pkmn

□気になるカーブ
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研究所から帰る、帰り道。

いつものようにクリスタルさんを手伝って、暗くなりかけてきた頃合いを見計らい、
おいとまさせていただく。

俺だって帰るべき場所があるから、いくら帰りたくなくとも帰らなきゃいけない。

……クリスタルさんに好印象を与えたいわけでは、決して、無い。

嘘だけどさ。


「あ、このパン屋って」

クリスタルさん今ごろ何してるかな、まだあの書類の手直しだろうか。

なんて考えながら歩いていたら、可愛らしいロゴのパン屋が目についた。

クリスタルさんがお昼によく食べてるパン屋だ。

パンを取り出すビニール袋に、あのロゴが書いてあった。


「美味しいのか、なあ」

ちょっと食べてみたい気もする。

いつも食べてるのは、そういえばクロワッサンかメロンパンだっけか。

クリスタルさん甘いもの好きなんだよな、と思いつつ。

手を伸ばすけれど―――開けられない。

いや、手は届いてるんだぜ、ちゃんと!

でも買っちゃうのか?

クリスタルさんがいつも食べてる、って理由で、クリスタルさんがよく食べるパンを?


「変態みたいじゃ、ないか?」

変態。

それは嫌だ、変態になりたいとは思わない。

自分が変態だなんて、言いたか無いけど背も小さいし、コンプレックス増やしたく無えよ!

ドアノブに手をかけたまま停止。

自分の現状にハッと気づいて慌てて後ずさった。

ヤバい、営業妨害だし何より恥ずかしすぎる。


「………あー、あ」

しかし一度想像してしまっては気になってしまうもので。

未練がましいけれど窓からパンを覗いてしまう。

欲しいなあ、だけど、ちょっとなあ。

変なプライドを張ってるだけかもしれないけど、俺からしてみれば死活問題だ。

明日からも元気に下心なく……これは少し保証できないけど。

ともかくまあ、普通に接することができなくなりそうだ。


「あの人は、好きな人がいるわけだし」

好意にすがって、そばに居続けてるだけの俺。

幸せなんだ、あの人を手伝える現状が。

だけど人間というものは。

浅ましく愚かで。

どうして彼女の思い人が自分じゃないのだろうか、なんて。

どうしようもないことを考えてしまう。

その思いがひょんなことから漏れそうで、こわい。

変態とか置いといて、パンなんか買ってしまったら、自分はどれだけあの人が好きなんだろうかと。

嫌でも自覚をしてしまいそうだ。

諦めて、帰ろう。

息をひとつ大きくついて、パン屋に背を向けると、顔面に広がるは、
いたずらっ子のような自分と同じ地方の図鑑所有者で。

なんでここに。

そう俺が言うより早く。


「何してるの?」

満面の笑みで尋ねられた。




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