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□綿毛の夢
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今日は出張で、シンオウのナナカマド博士の所まで重要書類を運んで、
珍しいシンオウのポケモンを捕まえて。

ジョウトに戻る最後の定期船に慌てて乗り込んだのが午後八時だったから、
家に着くには日付をまたいでしまうだろう。


「あー、……あんまり捕まえられなかったわね……」

肩にかけるタイプのかばんに、目一杯詰め込んできたモンスターボール。

大方捕まえたけれど、何だかちょっと不完全燃焼気味で気持ち悪い。

ジバコイルとかユキメノコとか……捕まえたかったなあ。


「今さら悔やんでも、仕方ないか……よし、寝よう!」

甲板から戻り、仮眠室に向かった。









予想通り、アサギシティに着いたのは午前二時を少し過ぎたあたりだった。

草木も眠る丑三つ時、っていうし、ちょっと怖い。


「そんなことも言ってられないか……ネイぴょん、お願い!」

自宅に向かうためにネイぴょんに頑張ってもらう。

ごめんね、こんな夜中に……でも、家に帰りたかったの。

だって今日は、私の誕生日なのだから。

もう日付をまたいだから、完璧に『今日』といえる。

旅をしていたこれはまだしも、していないのに自宅で誕生日を迎えられないのは
中々寂しいものがある。

私の場合、親と不仲なわけでもないしね。


「ねむ…………ネイぴょん、ごめんね」

大丈夫だよ、と言うかのように翼をいっそう、強くはばたかせて。

力強く闇を進むネイぴょんは、凛々しかった。


「…………?」

と、そんなことを暢気に考えていると、柔らかな白色が、視界の隅で見てとれる。

月明かりだけが頼りの中、目を凝らして辺りを見渡すと、
気づかなかったけれど一面に、敷き詰めたかのような綿毛が飛んでいて。


「うわあ……っ!ワタッコの大移動だわ……!」

風に揺られて、ゆらゆらと。

ふわりふわり、舞いながら一様に空を移動していく姿を眼下に見下ろす。

なんて素敵な眺めなんだろうか。

一年に一度、理由は不明と言われているけれど、
大移動をするワタッコはジョウトでは有名だ。

滅多に見られるものではない。

真夜中から明け方にかけて行われるから、
実際に見た人は幸せになれる、なんて言い伝えがあるほどだ。


「…………あ、」

ひゅおう、と一迅だけ、強い風が吹いた。

綿毛が、私のいる上空まで舞い上がる。

その様子は刹那の間のみ見られることができるだろう、絶景で。

生きているうちに、どれだけの人が目にできるかも予測できない、佳景で。

見ることができたのは、偶然が重なってのことで、きっともう二度と出会えない。


「すごい、キレイ…………!」

黄金に輝く月明かりに照らされて、風に操られるように揺れながら上っていく綿毛たち。

ネイぴょんがはばたけば、その振動だけででも影響を受け、
美しい無作為な列を乱してしまう。


「あっ、ちょっ、ネイぴょん!?」

高度を下げ出してしまうネイぴょんに驚いて変に高い声が出てしまう。

ひゅおおっ、と思い出したかのように強い風が2、3度吹いて、
跡形もなく消えてしまう綿毛たちを頭上で見つめながら、私は自宅に降り立った。
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