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□曖昧アプローチ
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※学パロ
凍るような寒さの中でも、日中射し込む光は暖かい。
昼休み、担任に頼まれた辞書を運ぶために図書室に来て、
射し込む日光の下にある机で船を漕いでいるゴールドを見つけたのは。
まさしく偶然だった。
「……ゴールド?何してるのよ、こんな所で」
クラスメイトが授業に遅れるようなことが起きては、委員長失格だ。
使命感に駆られて背を叩くと、ゴールドは『ゔゔ……』とくぐもった声でうなった。
でも、起きない。
「授業に遅れるわよ!起きて!」
図書室内なので、ひかえめに。
トントン、と連続で肩を叩くも、まだ夢の中から出きらない。
まったくもう、どうしようかしら。
途方にくれかかり、腕組みをして考え出した時だ。
「ん……クリ、ス……」
「え?」
確かに自分の名を呼んだ気がしたが、だがどうしてだろうか?
いつも『おめぇは俺の母ちゃんかよ!』と言ってくる
ゴールドの口から自分の名前が飛び出してくるなんて。
「っ、う」
しかも無意識下、寝言で、である。
思わず私は頬に手を当て、後ずさった。
***
「……って、はっ!」
どのくらいの時間がすぎてしまっただろうか?
時計を確認すると、授業開始まであと20分。
まだ余裕があって助かった。
「とりあえず……運んじゃおうかしら」
担任に頼まれた辞書を、メモを頼りに探していく。
けれどどうしても寝ているゴールドが気にかかって、少し時間がかかってしまった。
「よしっ、と……」
両腕に抱え込んで、持ち上げると思いの外重量があって少しフラつく。
未だくーくー眠りこけているゴールドの前に辞書を置き、時計を確認。
予鈴が鳴るまで後5分……急ぎたいところだ。
だけれども自分の名前を寝言呼んだ、いつもつっかかってくる男の子が寝ているのだ。
どうやって起こすべきなのか。
「ゴールドー、ねえってば、起きてよー」
ダメだ、完全に熟睡してしまっている。
学校の、しかも図書室の机に突っ伏する形で熟睡だなんて、よくできるなあと感心する。
まあゴールドならやりそうっていうか、現にやってる。
体の節々が悲鳴をあげそうな無理な体勢だ。
「もう、起きてよゴールド!置いてっちゃうよ?」
肩をつかんで前後に揺らすも、無反応。
人間ってこんなに熟睡できるものなのね、と妙に冷静に分析している自分に驚く。
早くしなければ、授業が始まってしまうのに!
「起きてよー……ねえ、ゴールド……」
顔を覗きこむと、口が半分空いていた。
気持ち良さそうに眠る姿に、眠気を誘われるがぐっと我慢!
「ゴールド!起きないとくすぐるわよ!」
「…………」
起きない。
仕方無い、宣言通りにくすぐってみた。
「こ、こちょこちょこちょこちょ!!」
「…………」
男子相手に本気でくすぐれるはずもなかった。
恋人でもないし。
………恋人?
「なっ!!??」
一瞬でもゴールドを、目の前の男子を恋愛対象として見て、彼氏にしたいと思ったことに驚く。
恥ずかしい……恥ずかしい。
それもこれも、ゴールドが私の名前を呼んだからなんだからね?
あんな不意打ち、あんまりよ。
「……ゴール、ド」
肩ばかり触っていたけれど、少し手を動かして頭の方へスライドさせる。
触っても、いいだろうか?
「……っ、いいや、寝てるし」
サラッ、と流れるように手がすり抜けた。
やっぱり。
ゴールドの髪、サラサラだ……。
「やっぱり、って私、どうしちゃったんだろう?」
寝てるクラスメイトの頭を撫でて。
自分は頭を撫でたかったんだと、知った。
どうしてだろう、ゴールドの頭を撫でたかっただなんて。
「これが、恋愛感情……なの?」
よく分からない。
好きな人なんて、好きになれた人なんて、いたことがなかったから。
これは恋なのか?
そんなことをつらつらと考えていると、静かな図書室に電子音が響いた。
「!!」
予鈴が鳴ったんだ、速く帰らなきゃ。
分かっているのに、そうするべきなのに、体が動かない。
真面目なのが取り柄で、学級委員でもあるのに。
授業なんてサボろうか、と考えている。
どうして、どうして?
ゴールドがここに、いるからなの?
「ん、むぅ………」
そのゴールドは、予鈴の音に気付いたのか薄く、目を開く。
「あれ?……マジメ委員長じゃ、ねーか……どうかした、のか?」
眠たそうに言って、くああ、と突っ伏したまま欠伸をする。
慌てて、まだ気づかれていないであろう、頭を撫でていた手を引っ込めた。
「ご……ゴールド、何でこんな所で寝てるのよ!授業に遅れるわよ!」
起きてしまったのが気まずくて、自分がしたことを隠して噛みつくように言うと、
「あ、悪いな……手伝おーと思ったのに……寝ちまったみてーだ」
くあっ、と大きく口を開け、犬のようにあくびをして。
ようやく完全に目覚めたのか、目をこする。
「よしっ……急ごうぜ?」
委員長が授業遅れちゃダメだろ、とゴールドは目の前に積まれていた辞書を片手で持って。
「ほい、」
ほんの少し、頬を染めて空いた手を差し出してきたら。
もう、反則っていうか……ズルっていうか…………あんまり、よ。
「行こうぜ」
「うん!」
手をとりあって、走り出す。
廊下を走るのはいけないことだとか、本当にあと少しで授業が始まってしまいそう、だとか。
何故かこの瞬間は、一切そういったことを考えなかった。