激撮!少年少女の長い旅。

□溶かされた氷
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「くうかんとは すべての ひろがり そして こころも くうかん……
 じかんとは とまらないもの かこと みらい そして いま……」

促されるまま壁一面に彫られた大昔のポケモンらしきモノの
近くに刻まれた文字を読み上げると、長老様はうなずいた。


「みんな知ってる通り、シンオウ地方にはこの2匹のポケモンがいて、
 それぞれ時間と空間の象徴としていたようだからねえ……」

だから遺跡の入り口に描かれているのかもしれない。

そういえば、と思い出したように続ける。


「私の孫はシンオウの神話について研究してるんじゃ。
 ポケモンと人は神話が作られた時代からどんな風に付き合ってきたのか。
 今と同じなのかそれとも違うのか、それがテーマなんだそうじゃ」

「難しそうですけど……楽しそうなテーマですね」

わたしも時間があったら調べて、満足するものなら新聞に載せたい。


「そのお孫さんは、今どちらに?」

尋ねると長老様は下手なウインクを1つした。


「お前さんがトレーナーでいるならば、いつか会うじゃろう相手だよ」

誰だろう?

考えても分からず、何度も聞いてみたが長老様は教えてくれなかった。


◇◆◇◆◇



遺跡の中に足を踏み入れると、
どこからか冷気が漂うような神聖な雰囲気に怖じ気づいた。


「うわあ……」

「おそらくこれは、ユクシー、アグノム、エムリットの3匹と推測されているんだ」

壁画を杖で差しながら語る長老様。

それだけ言うと『気がすむまで見るがいい』と言ってくれて、出ていった。

しん、と静まり返る薄暗いなかに、壁画が生えて見える。


意思の神、アグノム
知識の神、ユクシー
感情の神、エムリット


わたしの住むズイタウンからは湖にいると言われる3匹とは無縁。

旅する間に会えたらいいな、なんて都合がよすぎることを思った。

あ、クサキにも壁画を見せてあげようかな。


「きれいだな……ね、クサキ」

ぽんっ、とボールから出したクサキに話しかける。

バトルでも何でも無いときに出すのは久しぶりだ。


「えるっ!?」

びっくりしたように外気に身を震わせるクサキ。

寒かったかな?……確かに、寒いけど。


「歴史的なことをもっと調べてこれば良かったな……
 どういう経緯で造られて、どういういわれがあるんだろう」

ほう、と息をつくとその息が白く見えて驚いた。


「クサキ、ほら、見て!ここ、そんなに寒かったんだ……」

気付かなかったからマシだったのか、気付いてから寒気を感じた。

パーカーの袖をひっぱって手を隠し、はーはーと息を吐いて温める。


「クサキもボールに戻る?」

「えるるっ」

嫌だとでも言うかのように首を振るクサキ。

壁画が好きなのかな……そうならちょっと嬉しい。


「この中央の光る赤いもの……何だろうね」

クサキも首を傾げた。やっぱり分かんないよね。


「―――へえ、嬢ちゃん」

びくっ、として背後を振り替える。

背筋を曲げてもなおわたしを見下ろす長身の男の人が立っていた。


「!?」

ここ数日トレーナーから不意にバトルをしかけられることも多かったせいか、
自然と手がボールに伸びる。

クサキはすでに外にいるし……でも勝てるかな?なんて考えてから。


「どちら様ですか?」

誰も彼もがトレーナーなはずはないだろう、と思い直した。

現に“トレーナーなら目と目が合ったらバトル!”と聞いたけど、
目が合ってからも男の人に動きはない。


「嬢ちゃん、随分とここに詳しいみたいだな――通ってんのか?」

「いえ、観光です……」

恐る恐る答える。なんだこの人。

ここ最近、巷で言われているいわゆる“フシンシャ”さんだろうか。


「大丈夫ですか?薄着ですけど、ここ、寒いですよね」

相手を気遣いながらも間を持たせようと話しかけると、男の人は形相を変えた。


「寒い?ここが?どうしてそう思うんだ?」

「え………と、」

じりじりと近づいてくる男の人に、思わず後ずさる。

何も、考えられない。上手い答えなんて見つからない。


「なあ、嬢ちゃん……答えろよっ!!」

ぽんっ、と場違いなポップな音と共にボールが開き、




中からポケモンが現れた!
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