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□綿毛の夢
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あの素晴らしい景色が、目をつむればよみがえるようで。

いまだに、ほう、っとしてしまう。


「…………って、あれ?」

自分の家の玄関に、座り込んで眠りこけている男子二人。

何してるのよ、全く。

自信過剰かも知れないけれど、自分の帰りを待っていてくれたのかも、しれなくて。


「もう、二人とも!起きてよ!」

嬉しさで緩む頬を必死に食い止めながら、揺すり起こした。


「んだよ、クリスか…………って、あっ、てめっ、オイ、シルバー!?」

「…………何だ、騒々しいな」

「『何だ』じゃねーよバカ!何でてめえも寝てんだよ!?
 クリスに起こされるなんざ、本末転倒じゃねーか!」

「……すまない」

「ええっ!?妙に素直だな!?今日はそういう感じなのか!?」

オロオロとしつつも大きな声でまくしたてるゴールドは、
確実に近隣の皆さんの安眠の妨げになっていた。

「とりあえず、家の中に入らない?」








「で、二人は何してたの?」

「いや、そのだな、えーっと。シルバー、頼んだ!」

「クリスの帰りを待っていた」

「間違いではないけれども!!」

朝早くから漫才のような会話をしていた。

元気ね、それに、何年経っても変わらないようなやりとり。

思わず、笑ってしまう。


「誕生日、おめでとうな」

「…………うん」

「本当は帰りを待ってたんだけどよ、寝ちまって」

あはは、と笑いながら言うゴールド。

ゴールドらしくて、私もつられてまた、笑ってしまう。

せっかく収まったのに、何よ、私を笑い上戸にしたいの?


「ゴールドと俺から」

黙っていたシルバーが小さめの箱を取り出して、くれた。


「ありがとう!開けて見ても、いい?」

「へっ!ぜってー喜ぶぜ!シルバーと俺とで、考えたんだからよ!」

やけに自信満々なゴールドだけど、ハードル上げすぎて泣きを見ても知らないわよ?

小さな星がまばらにちりばめられた包装紙を丁寧に開けていけば、
白色の箱に行き着いた。


「あ…………」

箱を開けるとあったのは、小さな小瓶がぶら下げられた、ストラップ。

瓶の中には綿毛がほわ、と入っていた。

蛍光灯に透かしてみると、美しさと儚さが際立つ気がした。


「どうしたの?これ」

「へへっ、だから『考えた』っつっただろ?」

考えた、って文字通りにオリジナルに、考えたってことだったのね。

選ぶのを考えた、って意味だと思って……受け流してたわ。


「知ってるだろうが、この時期になるとワタッコが、いっせいに移動し出すんだ」

「ええ、有名よね」

シルバーの言葉に、うなずく。

私も偶然、初めてさっき見たのだし。


「その大移動、近頃は時期を予測したりしてさ、そんな珍しくなくなってきてるんだよ」

「そうなの?」

割り込んできたゴールドに驚く。

文明の発達は、いい方向にのびているのやら、悪い方向に助長されているのやら。


「でな、そんなせいで近頃は、こんなジンクスが広まってんだよ」

「ワタッコの大移動で最初に舞った綿毛を持っていると、幸せになれる」

ゴールドの言葉をシルバーが継いで、瓶に視線を集めた。


「結局は噂に乗っかったわけだけど、大変だったんだぜ?
 色んな場所でワタッコの様子を監視して」

ふう、とおどけてみせるゴールド。

見ると、ゴールドの靴もシルバーの靴もドロドロだ。

深い森にまで入っていって、粘ってきたのだろう。


「ありがとね、二人とも」

少し誇らしげに、二人は笑った。
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