」

自分の麦わら帽子としか考えられない帽子を持ったまま、停止している彼。


「あ……髪、驚きました?」

見開かれた瞳に映る自分の黄の髪に気付き、笑いながら語りかける。

我ながらなんて乾いた笑い方だろうか。

(彼をおどろかせたいと、彼の視界に入りたいと、)
(願ってまで行った自分の姿なのに)

今さらながらに、恥ずかしいと思うなんて。


「切った……のか」

「はい。……どうで、しょうか」

照れながらもクルリ、とその場で回って見せるイエロー。


「突然だな……でも、」

似合ってる。

そう優しく笑いながら言われてしまえば、イエローはすぐさま赤に染まる。

(僕の気持ちに気付かないのに、どうしてこうも優しいの!)

その優しさが嬉しくて悲しくて。

泣き笑いのような、困ったような表情で礼をかえす。

(例え社交辞令でも、嬉しいものは嬉しんです)


「レッドさん」

「ん?何だ?」

ずい、と彼の名を呼びながら彼に近寄ると少し頬を赤らめながら後退した。

かっこいい彼に可愛いと思うのは失礼かもしれないけれど、可愛いと思う。

後退されたのは悲しいけど。


「今度、一緒に……」


勇気を出して誘えたのは、彼に近付けたような気がしたから。




髪の分だけ近付いて



(期待外れの視線の先に)

(あなたは何を見ていたの?)













レッドはイエローに髪を切ってほしくないと思う。
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