激撮!少年少女の長い旅。

□撮影開始!
2ページ/10ページ




辺りをキョロキョロと見回す。

挙動不審なわたしを安心させようとしてか、ルースさんが片手を振っているのが見える。


「音響、スタンバイオーケーです」

「撮影始めます」

「3カウントで始めますね」

「では、5、4、」

次からはカメラマンさんの横にたつ男の人が、手を3本立てる。

2、1と立つ指は一つずつ消えて。


「さあ今回が初回になります『激撮!少年少女の長い旅』ですが……」

マイクを持ったルースさんがハイテンションで話し出す。

今回の企画、とことん経費を落としているらしい。

その分『出演料』としてお小遣いが支給されるから、嬉しいけれど。

と、カメラが寄ってくる。


「こちらがズイタウンから旅にでることになりました、
 あの『ガレロス新聞社』の一人娘!
 オレンジ=ローク=ガレロスさんです!」

「ど……どうもー……」

話を振られて驚いたけれど、営業用の愛想笑いを顔に張り付け、
必死でひらひらと手を振る。


「オレンジさんは今回の旅で、ジム戦に挑戦してもらうわけですが……
 ポケモンはお持ちですか?」

「あ……も、持っていません」

そうだったこの番組、ジム制覇の旅だったのに!

わたしは一体も、ポケモンを持っていないのだ。

なんということでしょう、なんてね。


「ああ、大丈夫ですよそんなに慌てかなくてもー」

人のいい笑顔で笑うルースさん。


「今回は私どもが『全面的にサポート』させていただきます!
 なんとあのシンオウ地方のポケモン学専門学者のナナカマド博士に
 今日は、スタジオにですが来ていただいています!
 スタジオのナナカマド博士ー!」

ナナカマド博士!?

そんな有名人がでるなんて……。

改めて事の大きさを思い知り、恐れおののく。

あれ、経費がとことん落とされてるって言ってたんだけど……。

こんな所にいて、いいのか、わたし……。


『はい、ナナカマドです』

厳かな、威厳を感じさせる声がカメラ越しに響く。


『そうか……君がオレンジくんだね。
 君には君のご両親との相談で、最初のポケモンが決めてあるが……いいかな?』

「あ……ああああああっ!いいですっ、全然っ!」

緊張しすぎて、舌が上手く回らない。

噛みそうだ、ヤバイヤバイ。


「はい、こちらがオレンジさんの最初のポケモンです!
 どうぞ、受け取ってください!」

別の番組関係者から、普通のモンスターボールを受けとる。

真ん中のボタンを押すとカチッ、と小さく音がした。

ぽんっ、と軽やかな音と共に白い光が放たれる。

わたしの最初のポケモン……。


「えるぅー!」

そこにいたのは、緑色の見るからにのんびりしているポケモン。


『このポケモンは、わかばポケモンのナエトル。
 くさタイプの初心者用ポケモンだ』

ナナカマド博士が説明をしてくれる。

が、悪いけれどわたしにはさっぱり分からない。

そもそもどうでもいい。


「……オレンジちゃん、このナエトルにニックネームを付けてみないかい?」

難しい顔をしていたわたしは、ルースさんに尋ねられた。


「ニックネームですか?」

「ああ。そのままでも別に構わないけれど、ニックネームを付けた方が、仲良くなれるんだ」

そうなんだ……。

でも確かに、『ナエトル』って種類の名前だもんね。

『人間』って呼ばれるのと同じようなもの、かもっ!


「じゃあ……えっと君の名前は……」

『そのナエトルは♀だぞ』

ナナカマド博士が不意にアドバイス(?)をしてくれる。

♀ってことは女の子。

だったら可愛いニックネームを付けてあげたいな。


「じゃあ………」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ